Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.20
Aug 2003

日本緩和医療学会 ニューズレター第20号

Current Insight
輸液療法の実態調査から見えてくるもの
滋賀県立成人病センター緩和ケア科  堀 泰祐
 同じものを見る場合でも、その人の立場によって評価が違うと言うことはよくあることである。同じ末期がん患者を診る場合でも、外科医と緩和ケア医は少し違う考え方をすることがあるということを、最近身をもって経験するようになった。私は昨年10月から外科医を辞め、緩和ケア医となった。緩和ケア医となった現在の時点で外科医だった頃を振り返ると、基本的な考え方が「微妙に」違ってきているのを感じる。
 がん性疼痛の治療原則とかオピオイドの副作用対策などは外科医として緩和医療を行っていた頃と全く変わりはない。自分でも変わってきたと思うことの一つに輸液に対する考え方がある。末期がん患者に対する輸液療法についてのEBMが皆無と言ってよい状況にあって、末期医療に携わる医師はそれぞれの経験や考え方に従って輸液療法を行っているのではないだろうか。
 末期がん患者に対する輸液療法について、京都と滋賀を中心に活動している京滋緩和ケア研究会が行った実態調査がある。これは1999年から2000年にかけて、がんで亡くなった患者について、後ろ向き調査を行ったものである。調査対象は、一般病院の外科と内科およびホスピスである。末期がん患者に対する輸液をどのように決定しているかをみるために、輸液量や内容と摂食量、浮腫の有無、胸腹水の有無などの臨床症状や検査データとの関係を調査した。その結果は、輸液量を決定する最も大きな要因は摂食量であり、次に一般科とホスピスの差であった。つまり、輸液量は摂食量が少ないほど有意に多く、外科や内科でホスピスに比べて有意に多いということであった。浮腫や胸腹水の有無は輸液量には有意な影響を与えていなかった。
 私も食べられなくなったら点滴で補うということは、とても常識的であり、患者本人も家族も納得すると考えていた。しかし、その輸液は本当に患者さんのQOLの向上に寄与していたのだろうか。残念ながら今回の調査でも裏付けはとれなかったが、摂食量が減少したとしても浮腫の強い患者、コントロールできない胸腹水のある患者には輸液は控えた方がよいと個人的には考えるようになった。
 かつて私たちが当然のように行ってきた「呼吸が止まったら人工呼吸、心臓が止まったら心臓マッサージ」と同じように、「食事ができなくなったら、点滴」ということが本当に正しいのか疑問を感じるようになった。がんの末期に食べられなくなるのは、一部の病態を除けば自然の経過であり、食べることが負担になる場合も多いのではないだろうか。緩和ケア病棟に移ってこられたあと、「頑張って食べなくても良いです。欲しいものだけ、無理せずに食べてください」と言うと、「食べなくても良いと言われて、本当に楽になりました」と安心される患者をよく経験する。これは一般病棟で「頑張って食べてください。食べられなければ点滴をしますよ」と脅かしともとれることを言われてきたためである。点滴をする前に、それが本当に必要なのかをもう一度考え直す必要があると思う。

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