Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.25
Nov 2004

日本緩和医療学会 ニューズレター第25号

特別講演2
緩和医療におけるNBMとEBM
演者 : 富山大学保健管理センター  斎藤 清二
司会・報告 : 宮崎県立延岡病院  小川 道雄
 NBM(narrative-based medicine)が提唱される前から、緩和医療はNBMの手法を用いてきた、と私は考えている。近年EBM(evidence-based medicine)が金科玉条のごとく叫ばれ、EBMのないところに医療がないように非難されるのを、実は内心にがにがしく思っていた。今回斎藤清二先生の特別講演をきいて、EBMの見方が180度転換した。
 わが国では(わが国だけではないかもしれないが)、EBMは誤解されてきた。それを斎藤先生は次のように明解に示された。エビデンスは臨床疫学的に得られた人間の集団についての一般的な情報であり、臨床実践において利用すべき役に立つ道具である。エビデンスは確率論的な情報しか与えてくれない。一方EBMについてはそれが方法論であること、EBMからは、多様なオプションが存在していること、絶対の正しい医療の方法論などは存在しないこと、あえてしない選択をすることにも正当性がある。このため選択の可能性が広がる、とまとめられた。
 NBMはEBMの過剰な科学性を補完するものとして提唱された。全人的医療を提供するムーブメントの流れを汲み、学際的な専門領域(ことに人文系)との広範な交流を特徴とする。そして病を患者の人生という大きな物語の中で展開する一つの物語であるとみなし、患者を物語の語り手として尊重する一方で、医学的な疾患概念や治療法をあくまでも一つの医療者側の物語としてとらえる。治療とは両者の物語をすり合わせるなかから、新たな物語を創出していくプロセスであると考えるのがNBMである、と斎藤先生は述べられた。
 ではNBMでありつづけた緩和医療に、EBMをとり入れることが可能だろうか?EBMとNBMの統合は可能か、という問題について、斎藤先生はNBMを加えることによってEBMの体系化は完成するという考え方、あるいは異なる世界観をもつ患者と医療者の出会いの場においては共存可能という慎重な考え方を紹介された。
 ただ緩和医療に関わるものにとっては、細やかな治療手段についてはエビデンスを利用しうるのだが、一人一人の患者の治療は、やはりこれまで通りNBMなのではないのか、EBMとNBMは車の両輪というよりも緩和医療というNBMの中に「EBMのデータを取り入れる余地もある」ととらえるべきではないか、というのが私の率直な感想だった。そう感じたのは私だけだったかもしれないが…。

Close