Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.24
Aug 2004

日本緩和医療学会 ニューズレター第24号

特別講演3
日本人の死生観
演者 : 哲学者  梅原 猛
司会・報告 : 国立がんセンター  垣添 忠生
梅原猛先生は、知の巨人である。その御略歴をキーワードでスケッチするなら、京都、哲学、宗教、文学、芸術、日本文化などであろうか。哲学者という一語ではとても括れない広大な学識の人であった。その明晰な思考と語り口は79才という御年齢をまったく感じさせないものだった。むしろ、情熱的だった、と評すべきだろう。われわれは幸運だった。
 御自分のがん体験から話を始められた。60才で大腸がん。便に血が混じっているのを見て、直ちに病院へ行かれたという。72才で胃がん。おいしいはずの食事が砂を咬むようだったことで、直ちに病院へ。大腸、胃とも手術で事なきを得て、まったくお元気。御自分の体調から異変を感じとり、躊躇なく直ちに専門機関に相談されたのは、知性の故としか言いようがない。
 この危うく死を免れた御経験から、覚悟を決めて、真に書きたいことを、信念をもって執筆すると、右翼からも左翼からも何も言われない。誠に自由で楽しい人生を送っておられる、とのこと。このエピソードから、私たちは直ちに二つのメッセージを感じとることができる。
さて本論。狩猟、採集時代の縄文文化の時代から、明治以前までの日本人の考え方は基本的に同じだった。人間は自然の一部で、あの世とこの世の間には無限の往還がある。生命はくり返しで、それが今の私たちにも宿っている。私たちの生命の中には永遠の生命が宿り、それが子孫に甦っていく。自分は死んでも遺伝子は生きている、と考えれば、生命は連続したものと、科学的に考えることができる。
 この考えに立つと、がんの末期の人、死にいく人々に対峙するとき、なぐさめの心をもって対話ができるのではないか。この世の生命は受け継がれていく、ことに救いがある。「生命は連続したものだ」という立場から自然な対話が可能となる、と私は梅原先生のお話をお聞きした。素晴らしい講演だった。

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