Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.19
May 2003

日本緩和医療学会 ニューズレター第19号

Current Insight
緩和医療における代替療法の問題点
聖隷三方原病院 ホスピス  鄭  陽・森田 達也
 終末期癌患者への輸液の適応の是非は、この20年間医学論文上で取り上げられてきたもっとも重要な問題のひとつである。終末期癌患者の体液状態は病態生理が解明されておらず、輸液の有益性について見解の一致が認められていない。よってその病態生理を解明することが問題を解決していくのに有用であろうと考えた。
 体液状態の指標として一般的に使用されるのはBUNやクレアチニンであるが、終末期の場合には腎不全、筋量低下、異化亢進、消化管出血などの因子に影響されやすい。そこで我々は、当院ホスピスに入院した消化管閉塞を来している腹部原発の終末期癌患者のBNPとPRAを測定し、輸液の有無や浮腫、腹水、胸水、喘鳴の体液貯留徴候を調べた1。その結果、多くの患者に、輸液施行の有無に関わらず体液貯留徴候が高頻度に認められながらもPRAは上昇、BNPは低下しており、循環血液量の減少が示唆された。
 我々はこの研究から、血漿膠質浸透圧低下と膜透過性増加によって血管内から間質への体液の移動が起こることで循環血液量が減少し、それによりレニン−アンギオテンシン−アルドステロン系が刺激されてナトリウムと水の再吸収を促進し、そしてさらに体液貯留が増加する、という病態生理の仮説を立てた。終末期癌患者において輸液を行うことが、有効に循環血液量を増加させずに体液貯留徴候を悪化させる場合が多いことの説明に結びつく。
 輸液の是非の論点は、体液喪失状態へ調整することが患者の苦痛緩和に貢献するか、すなわち、輸液することの有益性が体液貯留徴候を悪化させる可能性よりも優先されるか、に集約される。これを解明していくためには終末期癌患者の体液状態の評価は不可欠であり、今後の研究においてPRAとBNPを測定することが有用となる可能性がある。本研究の結果は、現在、イギリスAcademic Palliative MedicineのAhmedzai教授の教室において追試が行われている。

【 文献 】
1. Morita T, Tei Y, Inoue S, Suga A, Chihara S: Fluid status of terminally ill cancer patients with intestinal obstruction: an exploratory observational study. Support Care Cancer 2002; 10:474-479

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