Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.26
日本緩和医療学会ニューズレター
Feb 2005  26
書評
「花の谷」の人びと
著者 土本亜理子/(株)シービーアール
千葉県がんセンター整形外科  安部 能成
 20世紀後半に始まる死に逝くものへのケアにおいては、女性の関わりが大きいように思われる。鬼籍に入られたマザー・テレサやキューブラー・ロス、まだ存命中であるがシシリー・ソンダースなど、ホスピスや緩和ケアの創始者も例外ではないようだ。我が国においても、そのような傾向は否定できないようで、本書の中心人物も女性医師、著者も女性である。
 しかし、本書が単なる主人公の立志伝でないことは、副題に、海辺の町のホスピスのある診療所から、とあることからも推測されよう。ある場所を拠点にホスピス活動を始めた諸々の人物に対する取材が書かれている。すなわち、「花の谷」という場所に集う人々へのインタビューを重ねることにより、この診療所の存在を通して、ホスピスを初めとする医療問題を浮き彫りにしようというユニークな試みである。
 本書は、芽・花・種という3章から構成されているので、その順に登場人物を記してみたい。第1章では、兄を看取った妹、外来棟が出来るまでのエピソードが語られた後、経理担当の非常勤女性職員、元入院患者の緩和ケア女医、の3人。第2章では、妻を看取った調理担当職員、看護師、管理栄養士、介護・事務の女性職員、ショートステイ設置のエピソードの後、ショートステイ利用者の母、女性患者、介護事務の女性職員、女性患者とその夫、女性院長、男性患者、の10人。第3章では、女性院長と見学に参加した医師たち、ペインクリニック院長、診療所の統括看護師長、非常勤の男性医師、元職員の緩和ケア女医、元職員の看護師、の約10人。この後、新たな建物として、デイセンターがオープンするところで本文が終了するが、20人余りの登場人物の内、女性が14人と半分以上を占めている。
 女性が多数派を占めるのは当然のことである。少子・高齢化社会を迎えた日本では、平均寿命と結婚年齢の問題から見て、高齢者は女性が多い。周知の如く、ホスピス緩和ケアの対象として大部分を占める癌は老化と密接な関係にあり、高齢者に多い疾患である。この際、配偶者を見送るのも女性が多く、「ホスピスか?在宅か?」の決定権を握っているのも、経験的にみて母・妻・娘などの女性である。したがって、本書は女性の必読書といえるが、同時に、人類の半分は男性であるから、殿方も本書を通して、誰にでも訪れる死の問題を学ぶ必要があろう。
 確かに、エビデンスに基づいた緩和医学を我が国に構築することも必須の仕事である。しかし、その構築に至る前に、喫緊の課題として今現在死にゆく人に対し、待ったなしの問題解決を図らなければならない状況にあることも事実である。本書は、そのために好都合なヒントが数多くちりばめられた有益なものとして一読の価値を有するといえる。(A5版301ページ、2,100円(税込))

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