Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.19
May 2003

日本緩和医療学会 ニューズレター第19号

Journal Club
Absence of Thermal Hyperalgesia in Serotonin Transporter-Deficient Mice
国立がんセンター中央病院緩和医療科  下山 直人
Absence of Thermal Hyperalgesia in Serotonin Transporter-Deficient Mice
Vogel C, Mossner R, Gerlach M et al
The Journal of Neuroscience 23(2):708-715, 2003

「はじめに」
 がんの痛みの中で神経障害性疼痛の治療は、モルヒネが効きにくいため治療が困難とされている。疼痛の機序としては脊髄の2次細胞の過敏化がNMDA受容体を介して起こっていると考えらえている。その治療に当たってはモルヒネに加え、鎮痛補助薬である抗うつ薬、抗痙攣薬、抗不整脈薬、NMDA受容体拮抗薬が経験的に使用され効果をあげている。特に抗うつ薬の作用機序として、内因性鎮痛機序の活性化、つまりセロトニン、ノルエピネフリンを介した下行性抑制系が関与しており、特にそれらの再取り込みの阻害がひとつの有力な機序と考えられている。今回、それを裏付けるためにセロトニンの再取り込みするためのトランスポーターをknockoutしたマウス(5HTT-/-:K)により、痛み刺激に対する反応を正常のマウス(5HTT+/+:N)と比較検討した。
「方法」
 痛み刺激としては、通常の坐骨神経絞厄モデル(CCI)を使用した。Nマウスではこれまでの結果どおり、坐骨神経をしばった結果、末梢の後肢に熱に対する過敏、機会刺激に対する過敏が起こった。熱刺激はHargreavesらの報告による熱刺激、機械刺激はvon Frey hairを用いて行った。指標としては、Paw-Withdrawal-Latency(PWL)にてマウスが熱刺激によって後肢をどけるまでの時間を計った。熱刺激だけでなく冷刺激としてアセトン刺激を行った。体全体の5-HTTの定量化も行った。
「結果」
 Kマウスにおいては、以上の刺激のうちNマウスに比べ、熱刺激に対する反応が有意に消失した。機械刺激に対する反応はNマウスと同様に出現した。冷刺激に対してはどちらも有意な過敏は起こらなかった。どちらのマウスでも繰り返しの熱刺激に対して体表の温度は変化しなかった。
「考察」
 Kモデルは、結果的にはKマウスにおいては全体の5-HTTの量は低下しており、抗うつ薬を生涯投与されているのと同様の状態であると考えられている。熱刺激に対する過敏が消失したことは、抗うつ薬がセロトニンの経路を介して鎮痛効果を表していることを示すことにつながる。しかし、熱刺激に対する反応だけが消失し、機械刺激に対する反応が消失しないことは説明できない。今後の検討を待ちたい。
「解説」
 本研究は、セロトニンのトランスポーターが消失することによってセロトニンの再取り込みが阻害され(抗うつ薬の慢性投与と同様の状態)鎮痛効果が現れることを示した点で、重要な研究である。しかし、どうして熱に対する刺激だけが消失したのかは不明である。
 これは逆に考えると、神経障害性疼痛には刺激の種類によって異なる反応性を持ったものがあることと考えることができる。現在、われわれは神経障害性疼痛を各種の刺激(熱、機械、化学)によって分類することを行っているがそれの根拠になると考えらえる。

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