Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.25
Nov 2004

日本緩和医療学会 ニューズレター第25号

特別講演1
死の臨床におけるスピリチュアルケアの意味と役割
演者 : 関西学院大学神学部  窪寺 俊之
司会・報告 : 千葉県がんセンター  長山 忠雄
 WHOは1990年、スピリチュアルケアを重視したがんの緩和医療にかんする報告書を公にした。わが国においてはスピリチュアリティをどのように理解・認識するか戸惑いを感じていることもあり、臨床の場で具体的にどのように対処したらよいかは大きな課題である。今回、日本におけるこの領域の第一人者である窪寺俊之先生による特別講演が並木会長により企画されたことは、時機に適っている。
 心・魂のケアは、主に臨床心理士により行われる精神的・心理的ケア、宗教家による宗教的ケア、およびスピリチュアルケアから構成される。スピリチュアルケアは、「あなたのそばにいつもいて一緒に苦しんでくれる人生共感者」によって行われる、との導入から講演は始まった。
 次に先生が実際に関わった胃がん・肝転移のある36歳女性のケアの経緯を説明し、臨床の現場でのスピリチュアルケアの実際について分かりやすく説明された。
死の臨床で問題となるのは、1)何故わたくしがこんな病気にならなければならないのか、2)何故治らないのか(これらは医療者にとって納得できる回答はない)、3)治らないなら早く死んでしまいたい(個人的で納得しなければならない問い)、4)天国や地獄はあるのか(宗教的な問い)、5)後悔・罪責感、であり、これらの事柄への対応マニュアルはなく医療者にとっては不得意な分野である。このような答えのない不得意な分野があることを医療者は認めなければならない。
 スピリチュアリティは、WHOなどの専門委員会,緩和医療関係医師・看護師、精神科医師、神学者、哲学者、社会福祉士など、分野によってその捕らえ方が異なる。
 スピリチュアリティは宗教がもつ拘束力・規制力はもたず、苦痛の意味や苦難の中での生きる生に意味を与え、哲学的・心理学的・宗教学的要因が重なり、主観的色彩をもっている。その2軸となっているものは、「生きる枠組み」と「わたしの意識」である。前者は、その人の生を支え安らぎを与える超越的なもの・聖なるものとの出会いであり、後者は、わたしの人生の意味・目的や生き甲斐をあたえるもので、内面的自己との出会いである。
 自己を意識する際には、3つの関係がある。すなわち、1)わたしーわたし(病気・死に直面している自分)、2)わたしーあなた、3)わたしー超越者(神、仏、宇宙の生命、宇宙の法則など)である。スピリチュアリティは、(3)に最も関わるものであり、これへの援助の必要性を強調された。
 この他に、死とスピリチュアルケア、スピリチュアリティと宗教、スピリチュアルケアの実際などについて話され、最後に、スピリチュアルケアとは、人生観の転換であり、人間らしさ・自分らしさの追及であり、さらに新しい生き方への出発の援助であると、講演を締め括られた。
 第9回総会の開催と期を同じくして、窪寺先生ご執筆による著書「スピリチュアルケア学序説」が刊行された。窪寺先生の長年の研究成果が解り易い表現で書かれている。スピリチュアルケアに関する知識と理解を深め、より良い緩和医療を臨床の現場で提供するために、会員の皆様に是非一読されることをお勧めしたい。

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