Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.19
May 2003

日本緩和医療学会 ニューズレター第19号

巻頭言
緩和医療を考える
国立がんセンター総長  垣添 忠生
 がんは永い間、完治が難しい病気と考えられてきた。しかし、最近の基礎研究の成果により、がんは遺伝子の傷が集積した結果発生する、慢性の疾患であること、遺伝子の傷をつける要因の多くが私達の日常生活、生活習慣と深く関係することがわかってきた。この理解は、がんの診断にも、治療にも、予防にも重要である。最近になって、ようやくがんになった人の約半数は治せるようになってきた。それでも、残念ながら、半数の方は亡くなる訳である。だから、がん患者の約半数に起こりうる終末期をいかに充実した生として過ごしてもらえるか、を真剣に考える学問が生まれてきた。がん緩和医療学である。
 1989年、世界保健機構(WHO)は、がんの緩和医療とは、診断から終末期までの全過程におけるQOLを重視した医療、という捉え方を提唱した。必ずしも終末期医療のみに限定するのではなく、がん診療の全過程を対象として考える。この考え方が、緩和医療のみでなく、今や医療の世界全般に行きわたってきた。考え方の枠組みの変化といえよう。
 この枠組みの変化は重要である。キーワードで考えただけでも、がん患者さん、その家族、QOL、意思疎通の技術、告知のあり方、告知後のサポート、悪いニュースの伝え方、がんやがん医療に関する情報提供体制、患者さんのアドボカシー、疼痛、呼吸困難、消化器症状などに関するさまざまな終焉末期医療のあり方、亡くなった後の家族のケア…。従来の医療があまり重視してこなかった、ほとんど無際限ともいえるような多彩な問題が浮び上がってくる。
 他の関連学会との密接な連携が重要だが、一義的には日本緩和医療学会が主体的に取り組まなければならない課題ばかりである。この学会の特徴は、がん患者さん、家族を中心に捉え、医師、看護師、薬剤師、技師、臨床心理士、ソーシャルワーカーなど、の医療従事者、サイコオンコロジスト、呼吸や疼痛、薬理などに関する研究者、ボランテイアなど、実に多様な職種の人々が集まっていることにある。がん患者さん、家族を支えるために成し遂げなければならない問題は数多い。困難も多々ある。しかし、困難は克服されるためにある。本学会が総力をあげてこうした課題の解決に取り組み、大きな成果をあげることを願っている。それは即、がん患者さんのためになる。素晴らしい事だ。また、私自身もその一員として全力を尽くしたい。

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