Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.19
May 2003

日本緩和医療学会 ニューズレター第19号

Current Insight
一般病棟と緩和ケア病棟の距離
滋賀県立成人病センター緩和ケア科  堀 泰祐
 滋賀県立成人病センターは琵琶湖の南東岸に位置する守山市にあり、滋賀県における地域がん医療拠点病院の指定も受けています。私は、京都警察病院外科から今年1月、新病棟に開設された緩和ケア病棟に赴任してきました。今まで外科医として末期がん患者の診療の経験も多く積んできましたが、緩和ケア専門医としてはまだ1年生です。私がはじめに強く感じたことは、一般病棟と緩和ケア病棟の間の距離の大きさでした。
 一般病棟で外科医としてがん患者に関わるときには、がんの診断・告知から手術、術後のケア、再発の治療、そして緩和ケアまで、経過のなかで患者とその家族に寄り添い、お互いの信頼を築くことができました。緩和ケア病棟では、末期のがん患者がいきなり目の前に現れるという、緊迫した状況につねに直面しなければなりません。患者と家族の信頼を勝ち取り、満足していただけるケアを提供し、良い看取りをしていただくための時間は短く限られています。
 時間的制限があるだけでなく、医学的判断の上でも十分に関わっていないための問題がおこることもあります。院内からの紹介の場合には、実際に患者を診察し担当医と意見を交わすこともできますが、他病院からの紹介患者の場合、紹介状だけで緩和ケアの適応と判断しても、実際に診てみるとまだがん治療の可能性が大いにあるということもあります。逆に予後1ヶ月と紹介された方が、数日で亡くなるということもあります。
 一般病棟から緩和ケア病棟への移行をスムーズに行うためには、乗り越えるべき多くの課題があるようです。緩和ケア医ができるだけ早い時期からがん患者に関わるということが、最も有効な方法の一つと思います。院内の患者についてはできるだけ早く紹介してもらい外来段階から長く関わりを持つこと、院外からの患者には往診をするなどして状況を把握し、早めに患者・家族との話し合いを持つことなどです。
 しかし、いかに努力しても初診からの主治医に関わりの上で勝ることは難しいでしょう。むしろ、一般病棟から緩和ケア病棟へという距離があるからこそ、緩和ケアの意味を理解してもらうための意識的な努力が必要であり、そのことを通して、がん治療から緩和ケアへの価値観の逆転につながるのかも知れません。そう考えると、この距離も積極的な意味を持つようにも思われてくるのです。

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