Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.19
May 2003

日本緩和医療学会 ニューズレター第19号

学会印象記
第1回日本臨床腫瘍学会に参加して
国立がんセンター研究所支所精神腫瘍学研究部・東病院精神科  明智 龍男
 このたび、2003年2月28−3月1日にかけて福岡市で開催されました第1回日本臨床腫瘍学会に参加させていただきましたので、本誌面をお借りして本学会および印象に残った演題などをご紹介させていただきます。
 日本臨床腫瘍学会は、がんの基礎研究を理解し、創出された薬物の臨床研究を科学的、かつ倫理的に行うことのできる臨床医を育てるのみならず、がんの薬物療法を安全に行うとともにがん患者を総合的に診療できる臨床医を育成することを目的として開催されてきた日本臨床腫瘍研究会から発展的に発足した学会です。私自身は、精神科医であるために、本領域との直接的な関係はさほど強くはなかったのですが、臨床研究を遂行する方法論などについての講演も多く、熱心で活発な討論が繰り広げられる本研究会に出席させていただき、大変学ぶことが多かった経験をさせていただいたことがありました。
 その記念すべき第一回学術集会が、九州大学大学院医学研究院科学分野の桑野信彦会長のもと開催されましたが、その内容は一般演題(口演7題、ポスター38題)に加え、4つのシンポジウムを中心として構成されておりました。4つのシンポジウムは各々、「緩和医療学の新たな展開−臨床腫瘍学会に求められること−」、「臨床腫瘍専門医の育成」、「臨床試験推進のためのシステム構築」、「我が国におけるトランスレーショナル・リサーチの現状と展望」と銘打たれたものでした。私は、「緩和医療学の新たな展開−臨床腫瘍学会に求められること−」というシンポジウムで発表をさせていただく機会を得ましたので、本セッションについてご紹介させていただきます。本シンポジウムでは、東京都立豊島病院緩和ケア科の向山雄人先生が司会を務められ、4人の演者の先生方から、各々異なった切り口の緩和医療学に関する発表が行われました。まず最初に、向山先生が緩和医療の現場で実践されている医療におけるevidenceの問題点に言及され、現時点において行われている神経因性疼痛に対する薬物療法、終末期における鎮静、輸液など緩和的な治療法の多くが良質なevidenceに裏打ちされたものではないという問題点に言及され、緩和医療においても今後より一層の臨床研究が必要であることを説かれました。さらに今後、より症状緩和技術を向上させていくために、緩和医療の領域においても科学的手法を用いたトランスレーショナル・リサーチが必要であることにも言及され、その一つとして向山先生が取り組まれている悪液質の病態解明に関する研究についてご紹介されました。次に、東海大学オンコロジーセンター・呼吸器内科の江口研二先生が、「がん緩和医療の標準化のステップ」というタイトルのもと、江口先生が中心になって行われた進行がん患者の全身倦怠感・食思不振に対するステロイドの有用性を検証するための多施設共同臨床試験のご経験についてご発表されました。江口先生はその臨床試験実施のご経験をふまえて、がん緩和医療の分野においても、標準的な治療指針を作成するためには臨床試験の実施体制を整備していくことの重要性を言及されるとともに、このような活動を通して緩和医療の診療の質の向上が期待されることを説かれました。その次に、私はサイコオンコロジーの領域に携わる立場から、「進行がん患者の精神症状緩和の現状と課題」というタイトルで発表をさせていただき、現時点における進行がん患者の精神症状を緩和していくうえでの内外の知見の概括および今後の課題について私見を発表させていただきました。最後に、静岡県立静岡がんセンターの濱口恵子先生が、「緩和医療学の新たな立場から−看護師の立場から日本臨床腫瘍学会に求めること−」というタイトルのもと、がん医療における緩和医療の位置づけの在り方に言及されました。とりわけ、がんの治療に加え、がん診断後早期から積極的に緩和医療を提供することの重要性についてご発表されました。さらに2002年9月に開院を迎えた我が国屈指のがん専門病院、静岡県立静岡がんセンターにおけるご経験(当初から緩和ケアを求める患者さんが多数来院されるであろうとの予想に反して、多くの患者さんが何らかの積極的がん治療を希望されて来院されたことなど)についてもご紹介されました。フロアからは、緩和医療に携わる医療者に対する臨床腫瘍医からの要望をはじめとして活発な議論が行われました。
 その他のシンポジウムにおいては、内外でご活躍の第一線の腫瘍専門医、研究者の先生方を中心とした興味深い発表が行われ、いずれも濃密な内容であるのみならず、質の高い議論が繰り広げられておりました。今回のシンポジウムで取り上げられたテーマは、間接的には緩和医療学会にも極めて関係の深い、あるいは今後テーマとして重要になってくる領域であろうと感じました。
 最後に、何よりも特筆すべきことは、この記念すべき第1回大会の4つのシンポジウムのうちの1つに緩和医療に関するテーマが選択されたことかと思います。これは、がん医療において緩和医療の重要性が認識されていることに他ならないことを示しているのではないでしょうか。
 以上簡単に本学会に参加した印象についてご紹介致しました。一参加者として、質素であっても学術的な内容を重視した学会運営、洗練された良質な発表と熱心な議論などを垣間見ることができ、非常に学ぶべき点が多い学会であったことを最後に付記しておきたいと思います。

Close