Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.18
Feb 2003

日本緩和医療学会 ニューズレター第18号

巻頭言
求められる新たな研究のパラダイム
兵庫県立看護大学  内布 敦子
  現在、私の研究班では、外来で化学療法を受ける患者さんの看護ケアニーズを調べるために患者さんと医師を対象に面接調査を行っています。まだ調査結果はまとまっていませんが、医師と患者が共通して必要と感じているニーズの一つに緩和ケアに関する相談があがっています。多くの患者さんが、緩和ケアに関する情報を求めていますが医師や看護師にそれを要求したこともなく、また与えられたこともないと話しています。そして、医師は、いよいよ化学療法が効かなくなったときに、そのことを告げるのがとても辛いことや緩和ケアの話はもっと前から話すことが必要とわかっているが、患者さんが治療に頑張っている間は話すのをためらわれると述べています。「そんなことを言ってないできちんと情報を提供すべきだ。」と言われるかもしれません。情報の伝え方についても優れた本が出版されていますので方法を知らないわけではありません。しかし、このような医師の気持ちは、私はとても大切であると思っています。むしろ相手の痛みがわかるからこそ、このように自分も痛み悩むのであって、決して臆病なわけではないのです。自分自身の気持ちを大切にしながら、それでも真摯に相手に伝えることが上手に出来ればいいなあと思いますが、そう簡単なことではないと思います。
 さて、患者との間で厳しい予後について話をする場面で医師や看護師が遭遇するストレスには相当のものがありますが、その領域の研究はあまり進んではいません。医学をはじめとするいわゆるサイエンスは、いつも客体である研究対象を自分以外に置いてきたので、自分自身を研究することには慣れていないのです。研究方法も持たないので、そのようなことは科学研究とは言えないと思ってしまうのです。科学の概念も時代と共に変化しており、主観的な思いや相互関係など状況がらみの冗長なデータを扱う研究方法も確立されてきていますが、それに取り組むことは、がん治療医から緩和ケア医に自分の立場を変えるより遙かに難しいことであると思います。今後、緩和ケアの研究の領域で、パラダイムの異なるこのような研究が積み重なり、ターミナルの現場でおこる現象の意味が明らかになれば、「不安やストレスは軽減しなければならない」といった『ねばならない思考』から開放されて、ケアの意味を自由な発想で考えられるようになるかもしれません。

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