Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.25
Nov 2004

日本緩和医療学会 ニューズレター第25号

施設訪問記
カンボジア医療見聞録(パートII)
聖路加国際病院  岡田美賀子
 前号でカンボジアの経済状態や医療全体の現状について触れました。今回はペインマネジメントについて報告したいと思います。
 カンボジアではまだまだ感染症が多く、また、がんの最新の治療も行われていないのになぜペインマネジメントが優先課題となのかと疑問に感じた方もいるかもしれません。実はカンボジアでは経済的にも距離的にも医療施設に簡単にアクセスすることができないために、何らかの症状が出てからようやく病院を受診し、すでに末期のがんであるということが少なくないのです。そうするとがんの治療はすでに有効ではなく、むしろ緩和ケアが重要というわけなのです。ペインマネジメントに関してもその遅れは驚くほどで、モルヒネは2001年までは麻酔用としてしか使用できず、ようやく鎮痛用として使えるようになったばかりです。その後、武田文和先生(埼玉医科大学)のご尽力によってモルヒネ錠やオキシコドン錠が導入されましたが、現在は治験のような段階であり特定の病院に入院中の患者さんしか使えません。ですから、入院中にオピオイドを使っていても退院となればそれを取り上げられてしまうわけです。私たちがカンボジアを訪問していた時、ちょうどカンボジア人医師の母親が末期の肺がんで在宅療養中でしたが、痛みが激しくてもオピオイドが使えないため、家族がマーケットに行って医療用モルヒネのゾロ品を買ってきているということで、色々な意味で本当に驚きました。しかし、これも比較的裕福な家庭だから可能なことと言えます。
 さて、肝心のワークショップですが、5日間のプログラムで武田先生が主に痛みのメカニズムと薬物療法について、私がアセスメントと薬物療法におけるナースの役割、薬物以外の看護介入、チーム医療などについて話しました。対象は国立病院から選抜された中堅ナース50名で、私達が話した英語をカンボジア人医師が現地語に通訳するといった形で行われました。もともとカンボジアの医学教育はフランス語で行われているため、所々フランス語の医学用語が聞き取れました。例えば便秘は“constipation(「コンスティパチオ〜ン」と読む)”で何だかおしゃれな便秘だなぁと思って聞いていました。ナースたちは非常に熱心で、もちろん居眠りをする人は一人もおらず、質問も沢山ありました。質問の中には「抗がん剤は全てのがんに効くのか」といった質問もあり、現地の医療レベルを改めて痛感しました。しかし、みなとても勉強熱心で、今後彼女(彼)らがカンボジアのペインマネジメントにおいて十分な力を発揮してくれるのではないかと大いに期待できました。
 今回のカンボジアでの体験は、先進国の医療しか知らなかった私にとって本当に貴重な経験になりました。今後も最先端の国々だけではなく、このような国にも目を向けていかなければならないと改めて感じた次第です。これで2回にわたって報告しましたカンボジア医療見聞録を終わります。

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