Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.25
Nov 2004

日本緩和医療学会 ニューズレター第25号

Journal Club
Drug therapy for delirium in terminally ill patients(Cochrane Review)
名古屋市立大学大学院医学研究科 精神・認知・行動医学  明智 龍男
Drug therapy for delirium in terminally ill patients (Cochrane Review) Jackson KC, Lipman AG.
Drug therapy for delirium in terminally ill patients (Cochrane Review). In: The Cochrane Library, Issue 2, 2004. Chichester, UK: John Wiley & Sons, Ltd.

【背景】
 せん妄は進行がん患者に頻度の高い精神症状であり、終末期がん患者の75%以上にせん妄が認められたとの報告もある。せん妄に対する治療としては、背景に存在する要因への対処が重要であるが、薬物療法が併用されることも多い。せん妄に対する薬物療法としては、ハロペリドールを推奨する報告が多いが、終末期患者のせん妄に関する報告の大多数は症例報告や症例シリーズであり、そのエビデンスに関する系統的レビューは存在しない。
【目的】
 本検討の目的は、終末期のせん妄に対する薬物療法に関して系統的レビューを行うことである。
【方法】
 本レビューに含めた研究の選択基準:終末期患者のせん妄に対して、何らかの薬物療法を他の治療と比較した前向きの比較試験および無作為化比較試験。研究の対象者は終末期疾患に罹患した18歳以上の成人(終末期疾患の明確な定義は困難であるので、進行がんやAIDSなどの予後が限られた疾患に罹患した患者、ホスピスあるいは緩和ケアを受療中の患者、および終末期疾患に罹患した患者を対象とした研究を選択した)。せん妄に対する何らかの薬物療法を他の薬物療法あるいは非薬物療法と比較した研究。せん妄の評価法として、Memorial Delirium Assessment Scale (MDAS)、Delirium Rating Scale (DRS)などを使用しているもの。
文献検索:データベース(The Cochrane Pain, Palliative & Supportive Care Trials Register, The Cochrane Central Register of Controlled Trials in the Cochrane Library, Medline, Embase, Cinahl, Psychlit, Psychinfo)、総説論文の引用文献など。出版に関しての言語の限定は行わなかった。
レビューの方法:著者の一人が文献のタイトルと抄録からスクリーニングし、重要な論文に関しては全文を入手し、2人の著者が今回のレビューに含めるか否かを検討した。選択された論文は、Oxford Scaleを用いて方法の質が吟味された。治療の効果を評価するため、連続値データをRevMan 4.2を用いて解析した。
文献検索の結果、13論文が今回の検討の候補にあがったが、最終的には1報の論文のみが今回のレビューの対象になった。除外された12論文は、後方視的検討あるいは比較群をもたない研究であった。
今回の検討に含まれた研究(Breitbart W, et al. Am J Psychiatry 1996):せん妄が発現した30人の入院中のAIDS患者を対象に、3つの薬剤(chlorpromazine, haloperidol, lorazepam)の有用性を検討した二重盲検試験。
【結果】
 本研究からは、chlorpromazineとhaloperidolの双方が入院中のAIDS患者のせん妄に対して有効であることが示された。Lorazepamの投与は、有害事象のために研究途中で中止になった。一方、chlorpromazine投与群では、投与後改善したMini-Mental State Examinationのスコアが治療終結時には再度増悪しており、本薬剤の有する抗コリン作用のためである可能性が示唆された。最初の24時間に投与された薬剤の平均量は、chlorpromazine 50mg (SD 23.1, 範囲 10-70)、haloperidol 2.8mg (SD 2.4, 範囲 0.8-6.3)、lorazepam 3mg (SD 3.6, 範囲 0.5-10)であった。
【考察および結語】
 緩和ケアを受けているせん妄を合併した患者に対する薬物療法のエビデンスは乏しいことが明らかになった。今回のレビューから、これら患者に対するhaloperidolとchlorpromazineの有用性が示唆された。しかし、chlorpromazineに関しては、経時的な使用において認知機能の障害が認められたため、haloperidolがより推奨されるのかもしれない。せん妄の治療は、重症度や予後(日単位か週単位か月単位か)などによって異なるため今後の更なる研究が必要であろう。また、olnzapineやresperidoneなどの非定型抗精神病薬の検討も必要であろう。

Close