Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.26
日本緩和医療学会ニューズレター
Feb 2005  26
学会印象記
第51回Academy of Psychosomatic Medicineに参加して
名古屋市立大学大学院医学研究科 精神・認知・行動医学分野
名古屋市立大学病院こころの医療センター  明智 龍男
 このたび、2004年11月18-21日にかけて米国フロリダ州Marco Islandで開催されましたAcademy of Psychosomatic Medicine(APM)に参加させていただきましたので、本誌面をお借りして印象に残った発表などをご紹介させていただきます。 APMは、身体疾患患者の精神医学的な側面を中心に扱う学会で、コンサルテーション・リエゾンに携わる精神科医および心理士がその構成メンバーの核となっている学会です。例年、がん患者の精神症状に関しての演題も多く、またその学会の質そのものが高いために、広く世界から臨床家、研究者が集う学会でもあります。 今回は、Psychosomatic Medicine: From the Bench to the Bedsideというテーマのもと、数多くの一般演題に加え、3つのプレナリーセッション、11のワークショップ、14のシンポジウムが開催されました。 がん患者の精神症状に関連するテーマとしては、ワークショップで、終末期患者の悲嘆と喪失に関連するストレス、死期を早めるために患者自らが行う飲食の中止(いわゆるVoluntary Stop Eating and Drinking)にまつわる臨床的なジレンマ、終末期における患者の意思決定を促進する方法、終末期における治療中止と自殺や自殺幇助との差異など、シンポジウムで、コンサルテーション・リエゾン精神科医とがん性疼痛のコントロール、がん患者の苦痛のスクリーニング、親ががんになった子どもに対するケア、がん患者のうつ病の有病率の系統的レビュー、がん患者のうつ病診断・薬物療法の最新の知見、乳がん・卵巣がん罹患に対するハイリスク群の女性の精神的苦痛に対する心理社会的援助などのテーマが扱われました。このnews letterを読まれる学会会員の皆さんの多くが、きっといずれかのタイトルに興味を惹かれることと思います。このように幅広いテーマが扱われ、また個々の内容も実に濃いものでした。また、今回は、上記をごらんいただいてわかりますように、緩和医療や倫理に関連する話題が多くみられ、いずれにも興味を持っている私にとっては、極めて学ぶべき内容にあふれた学会となりました。ちなみに、私は一般演題のポスターで「Major depression, adjustment disorders, and post-traumatic stress disorder in terminally ill cancer patients: associated and predictive factors.」というタイトルの発表をさせていただきました(本内容は、J Clin Oncol. 2004, 15;22(10):1957-65.に掲載されたものです)。 中でも個人的に最も興味深かったのは、学会賞の受賞講演(Research Award Lecture)として行われた、カナダのマニトバ大学精神科のDr. Chochinovの「Death, Dying and Dignity: a research perspective」という演題でした。本講演では、Dr. Chochinovが行ってきた、終末期における抑うつ、希死念慮や尊厳などの一連の研究の紹介に引き続き、終末期がん患者の尊厳の維持あるいは改善することを目的として開発された心理社会的アプローチを核としたdignity psychotherapyの有用性に関する研究の予備的な結果がユーモアを交えながら発表されました。その軌跡は、彼の行ってきた研究そのものなのですが(たとえば、講演の中で触れられた、彼のこれまでの発表論文として以下のようなものがあります。その質の高さに驚かされます!Prevalence of depression in the terminally ill: effects of diagnostic criteria and symptom threshold judgments. Am J Psychiatry 1994、Desire for death in the terminally ill. Am J Psychiatry 1995、”Are you depressed?” Screening for depression in the terminally ill. Am J Psychiatry 1997、Will to live in the terminally ill. Lancet 1999、Dignity-conserving care-a new model for palliative care: helping the patient feel valued. JAMA 2002、Dignity in the terminally ill: a cross-sectional, cohort study. Lancet 2002、Dignity and psychotherapeutic considerations in end-of-life care. J Palliat Care 2004)、心の専門家である精神科医として終末期患者の苦悩を少しでも和らげたいという強い意志そのものであることが感じられました。講演の最後には、現在行っている研究の紹介がされ、dignity psychotherapy を行った100名の患者から得られた予備的結果からは、本介入に対する満足感は高く、また抑うつ(depression)、苦悩(suffering)の軽減にも有用であることが示唆されたとのことでした。 最後に、東海大学の奥山徹先生のポスター演題「Comparison of the performance of four cancer-related fatigue instruments: validation study of the Japanese version of the Brief Fatigue Inventory」がベストポスター賞の第3席に選ばれたことをお伝えしておきたいと思います。日本からの出席者は多くないのですが、その仲間から受賞者が出るというのは、われわれにとっても、とても名誉なことだと心より感じました。 本学会は、がん患者の心の問題に関心を有する私のような医療者にとっては本当に学ぶべきことが多い場です。毎年11月に、アメリカの様々なリゾート地のホテルで開催されますので、多忙な業務から解放されての心身のリフレッシュにも最適かもしれません。今回大会の会場になったホテルも、穏やかなメキシコ湾の美しいビーチに面しているという絶好の立地条件でした。様々な国の臨床家や研究者と有意義な意見交換を行い、最先端の知識を吸収できたことに加え、日本から参加されていた東海大学の先生方(保坂隆先生、奥山徹先生、加藤雅志先生)と海に沈む夕日を眺めながら、ビーチのレストランでディナーを満喫することもできました。何より良質な学会ですので、皆様も一度足を運ばれてみてはいかがでしょうか。 以上簡単に本学会に参加した印象についてご紹介致しました。次回のAPMは2005年の11月17-20日に、New Mexico州のAlbuquerqueで開催されます。ご興味がおありの方は、一度本学会のウエッブサイト(http://www.apm.org)をのぞいてみられてはいかがでしょうか。

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