Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.26
日本緩和医療学会ニューズレター
Feb 2005  26
Current Insight
6通の手紙から学んだこと
聖路加国際病院 緩和ケア病棟  上野まき子
 患者は肺癌の脳転移及び骨転移という診断を受けてわずか2ヶ月で痙攣発作を起こし、その一月後、傾眠状態で当病棟に入院してきた。亡くなるまでの一ヵ月半、当院で夫と長女と三人で過ごした。大学浪人中の18歳の娘を持つ母親だった。
 日々意識が低下していく母親のそばに近寄ることが出来ずにいた長女。口数は少なく、声をかけても「大丈夫です」と照れ笑いで応えるのみだった。病室に泊まって、毎日予備校に通っていたが、大学受験を控え、ただでさえストレスフルな時期に母親を亡くす彼女にどう声かけをしたら良いのか、スタッフも悩んでいた。
 患者が亡くなった翌日、長女からスタッフに宛てた6通の手紙を受け取った。
 それぞれに「○○さんのような大人になりたい」「○○さんみたいなお姉さんがいたらいいのに」「いろんな生き方があるんですね」「たくさんのことを教わりました」等と綴られ、「優しい声で母に話し掛けてくれてほっとしました」「ここは私の家でした」「行ってらっしゃい、お帰りなさいの言葉がうれしかった」というような言葉が続いていた。
 彼女は病室で過ごす中で、スタッフに母親役割を見出し、心のバランスを取っていた。その後、彼女自身への役割委譲がスムーズに行われたようである。また、ねぎらいの言葉が得られることによる安心感からストレスが緩和されていたこと、さらに生活を続けることのできる『普通の』会話が出来たことが、彼女の居場所を提供していたことがわかる。個室であったことが良い効果を生み、スタッフを含めた『家族』という感覚があった。
 多感で正直な目線を通した言葉から、ストレスを乗り越えた彼女の成長を感じただけでなく、患者や家族への関わりにおいて大切なことを教えられた。患者の死後に家族からこのようなフィードバックを得たことを感謝している。

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