Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.30
日本緩和医療学会ニューズレター
Feb 2006  30
Current Insight
ケタミンの麻薬指定決定に関して
国立がんセンター中央病院麻酔・緩和ケア科  下山 直人
 2005年の11月頃にケタミンが来年度より麻薬指定となる話題によって、緩和医療関係者に一瞬衝撃が走った。製造中止となる訳ではないので、10%キシロカインの時とは事情は異なることではあるが、この規制によって影響をうける疼痛専門家はかなり多いと考えられ、それに対しては緩和医療学会での指針を示す必要があると考え筆を取った。
 麻薬指定になることは、ケタミンによって何らかの社会的な事件が多発していることを受けてのことと認識せざるを得ない。本来、ケタミンの副作用は幻覚であり、米国ではcontrol drugとされているフェンサイクリジンの誘導体としてすでに古くから薬物依存の関係が指摘されていたことは事実である。しかし、我々麻酔医出身者は、ケタミンを20年以上前から全身麻酔剤として使用し、ある時には肝切除麻酔の中心的な薬剤、現在でもショック時の麻酔、喘息患者の麻酔導入薬として信頼できる薬剤として使用しており、緩和医療領域においても、持続静注、皮下注法でホスピスを含め神経障害性疼痛に対して頻繁に使用されており、現在でも重要な薬剤の一つである。
 一方、一部の病院で慢性の神経障害性疼痛に対して院内特殊製剤としての経口投与が開始され、経口投与を裏付ける研究もあいまって、がん性神経障害性疼痛に対しても経口投与が行われるようになってきた。しかし、医療者の意図に反して、非合法的なケタミンの使用が、最近特に外国からの輸入製剤を中心として社会的な問題を引き起こしている。今回の麻薬指定はその影響を受けてのことであると考えられる。これに対しては、ケタミン経口投与の裏付けを作ってきた一人として1)2)3)、臨床現場でのがん性疼痛に対するケタミン投与に関する臨床的な指針を作っていく責任があると考えている。
 米国では神経障害性疼痛に対しては、特効薬的なギャバペンチン、プレギャバリンがすでに発売されており、ケタミンが神経障害性疼痛に対して経口で投与されることはほとんどない。ケタミンに代わる神経障害性疼痛に有効な薬剤が存在することがケタミンの需要を減らすことにつながることは明らかであるが、このような負の考えよりも、ケタミンの有効性を明らかにし、役割を明確にしていくことこそ麻薬指定薬に対する真の対応ではないかと考える。
 耐性に対する作用、オピオイド鎮痛効果の増強作用、そして経口においてはノルケタミンという鎮痛補助薬として優れた代謝産物を産生することを考えても、NMDA受容体拮抗薬の役割は現在でも捨てきれないと考えている。イフェンプロジルがあると主張する医師もいるが、それこそ有効性に関しての基礎的な研究は十分ではなく、臨床研究においては高いエビデンスは示されていない。ケタミンが麻薬指定となった上は、臨床的な有用性を示す責任はもっと高まっていくので、緩和医療学会が中心となり多施設共同試験を含めた臨床的なエビデンス作り、効能拡大を早急に始めていく責務があると考えている。この場を借りて、臨床研究への積極的な参加者を募りたい。

「参考文献」
1) Shimoyama M, Shimoyama N, et al: Oral ketamine produces a dose-dependent CNS depression in the rat, Life Sciences 60(1):9-14, 1997
2) Shimoyama M, Shimoyama N, et al: Oral ketamine is antinociceptive in the rat formalin test: role of the metabolite, norketamine, Pain 81:85-93, 1999
3) Shimoyama N, Shimoyama M, et al: Ketamine attenuates and reverses morphine tolerance in rodents, Anesthesiology 85(6):1357-1366, 1996

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