Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.20
Aug 2003

日本緩和医療学会 ニューズレター第20号

巻頭言
緩和医療とNARATIVE:語り
東札幌病院  田村 里子
 緩和医療は、がんという病を持つ人の全体性に対し、学際的アプローチによって総体として提供するQOLを柱とした医療がどれだけ実現可能かを臨床する医療である。
 日々の臨床においてソーシャルワーカーとして患者とその家族から緩和医療を求める言葉を、転院相談をとおして伺っている。相談からは、いわゆる緩和医療に求められているものが浮かび上がってくる。一人一人の個別な語りの中から、語られる詳細は様々であるが、緩和医療に求めている2点の共通項があげられる。そのひとつは、現在直面している、もしくはこれから出現するであろう痛みを初めとする様ながんによる症状に対する緩和を求めるものであり、またもうひとつは、患者の話を聞き気持ちを受けとめ尊重してほしいといった「今、がんという病いをかけ替えのない個人の『物語り』として生きているひとに医療も向き合うこと」を希望するものである。
 緩和医療学会は、発足以来「Evidence Based Medicine に則ったがん疼痛治療ガイドライン」の発行など、症状緩和に関する緩和医療のひとつの指針を示してきた。今もう一点の求められているものに、どのような指針の可能性があるのだろうか。
 近日、Narrative Based Medicine が注目されているが、その理論背景にあるのは社会構成主義であり、患者の言葉に依拠するという実践の価値を示すものである。しかし医療現場の現状では、いまだ関心うすい感がある。たとえば、治癒を目指した積極的治療から緩和医療へのいわゆるギアチェンジに対して、ソーシャルワーカーがていねいにその言葉を聴きその選択を支えることが、患者とその家族の緩和医療への満足度を高めるとしても、緩和医療チームメンバーがその意味をどうみいだせるのか。といった課題にも通じよう。相互補完的で真理の両輪と称される、EvidenceとNarrative両面からのアプローチが実際に緩和医療においてどう発展されるのか期待される。
 またその臨床を高めるための研究へのアプローチも、自然科学からのみならず人を対象とした社会科学からのものや、研究方法についても量的研究のみならず質的研究による取り組みも必要であろう。緩和医療は緩和ケア病棟でのみ提供されるものではない。現在緩和医療を行っている多くの医療機関において、さらなる普遍化と向上は急務である。今後緩和医療学会がどんな役割を担っていくのか、その方向性の探究に、まさに緩和医療に不可欠とされる医療チームアプローチを具現していけるかが問われていると考える。

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