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苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン(2010年版)

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6章 文献的検討の要約
2 生命倫理学的検討
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2005年版ガイドライン作成後の緩和ケア病棟に対する調査
1. 2005年版ガイドラインに基づく深い持続的鎮静の効果と安全性
 わが国の緩和ケア専門病棟21施設において,ガイドラインに沿って深い持続的鎮静が行われた連続終末期がん患者102名に対しての多施設前向き観察的研究が行われ,報告されている(Morita 2005a)。臨床医が前向きに患者の症状の強さ,コミュニケーション能力,呼吸数,鎮静に関連する合併症を評価した。その結果によると,鎮静は症例の83%において症状緩和に役立っていた。深い鎮静が1時間にわたり得られるまでの時間は,中央値で60分であったが,49%の患者では,一度,深い鎮静状態に入ったあとで覚醒していた。明瞭なコミュニケーションが得られる患者の割合は,鎮静前では40%であったが,鎮静4時間後は7.1%まで低下し,the Communication Capacity Score は15ポイントまで有意に低下した(p<0.001)。呼吸数は鎮静前後で有意な減少は認められなかったが(18±9.0回/分と16±9.4回/分,p=0.62),呼吸抑制(呼吸数8回/分以下)や循環抑制(収縮期血圧60mmHg以下または50%以上の低下)は20%の患者で認められ,致死的な状態に陥ったのは3.9%であった。適切な症状緩和が得られるかどうかは,患者の年齢や性別,PS,対象症状,鎮静薬の種類や初期投与量での有意な差は認めなかった。呼吸抑制や循環抑制は,せん妄に対して鎮静が行われ,the Agitation Distress Scale で高い点数にあった患者ほど,有意に高頻度に認められた。ミダゾラムが高投与量になった症例は,年齢が若い,黄疸がない,以前ミダゾラムの投与を受けていた,鎮静の期間が長い,ことと有意に相関していた。鎮静は緩和困難な症状をもつ終末期がん患者の大多数において有効かつ安全な治療であり,鎮静に関連した致死的な合併症はわずかにしか認められなかった。今後,異なる鎮静方法による比較試験がより効果的で安全性の高い鎮静のプロトコール決定のためには必要となるであろう,としている。
2. ガイドラインに基づく鎮静施行に関する倫理的考察
 わが国の緩和ケア専門病棟21施設において,ガイドラインに沿って深い持続的鎮静が行われた連続終末期がん患者102名に対しての多施設前向き観察的研究が行われている(Morita 2005b)。研究の前に鎮静の倫理的妥当性として,臨床医の意図,相応性,患者の意思の観点から概念化している。その結果によると,鎮静は主にミダゾラムとフェノバルビタールによって行われていた。開始量はそれぞれミダゾラムが1.5mg/時間,フェノバルビタールが200mg/日であった。主な投与経路は持続皮下注射か持続静脈注射であり,急速静脈注射は認めなかった。人工的水分投与あるいは経口より水分が摂取できていた59名の患者のうち63%は鎮静後も人工的水分投与が行われていたが,それ以外の患者では水分過剰症状があるため,あるいは患者が希望しなかったために,人工的水分補給は中止となったか開始されなかった。また,言語的コミュニケーションが取れる患者66名のうち,95%では苦痛は耐えられないと明確に述べられていた。鎮静が必要となった症状の原因は,がん悪液質や臓器不全などのような潜在する悪性疾患の進行によるものであり,標準的な緩和医療(倦怠感をもつ患者の68%にコルチコステロイド,呼吸困難感をもつ患者の95%にオピオイドの投与)でも改善が得られないものであった。気道分泌過多をもつ患者の75%に分泌抑制薬が,せん妄をもつ患者の74%に向精神薬が,疼痛をもつ患者のすべてにオピオイドが投与されていた。the
Palliative Prognostic Index に基づくと,94%の患者が3週間以内の生命予後と判断された。鎮静の前に67%の患者は鎮静に対する明確な希望を述べていた。残る34名の患者では,鎮静に関する以前からの希望が記録されていたのが4名であり,ほかの30名では治療方針の決定は家族とともに行われていた。患者が治療方針の決定に参加できなかった主な理由は認知障害であった。これらのデータは,一般的にわが国の専門的緩和ケア病棟において,鎮静は2重効果の原則と相応性の原則,自律性の原則に沿って行われていることが示された,としている。

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