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苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン(2010年版)

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6章 文献的検討の要約
1 医学的検討
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鎮静や安楽死施行における臨床医の態度に関する臨床的研究
 苦痛緩和のための鎮静は安楽死との異同について懸念されることが多いため,臨床医の態度に関する研究がいくつか報告されている。
 オランダの臨床医410名における終末期鎮静と安楽死の実際に関する臨床的状況の相違についての面接調査が報告されている(Rietjens 2006)。それによると,終末期鎮静を行った患者は安楽死を受けた患者より,不安(37% vs 15%)と混乱(24% vs 2%)が多かった。安楽死の要求は尊厳の喪失(63%)と改善しない苦悩の感覚(82%)に関連しており,一方,終末期鎮静の要求は強い疼痛(57%)と関連していた。安楽死には筋弛緩薬とバルビツール系薬が使用され(94%),終末期鎮静にはベンゾジアゼピンやモルヒネが使用(96%)されていた。安楽死では94%で1時間以内に死が訪れていたが,終末期鎮静では61%が24時間以上生存していた。また,臨床医は終末期鎮静により1週間以上生命を短縮すると予想していたのは27%であったが,安楽死においては73%が予想していたと報告されている。
 また,米国の臨床医に対する質問紙調査(Pomerantz 2004)では,臨床医の73%が終末期鎮静を経験しており,93%は終末期鎮静は必要なものと回答していた。そのうえで,「終末期鎮静を行う場合,臨床医として第一に意図することは何か」という問いに対しては,69%が「生命が短縮する可能性があるが,緩和困難な症状に対する治療」と答え,27%が「緩和困難な症状に対する治療」,4%が「生命を短縮させる治療」と答えていた。「終末期鎮静を行う場合,結果として予想されること」についての質問には,75%が「生命が短縮する可能性があるが,緩和困難な症状に対する治療」と回答しており,17%が
「緩和困難な症状に対する治療」,8%が「生命を短縮させる治療」と回答していた。「終末期鎮静は安楽死とはまったく異なる方法がとられる」という意見に対しては,鎮静経験のある医師では64%が賛成,鎮静経験のない医師では71%が賛成していた。また,「終末期鎮静は苦難・苦悩から解放するためには,臨床医として行わなければならないものである」という意見に対しては,鎮静経験ありの群では95%が賛成し,鎮静経験なしの群では69%であったと報告されている。
 コネチカット州の内科医677名に対する終末期鎮静と臨床医による自殺幇助に関する意識についての無記名郵送法調査が行われている(Kaldjian 2004a)。回答者の78%は,積極的な疼痛治療にもかかわらず緩和できない疼痛があるならば,終末期鎮静は倫理的に許容されると考えていた。一方,終末期鎮静に賛成していた群のうち38%は,症例よっては臨床医による自殺幇助は倫理的に容認されると考えていた。回答者の47%は,終末期鎮静には賛成するが,臨床医による自殺幇助は認められないとしていた。臨床医による自殺幇助に反対する要因としては宗教をもっているかどうか,宗教に対する熱心さ,終末期患者のケアを行っている症例数が影響していたとしている。
 ドイツ臨床医における倫理的問題に関する意識調査において,臨床医を対象として,安楽死,自殺幇助,終末期鎮静に対する態度を評価した報告がある(Müller−Busch 2004)。411名の臨床医を対象に,終末期ケアにおいて耐え難い苦痛をもった14の仮想症例における多項選択式質問紙調査を行った。回答率は61%。安楽死に対しては90%,自殺幇助については75%,精神科疾患患者に対する自殺幇助は94%の臨床医が反対の立場をとった。終末期鎮静に対しては94%で受け入れられていた。個人的な判断のもとになる要因としては,個人的な倫理的価値観82.9%,専門的な緩和医療に関する経験72.5%,代替的なアプローチの知識55.4%,医学的ガイドラインの知識38.2%,信仰的信念27.9%であり,ナチスに関する知識はほとんど安楽死否定には影響していなかったとしている。
 オランダ市民1,388名と臨床医391名の意見調査(積極的安楽死,終末期鎮静,死亡直前期におけるモルヒネの増量に関する仮想症例に対する意見)においては(Rietjens 2005),積極的安楽死の受容は市民(85%)のほうが臨床医(64%)よりも高かった。また,臨床医においては積極的安楽死の受容は,意思決定能力のない成人では36%,重篤でない患者においては11%,認知症の患者では6%と低下した。一般市民ではそれぞれ63%,37%,62%であった。また,両群において,終末期鎮静とモルヒネの増量においてはその受容に有意な差は認めなかった。一般市民における安楽死支持の決定因子として,無宗教,低教育,独身が認められた。

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