Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.22
Feb 2004

日本緩和医療学会 ニューズレター第22号

Journal Club
Identifying ambulatory cancer patients at risk of impaired capacity to consent to research
国立がんセンター研究所支所精神腫瘍学研究部
国立がんセンター東病院精神科  明智 龍男
Identifying ambulatory cancer patients at risk of impaired capacity to consent to research
Casarett DJ, et al. Journal of Pain and Symptom Management
2003;26:615-624

【背景】
  近年の多くの研究が、がん患者には多彩な症状が高頻度に認められることを示しており、このことが、がん患者の症状緩和のための介入研究の施行を促進している。一方では、進行したがんや苦痛症状の存在は、患者の研究参加への意思決定能力を障害しているのではないかいう議論も生み出すこととなった。進行がん患者には、多彩な症状が認められること、認知機能に影響を与え得る薬剤(例、オピオイド、ステロイド等)の投与頻度が高いこと、および意思決定能力を障害し得る抑うつや代謝障害(高カルシウム血症等)などの症状が発現する頻度が高いことなどから、前述の研究参加に対する意思決定能力が障害されている可能性が懸念されている一方で、実際にはどのような患者群が、意思決定能力が障害され得るハイリスク群であるかについての知見は存在しないのが現状である。
【目的】
  今回の研究の目的は、臨床研究参加への意思決定に関して付加的な保護策を適用することが望まれるがん患者群を同定することである。
【対象と方法】
  米国都市部に位置する、ある退役軍人病院の腫瘍専門外来を受診したがん患者を対象とした。外来患者を対象とした理由は、これら患者が、様々な研究の代表的なサンプルであることによった。
 対象患者に対して、模擬的な研究(症状とQOLに対するケースマネージメントチームの有用性を検討する無作為化比較試験)参加に対する意思決定能力を評価した。
 面接者は、対象患者の基本属性および臨床データを得た後、今回の模擬的研究に関しての記述を読み上げた。次いで、面接者は、実際の臨床試験の際のように、インフォームド・コンセントを取得するための書式(informed consent form)を提供した。対象者は、時間を制限されることなく、その書式を吟味するとともに、面接が終了するまで、その書式を持参した。面接は、すべて録音された。
 対象者の意思決定能力は、MacArthur Competency Assessment Tool for Clinical Research (MacCAT-CR)を用いて評価した。MacCAT-CRは、1. 開示された情報を理解する能力、2.その情報を患者の状況に適切に適応する能力、3. 研究に参加した場合と参加しなかった場合のリスクと利益を合理的に鑑みる能力、4. 選択を明示する能力、の4つの次元を評価する面接法である。
 その後に、Global Distress Index (GDI)を用いて、痛みをはじめとした頻度の高い10症状に関して評価を行った。その他、Trail-making test Part B (注意と実行機能の評価法)、Rapid Estimate of Adult Literacy in Medicine(REALM、識字能力の評価法)、Geriatric Depression Scale(GDS)、one-minute animal naming test (言語の流暢性の評価法)、Mini-mental State Examination (MMSE)の一部(遅延再生と単語の逆唱)も施行した。
 意思決定能力に関しては、2人の評定者が録音されたテープをもとに独立して評価を行ったが、カッパ係数は4つの次元いずれも0.97以上と高い信頼性を示した。
 統計学的検討:MacCAT-CRの4次元の各スコアと今回検討した変数間の関連を検討した。また、緩和医学の専門家により選択されたMacCAT-CR における4項目(1. 参加者には2つの付加的な手続きが要求されること、2. 全ての参加者が介入を受けるのではないこと、3. 参加は自発的なものであること、4. 研究に参加することで参加者自身の日常生活にもたらされる影響について、少なくとも2要因を考慮していること)すべてに対して正答したものを意思決定能力ありと評価し、各種変数との関連をlogistic回帰分析で検討した。
 本研究に関しては、施設内倫理委員会の承認を受け、参加者からは口頭による同意を得た後に行われた。
【結果】
  52名の適格患者のうち、45名が参加した。45名のうち、96%が男性がん患者であり、高卒以上の教育経験を有するものが60%であった。胃がん患者が最も多く33%で、前立腺がん、血液のがんが各々18%と続いていた。Performance status(PS, ECOG)に関しては、対象者の45%が2以上(PS=2-4)であった。
 MacCAT-CRの4次元の各スコア(選択を明示する能力は全員に認められたため、実際には、本能力を除く3次元との関連が検討された)と有意な関連を認めたものは、年齢(高齢と同意能力低下に関連)、教育経験(教育経験の短さと同意能力低下に関連)、Trail-making test Part B、REALM、one-minute animal naming test (言語の流暢性の評価法)、単語の逆唱であり、GDI、PS、オピオイドの使用、GDSとの間には有意な関連は認められなかった。しかし、年齢と教育経験を調整すると、MacCAT-CRの各スコアとTrail-making test Part B、REALM、one-minute animal naming testおよび単語の逆唱いずれの間にも有意な関連は認められなかった。
 69%の対象患者に意思決定能力があると判断された。意思決定能力の障害を予測する有意な要因としては、教育経験、Trail-making test Part B、REALM、単語の逆唱、GDSが抽出されたが、年齢と教育経験を調整後に有意であった要因は、Trail-making test Part B、REALM、単語の逆唱のみであった。
【考察】
  今回の研究から、臨床研究への参加に際して、意思決定能力を欠く可能性を有する対象者に関しての知見が得られた。身体症状や身体的機能は意思決定能力の有無の予測要因として有用でない一方で、年齢、教育経験、識字能力、認知機能は有用な予測要因となり得ることが示唆された。

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