Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.19
May 2003

日本緩和医療学会 ニューズレター第19号

Current Insight
終末期がん患者の輸液に関する全国調査
− 輸液治療に対する医師の態度と考え方について
国立がんセンター東病院緩和ケア病棟  土井 千春・志真 泰夫
Attitude of Japanese Physicians Toward Terminal Dehydration: A Nationwide Survey
Tatsuya Morita, Yasuo Shima, and Isamu Adachi for the Japan Palliative Oncology Study Group
J Clin Oncol 2002; 20: 4699-4704

【目的】
 終末期がん患者に対する輸液治療に関して、近年医師の間では様々な論議が起こっている。緩和ケア専門医が終末期がん患者に対する一律な輸液治療は必ずしも苦痛の緩和に結びつかないと考える一方、治癒を目指すがん治療専門医は、患者の死亡直前まで大量の輸液治療を継続することが多い。この研究は、終末期患者への輸液治療に対する医師の姿勢と、それに関与する医師側の要因を明らかにする目的で行われた。
【対象および方法】
 全国がん(成人病)センター協議会加盟19施設、全国ホスピス緩和ケア病棟連絡協議会加盟75施設に勤務する常勤医師を対象とし、自記式調査用紙を用いて、横断調査として行った。1)回答者の背景、2)輸液治療実施に関連する医学的・心理社会的要因、回答者自身の考え方、3)仮想症例における輸液治療、の3項目に大きく分けられる質問を行った。仮想症例は、1)胃癌で消化管閉塞を伴うもの、2)肺癌で、食欲不振・悪液質が進行、いずれも推定される生命予後は1ヶ月以内と設定した。
【結果】
 アンケートは1123名に郵送され、584名の回答を得た(回答率52.5%)。仮想患者のうち胃癌症例に対して、50%が1日1000ml程度の輸液を行うという選択肢を選んでおり、1日1500mlまたはそれ以上の輸液を選択する回答者は24%であった。肺癌患者の場合、26%が輸液なし・あるいは500mlの輸液を選択し、58%が1000ml、1500ml以上の輸液を選択したのは8.4%のみであった。多因子解析の結果からは、輸液治療に積極的な医師の考え方に影響を及ぼす因子として以下の項目があげられた。1)ターミナルケアの経験が少ない、2)生理的な栄養・水分必要量を重視、3)症状緩和に輸液治療は効果的であると考えている、4)輸液治療は必要最低限のケアであると考えている。
【考察】
 医師は、「患者の価値観や希望」、「身体的苦痛」、「症状緩和の可能性」の重要性を認める一方、「生理的な栄養・水分量」を重視し、「症状緩和に輸液治療は効果的である」と信じ、「輸液治療は必要最低限のケアである」と考え、その度合いで、終末期がん患者に対する輸液治療に関する医師間の考え方の相違が生じることが明らかになった。今後、医師間の考え方の乖離を解決するには、「終末期癌患者の生理的な栄養・水分必要量」、「終末期癌患者の症状緩和に輸液治療は効果的であるかどうか」、さらに「なぜ医師は輸液を必要最低限のケアと考えるのか」を明確にすることが必要である。

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