Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.29
日本緩和医療学会ニューズレター
Nov 2005  29
イブニングセミナー
緩和ケアと疼痛マネジメントの進歩
演者 : Memorial Sloan-Kettering Cancer Center Nessa Coyle, RN, PhD, FAAN
司会・報告 : 静岡がんセンター 緩和医療科  栗原 幸江
 学会初日のイブニングセミナーでは、Memorial Sloan-Kettering Cancer CenterのPain and Palliative Care ProgramのディレクターであるDr. Nessa Coyleにより、特に疼痛マネジメントの領域で、種々のプログラムを立ち上げ、教育・啓発を推進してこられたご自身のご経験を踏まえてお話いただいた。
 症状緩和は緩和ケアの根幹をなす重要な領域であるが、緩和ケアが対象とする種々の身体症状の中でも最も研究が進んでいる領域として「痛み」を取り上げ、疼痛マネジメントの進歩の軌跡について述べられた。新薬の導入、薬物動態の理解、オピオイドローテーション、投与経路の変更など、疼痛マネジメント技術は着実に進歩をとげてきたが、にもかかわらずほぼ30年たった現在においても「不十分な疼痛コントロール」は引き続き重大な問題であることにも触れられた。知識や技術の進歩「にもかかわらず」国全体では「痛みのコントロールが不十分」とされる背景には、1)痛みに対する医療スタッフの知識が十分でない、あるいは態度が不適切である;2)患者や世間一般に鎮痛薬に対する誤解がある;3)疼痛マネジメントがシステムとして医療機関で十分に取り入れられていない;4)法的規制が足かせとなる、などがある。そしてこうした問題の是正には、各医療機関がきちんと疼痛マネジメントをシステムとして導入することが重要であることが示唆された。具体例として、氏の勤務するスローンケタリング・キャンサーセンターにおける疼痛マネジメントプログラムの導入についてお話いただいた。
 全米疼痛協会(American Pain Society)によるガイドラインを元に、1)痛みの動向を的確に早急に認識するために、患者の検温表に疼痛評価を加える(現在の痛みの有無と程度、過去12時間の痛みの有無、現在の鎮痛に対する患者満足度);2)アルゴリズムの作成;3)各病棟における鎮痛薬の換算表の掲示やイントラネット上の情報提供;4)疼痛アセスメントの徹底や疼痛緩和についての患者教育用資料の提供;5)各病棟における疼痛コントロール機器の配備とトレーニング、およびプログラム運用の促進などを盛り込んだパイロットプロジェクトを立ち上げ、その効果を検証した。
 院内改革というのは簡単なことではない。異なる教育背景をもつ多職種に理解をもとめ、新しいプログラムを導入する際に、「データに基づいた客観的な報告によって、医師と対等にコミュニケーションをとっていく」「他職種と力を競うのではなく協力体制をとっていく」という姿勢を示唆した氏の言葉には、日常臨床で患者の生の声に耳を傾け、症状のつらさを目にする看護師が「臨床現場のデータ」を力に改革の中心になりうるのだという実践の説得力があった。疼痛マネジメントに対する院内改革推進というプロセスを具体的に示してくださったこのセミナーでは、看護師のみならず多くのスタッフが「臨床とリサーチの協働」による力を再確認し意欲を新たにしたのではないかと思う。

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