Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.22
Feb 2004

日本緩和医療学会 ニューズレター第22号

学会印象記
Academy of Psychosomatic Medicine第50回記念大会 参加印象記
国立がんセンター研究所支所精神腫瘍学研究部
国立がんセンター東病院精神科  明智 龍男
 このたび、2003年11月20−23日にかけて米国カリフォルニア州サンディエゴで開催されました第50回Academy of Psychosomatic Medicine(APM)記念大会に参加させていただきましたので、本誌面をお借りして印象に残った発表などをご紹介させていただきます。
 APMは、身体疾患患者の精神医学的な側面を中心に扱う学会で、コンサルテーション・リエゾンに携わる精神科医がその構成メンバーの核となっている学会です。例年、がん患者の精神症状に関しての演題も多く、またその学会の質そのものが高いために、広く世界から臨床家、研究者が集う学会でもあります。
 今回の学会では、3つのプレナリーセッション、13のシンポジウム、8つのワークショップに加え、一般演題のポスター発表および口演などを中心に構成されておりました。
 中でも、がん患者の心理社会的側面に関するテーマを中心に扱う米国のサイコオンコロジー学会American Psychosocial Oncology Society (APOS)との共催で「Psycho-Oncology 2003: Emerging clinical strategies and innovative educational programs」と題されたシンポジウムが持たれ、興味深い4つのトピックスが扱われましたので、本シンポジウムを中心にご紹介させていただきます。
 最初の演者はマサチューセッツ総合病院精神科のDr. Greenbergで「The person facing lung cancer」というテーマで、肺がん患者の心理的問題を包括的に講演されました。中でも心理的援助に関する内容では、がん種を問わず、すべてのがん患者に大切な援助技法が話され、がんを契機として顕在化する内的葛藤の理解、希望を支えることの重要性、否認の理解、家族への援助の重要性などが強調されていました。
 次の演者は、ケンタッキー大学の心理士であるDr. Passikで「Preventing symptoms before they develop」というタイトルで、がん患者にみられる様々な苦痛症状に対する予防的な薬物療法についての現状が話されました。Dr. Passikは、予防的な薬物療法の既存の研究報告を概観するとともに(例えば、高用量のインターフェロン投与を受ける悪性黒色腫の患者のうつ病予防に有用性が示された抗うつ薬paroxetineなど)、化学療法による遅発性嘔吐(delayed emesis)の発現予防に対する非定型抗精神病薬olanzapineの有用性を示唆した第II相試験の結果、乳がん患者に多いhot flashの予防としての抗うつ薬venlafaxine(本邦未発売)の有用性を検証するための臨床試験、進行肺がん患者の抑うつ予防としての抗うつ薬mirtazapine(本邦未発売)に関しての臨床試験など、主として現在行われている臨床研究の進捗状況を中心に紹介していました。Dr. Passikは、このような予防的な治療開発研究の難しさとして、介入をはじめるタイミングの難しさ、risk/benefitのバランスの難しさなどを強調していました。Dr. Passikの講演を聞いて、なるほど症状によっては、治療より予防の方が容易なものがあるのかもしれないという新たな視点を持つことができたように思います。3番目の演者は、UCLA精神科のDr. Stuberで、彼女は「Cancer as chronic illness: An NCI supported medical student curriculum」というタイトルで、がんの生存患者に関する医学的側面を包括的に学ぶための医学生用のカリキュラムの開発研究について講演されました。詳細は省略させていただきますが、本カリキュラムはデルファイ法という方法を用いて開発され、がんの生存患者に関しての医学的知識のみならず、患者とパートナーシップを形成する技術やがんの再発などのbad newsを伝えるコミュニケーション技術など、長期生存における臨床的問題を包括的に学習可能なカリキュラムを目指しているとのことでした。最後にスロンケタリングがんセンター精神科のDr. Breitbartが「Cancer-related fatigue: Assessment and management」というタイトルで、がん患者の倦怠感の評価とマネージメントに関する最新の知見を講演されました。Dr. Breitbartは、倦怠感はがん性疼痛ときわめて共通点が多いことを指摘し、具体例として、有症率が高いこと、双方の症状は共存することが多いこと、いずれもQOLに与える影響が大きいこと、看過されやすく治療が提供されることが少ないこと、複雑な多次元的症状であること、その評価は患者の主観に基づいて行われること、医療スタッフと患者の良好なコミュニケーションが症状評価に関して極めて重要な役割を果たすことをあげていました。また、彼らのグループが提唱したがんに関連した倦怠感(Cancer-Related Fatigue)は、現在ICD-10において独立した診断として採用されているとのことでした。想定されるマネージメントのストラテジーとしては、患者と家族に対する教育、倦怠感の原因に対する治療、倦怠感そのものに対する直接的治療の3つが柱であることを紹介していました。患者と家族に対する教育としては、倦怠感に関しての適切な医学的知識の提供や医療スタッフに対して倦怠感の存在を伝える重要性などをあげていました。倦怠感の原因に対する治療としては、貧血や抑うつがその原因となっている場合などを例示し、これらに対しての治療の重要性を指摘していました。また、倦怠感そのものに対する直接的治療としては、精神刺激薬(methylphenidateなど)、steroid剤、抗サイトカイン作用を有する薬物(thalidomide, pentoxiphilineなど)、amantazine、modafinilなどの有用性を示唆していました。倦怠感に対しての関心はとても高いようで、シンポジウムの開始当初は、空席も幾らかあった会場も、Dr. Breitbartの講演の際には、立ち見の参加者で溢れるような状況でした。いずれにしましても本シンポジウムの演題はいずれも興味深いもので、私自身にとっても収穫の多いものでありました。時間としては、3時間程度のシンポジウムでしたが、本シンポジウムに出席しただけで、本学会に参加してよかったと満足感を与えてくれる質の高いものでありました。ちなみに私自身は、がん患者のうつ病診断における身体症状の役割に関しての口演をさせていただく機会を得て、有意義な意見交換ができたことを付記させていただきます。
 今年は、50周年記念ということもあり、学会初日の夜にdinner partyが開かれるなど質素な本学会には珍しく、催しも例年になく華やかに行われました。それに、カリフォルニアの心地よい気候が記念すべき50回という節目となる大会に彩を添えていました。次回のAPMは2004年11月18−21日にかけて、フロリダ州フォートマイヤースで開催されるとのことです。興味をもたれた方は一度、同学会のホームページ(http://www.apm.org/)を覗いてみられてはいかがでしょうか。

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