Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.18
Feb 2003

日本緩和医療学会 ニューズレター第18号

学会印象記
米国神経科学学会印象記
国立がんセンター中央病院第2領域外来部  下山 直人
 去る平成14年11月2日より11月8日まで、米国のフロリダ州Orlandで開かれた米国神経科学会に参加した。米国神経科学会は臨床、基礎医学のみならず薬学、工学にいたるまで多くの科学者が一同に会する学会である。参加人数が多いため、米国の中でもWashington DCやNew Orleans、San Diegoなどの大きな都市でしか開催できない大きな学会である。Orlandは、もともと気候は一年を通じて温暖であり、Disney Worldでも知られており観光客が絶えない地域である。最近になって大きなConvention Centerが建設されこの地で初めて開催されることになった。
 内容は最新の分子生物学を駆使した研究から、地道な電気生理学的手法を用いた研究が数千題発表され、連日、熱い討論が交わされていた。この学会の特徴のひとつである4時間発表は、慣れない人が聞くと驚くと思われるが、我々はすでに3回行っており、実際に行っているとむしろもっと時間がほしい気持ちになるくらいである。学生から著名な教授にいたるまで次々にポスター前で討論が行われる。
 我々は血管内皮細胞に含まれるエンドセリンの中枢神経での役割を、エンドセリンノックアウトマウスを用いて行った研究、meth-A sarcoma cellを植えつけた疼痛モデルの研究を発表した。前者ではエンドセリンが動物のもともと持っている自分で痛みを調節する力である下行性抑制系に関わっている可能性を発表した。人間の疼痛抑制系はこれからの疼痛治療において非薬物療法を開拓する分野でもあり、我々は非常に興味を持っている領域である。後者はこれまでの人工的な疼痛モデルとは異なり、実際の腫瘍細胞によって発生する世界で最初の神経障害性疼痛モデルである。痛みのモデルとしての有用性を抗体染色によるc-fosの発現によって評価した。これまでの人工的な疼痛モデルは、坐骨神経を4本の糸で軽く縛り、ラットの下肢にアロディニア(本来痛みを起こさない刺激で痛みが起こる状態)を起こすモデルであり、実際の人間の痛みとは少し異なっていた。我々のモデルは、アロディニアだけでなくパンコースト肺がんなどで見られる自発的な神経障害性疼痛が起こっている状態に近い自発痛モデルである。人間の痛みは定量化できない部分が多いが、定量化できる部分も見つけていこうとすること、痛みの伝達において体内のどのような物質が関与しているかを実際の人間の痛みに近い状態を動物で再現し研究していこうとする意図である。いずれの研究も千葉大学大学院自律機能生理学教室とコーネル大学薬理学教室との共同研究である。
 海外での研究発表は緊張することが多いが刺激を受ける部分が多く、多くの研究者との共同研究をこれからも継続し、緩和医療の中での疼痛治療分野で貢献していきたいと思っている。

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