Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.20
Aug 2003

日本緩和医療学会 ニューズレター第20号

Current Insight
アメリカのホスピスからの学び
東京大学 21世紀COE 共生のための国際哲学交流センター  服部 洋一
 文化人類学者として、2000年9月から延べ13か月、米国ミシガン州の在宅ホスピスを対象にフィールドワークを行い、その成果を『米国ホスピスのすべて』と題して上梓いたしました。
 米国ホスピスは「在宅ケア」として知られていますが、「訪問ケア」とした方がより忠実です。なぜなら、自宅、長期療養型施設、病院など、場所を問わず、患者にとっての「自宅」が、そのままホスピスチームの訪問先となるからです。患者が暮らす場所を移しても、ホスピスケアを希望する限り、プログラムもそのままついていきます。米国ホスピスは、従来の縦割りの医療・福祉の空間設定を横断する、文字通りトータルなプログラムとして制度化され、運営されているのです。
 1974年の公式導入以後、四半世紀余りで約3400プログラムを数えるに至った他に類を見ない達成は、ハード面ではなく、ソフト面の充実に努力を注いだ結果といえるかもしれません。自前の入居施設を持つプログラムは、全体の5%程度に過ぎません。また、患者の自宅でケアを行う場合にも、わが国の在宅医療で時折見られる、病室をそのまま移築したような環境作りを目指すわけではありません。ホスピスを選択したという意思を尊重する時、患者と家族の満足度を高めることは、できるだけ濃厚な医療を提供することと必ずしも重なるわけではないからです。
 米国ホスピスの経済を支えるメディケアの保障は、終末期の医療費抑制に主眼を置くため、必要最低限に設定されています。その中で高い満足度を達成するために米国ホスピスがとった方針は、患者と家族がケアの受け方、やり方を学ぶのを助け、ケアにおける自立とコントロールを高める教育的アプローチでした。もちろん、患者と家族の負担は軽くはありませんし、レスパイトケアの選択も用意されていますが、「やるべきことはやれた」という家族の充実感が、遺族ケアへとつながると信じるスタッフもいました。
 このような状況は、「アメリカだから」なのでしょうか。わが国の緩和ケア病棟は着実に増加していますが、需要に対する供給不足は否めず、「終末期の終末期」というべき段階で初めて入院できるのが現実です。その一方で、一般病院における入院期間短縮化の圧力は日増しに強まるばかりです。施設ホスピスと在宅ホスピスをいかに結びつけるか、また、その間をつなぐデイケアや外来サービスをどう充実するかは、今後のわが国のホスピスの重要な課題となると思われます。トータル・プログラムの一つの先例として、米国の状況を検討することは、得るところの大きな作業のように感じます。

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