Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.26
日本緩和医療学会ニューズレター
Feb 2005  26
巻頭言
いのちを支え、いのちをつなぐ
福島労災病院 外科  蘆野 吉和
 進行がん患者の在宅医療に取り組んでから約17年が経ちました。
 当初、知識も経験も全くないために、病院の医療を自宅に持ち込むつもりでいました。しかし、自宅で暮らす“がん患者”から学ぶことが多く、むしろ、緩和医療を含めたがん医療に対する考え方が大きく変わってきました。今回、その中でも特に、緩和医療の今後の展開に重要と思われる点について触れてみたいと思います。
 『先達に学ぶ』 : 自宅では、クライアントである患者とその家族は、医療者に遠慮せずに生活することができます。このためか、100人100様の生き方があることを実感させられます。私たちも、いずれは同じ境遇になることを考えると、クライアントはすべて先達であり、そこから学ぶことはたくさんあります。施設の中では、どうしても医療を提供する立場で患者を診る(看る)形になりがちですが、常に人間を視て学ぶ姿勢が欲しいと思います。
 『緩和医療普及の鍵は看護師の教育である』 : 在宅ホスピスケアで、重要な役割を果たしているのが訪問看護師です。この状況は施設内でも同じで、クライアントの最も身近にいる看護師が、緩和医療に積極的に参加してくれない限りは、いつまでたっても緩和医療は普及しないと思います。しかし、教育を受ける機会はほとんどありません。そこで、本学会が、専門職の育成だけでなく、一般病院や在宅医療に関わる医療者への教育に積極的に取り組むことを期待します。
 『看取りは社会にとって重要な儀式である』 : 自宅では、家族や地域の人々が看取りに参加し、いのちを受け継ぎます。これが地域文化の基盤ともなっていました。しかし、誰もが病院で死を迎えるようになってから、看取りも医療者の仕事となってしまいました。地域文化の基盤が失われつつあることを、わたしたち医療者は意識する必要があります。病室であっても、最期は、家族や身内だけで看取れる環境作りが社会にとって大事なことであると感じています。
 『いのちを救い、いのちを支え、いのちをつなぐ』 : 緩和医療を敗北の医療と考え、関心を示さない医師がまだまだ多いようです。「治すための医療」の対極として緩和医療を位置づけることが、大きな誤解を生じさせる原因かもしれません。わたしは、腫瘍外科医として手術も行い、抗癌剤治療も行う一方で、一般病棟と在宅で緩和医療を行っています。その中で実感している医療の概念が、今回提示した言葉です。そして、緩和医療にはいのちを支えるだけでなく、いのちをつなぐ大事な役割があると考えます。

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