Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.29
日本緩和医療学会ニューズレター
Nov 2005  29
書評
病院で死なないという選択−在宅・ホスピスを選んだ家族たち
著者 中山あゆみ/集英社新書(2005.7.20、660円)
自宅で死にたい−老人往診3万回の医師が見つめる命
著者 川人 明/祥伝社新書(2005.8.10、740円)
千葉県がんセンター整形外科  安部 能成
 最近、質量ともに充実度が増している新書版において、緩和医療に関係の深いものを取り上げたい、と考えていた。新書は分量、価格とも手頃で、ひとつのテーマを掘り下げるのに利便性が高いからである。今回の書評は、この夏に相次いで世に出た2冊を立体的に読み込んでみよう、という試みである。
 前書は、女流ジャーナリストの手による、自宅で家族の最期を迎えた10家族の報告である。医療専門職から見れば素人であるジャーナリストが、客観性を踏まえながら家族の立場から、在宅による看取りを実践された御家族に取材した貴重な記録である。そこで語られているのは、決して死に方の問題ではなく、看取られるまでの生き方、という一つの個性であろう。この場合、たしかに、当事者の経験談が一事例に過ぎないことを思うとき、10症例は桁違いの情報量といえる。けれども、年間60万人以上が、がんの診断を受け、30万人以上が亡くなっている日本の現実を見ると、いかにも10家族は少なく、数的にも心もとない。むしろ本書の価値は、医療ジャーナリストの観点から現象を切り取り、当事者である患者・家族と医療専門職の双方に問題を投げかけた点にあろう。
 後書は、下町に根を下ろして20年余りになる医師が、在宅を中心として3万回に及ぶ往診の結果として看取った経験から、在宅医療の現在と今後の課題を世に問うたものである。なるほど、ここでは分析の視座は専門職に固定されている。その数的裏付けも20年余りの歳月と、3万回に及ぶ往診の実践がある。したがって、前書のような数的心もとなさはない。在宅医療の専門家の目を通して現実を見つめているので、緩和医療に従事している立場の者には学ぶべきことも数多く記されている。しかしながら、その観点は医師の立場に固定され、もう一方の当事者からではない。このことは決して欠点ではないが、ひとつの限界点を構成することも否定できない事実である。
 そこで、この2書を比較検討することにより、在宅問題を立体的に捉えようとする視点が生まれる。前者には素人の立場を、後者には深い経験を学ぶ。その際、大切なことは、かつて中川米造が指摘していた、医学の歴史における末期医療の位置づけ、を想起することであろう。それによれば、侍医の医学や病院の医学には末期医療がなく、開業医の医学や社会の医学に末期医療がある、という指摘である。ホスピス緩和ケアが施設中心に展開してきた我が国において、職員主導にならざるを得なかった現実を踏まえるとき、今後の在宅末期医療を重要な選択肢の一つと考えるなら、このような分析方法も再検討されるべきであろう。そのためにも、2冊を同時並行的に読まれることをお勧めしたい。

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