Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.18
Feb 2003

日本緩和医療学会 ニューズレター第18号

Current Insight
がんの標準治療で思うこと
東京都立駒込病院  佐々木常雄
 医療のあらゆる分野でEBMに基づいたガイドライン作りが盛んになっている。がんの領域においても、2001年3月、日本胃癌学会は「胃癌治療ガイドライン(医師用)」を、同12月には患者のための「胃癌治療ガイドラインの解説(一般用)」を発表した。ひとつのがんについて治療のすべてを示したガイドラインとしては日本では初めてのものであった。外国における治療ガイドラインの多くは「医療費削減が第一の目的」と聞いているが、このガイドラインは厚生労働省とは関係なく、日本胃癌学会が独自に企画、作成したものであり、目的は「標準的な医療水準を示し、施設間差を無くして患者に良質な医療を提供する」ことにある。また、胃がん治療について患者が理解を深め、医師と患者が共通の認識の下でインフォームドコンセントが行われる為に「一般用のガイドライン」は大きな役割をもっている。
 多くの医療機関では、必ずしも予後の告知が上手に行われていない現状で、標準治療を示すことは実は一方では患者に予後を示すこととなる。最も心配なことは、標準治療が無効となってしまったり、あるいはすでに標準治療が無い状態で見つかった場合の患者の「心のケア」についてである。もし、不幸にしてこのような場合でも患者に真実を告げることは大切な事であると考える。残された人生をどう生きるか、どのようなことが出来るか、相談するのに親身になってくれる医師、医療スタッフ、カウンセラーなどがそばにいてくれれば良いと思う。そして体調が悪くなった場合でも安心していられたらと思う。
 一生懸命働き社会のために貢献をした人、あるいは幸せな家庭を築いてきた人が、突然がんに侵され、「もう標準治療はありません」それだけ言って冷たく突き放す医師にあたって、泣く泣く私たちのところへ相談に来られる患者も少なくない(このような医師の教育は我々の責任ではあるが、偏差値だけで医学部に入り、仁の心を持たない者を学生時代ではなく、病院に勤務してから教育するのには、大変なエネルギーがいる)。あるいは、がんの専門病院で、臨床試験が終了すると追い出さんばかりにあつかわれ、セカンドオピニオンと称して(実は転院を希望して)訪れる患者さんも多い。患者が、人生の終末かもしれない時に、病魔と闘いながら、何処で安心して診てもらえるか、このためにうろうろしなければならないような社会は、けっして成熟した社会とは言えない。がん治療において標準治療を示すことは、一方ではこのような場合の「心のケア」の社会の体制づくりが急務なのである。
 いま、私は抗がん剤治療を専門にしてきた関係で、日本癌治療学会を中心に、いろいろながんの「抗がん剤の適正使用ガイドライン」作りに携わりながら、いつも頭から離れないのは「患者さんの心のケア」この事である。日本胃癌学会ではすでにガイドラインの改訂版の作業が進んでいる。

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