Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.19
May 2003

日本緩和医療学会 ニューズレター第19号

学会印象記
Asia Pacific Hospice Conferenceに参加して
国立がんセンター東病院緩和ケア科  磯野 雅子
 このたび、2003年3月5-8日にかけて大阪で開催されましたAsia Pacific Hospice Conferenceに参加させていただきましたので、本紙面をお借りしてご紹介させていただきます。
 この学会は、アジア・太平洋地域のホスピス・緩和ケアの発展をめざしてつくられたAsia Pacific Hospice Palliative care Networkが核となっており、今回もオーストラリア、香港、インド、インドネシア、韓国、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、台湾、タイ、ベトナムなどのアジア各国をはじめ、世界中からホスピス・緩和ケアに携わっている臨床家が集いました。
 今回は、“Evolution and Integration of Hospice Palliative Care”というテーマのもと、5テーマ((1) the spread of hospice palliative care (2) management,training & education (3) communication & ethics  (4) service development  (5) comprehensive care)30のプレナリーセッション、3つの基調講演、2テーマ((1) palliative care nursing (2) pain & symptom management)8つのシンポジウム、5テーマ((1) practice of palliative care &spiritual care (2) pain & symptom management (3)QOL & cultural Issues (4)service development & home care (5)bereavement care & volunteer activities)38のオーラルプレゼンテーションが開催されました。
 プレナリーセッションのservice developmentでは、今回参加している13カ国におけるこれまでの緩和ケアへの取り組み、現在の状況、今後の問題点などについてうかがう機会がありました。ひとつの国について約10分という短い時間ではありましたが、各国のシステムの多様性と共通の問題点を認識することができ、大変興味深いセッションでした。たとえば、緩和ケアの広がりという点について考えてみても、社会的、文化的背景によりさまざまで、たとえば、インドでは、緩和ケアの導入に際し、西洋のやり方をそのまま受け入れるのではなく、インドにある伝統的な経験や文化を共有しながら、家族やボランティアへの教育を軸に取り組んでいるとのことでした。また、マレーシアでは、在宅プログラムが開始されたあとで緩和ケア病棟ができたということでしたが、現在は、病棟=ハード面はそろったものの、卒後教育、コンサルタントの教育や認定の必要性が叫ばれているとのことでした。こういった問題は、各国に通じるところがあるのではないでしょうか?一方、日本でのホスピスはこの30年間で保険の適応に後押しされて、急速に発達したものの、在宅プログラムの発達はまだまだ極端に少なく、病院に依存したシステムである、ということをあらためて認識いたしました。つまり、緩和ケア施設の割合が諸外国と等しいとしても、提供されているcoverageとしては他国より少ないということで、今後の問題点となるのかと思います。
 基調講演では、Dr. Derek DoyleのChallenges and prospects in hospice palliative care in the worldという演題を興味深くうかがいました。その内容は、緩和ケアの発達における教育と研究の重要性に関するものでした。教育に関しては、医学部カリキュラムへの緩和ケアの導入が重要で、そうすることで緩和ケアに興味のある内科や外科の医師、オンコロジストが増え、医師は“死が不変で不可避なものであり、患者の死が必ずしも医療の失敗ではない”ことを学ぶ、とのことでした。また、研究に関しては、同僚を納得させられるだけの科学的根拠のある臨床データや薬学的データを示すことが必要であるが、いままではそれを怠ってきた。もし、緩和ケアを真剣に受け止めてほしいのなら、研究をして、比較できるデータを集め、発表する必要がある、というものでした。
 その他、よりよいケアを提供するために緩和ケアの質を評価しているという試み(たとえば、痛みは72時間以内に苦痛と感じない程度にコントロールしなければならないが、“質のよい緩和ケア”とみとめられるには、48時間以内にそれができなけばならないなど)、コミュニケーションに関連して、“一緒に意思決定をしている”という感覚が、患者の失望によるフラストレーションだけでなく、スタッフ間のケアや相互関係の上でも重要という報告なども多く取り上げられていました。また、“いつ抗がん剤治療をやめるか?”という問題について、医師と患者・家族それぞれに意識調査をおこなった報告もありました。結果は、機能的障害や認知的障害の副作用の場合、また、副作用と奏功率が半々である場合には、医師と患者・家族との見解の相違が高頻度だったということです。さらに、人工呼吸器をつけるかどうかの決定については、60%以上で医師と患者・家族間で見解の不一致を認め、このときの意思決定について誰が責任を負うべきか?という質問にでは、患者は医師に、医師は患者に責任あり、と考えていることがわかったそうです。この結果を通して、このギャップを埋める上での医師と患者・家族の間のコミュニュケーションの重要性が改めて認識されました。
 以上簡単に本学会に参加した印象についてご紹介いたしました。
 さらに、今後の発展としては、各国々の間で情報交換や情報提供を活発に行ないネットワークをつくること、そのようにしてできた独特の緩和ケアのあり方をヨーロッパやアメリカにも紹介していくことができれば、ということでまとめられていました。

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