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苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン(2010年版)

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6章 文献的検討の要約
1 医学的検討
2
対象症状
 表5 に示した研究からは,全患者を母数とした深い持続的鎮静の対象症状は,せん妄(13.1%),呼吸困難(11.5%),倦怠感(8.9%),疼痛(5.1%),嘔気・嘔吐(1.8%),精神的苦痛(1.2%)などであった。
 27論文を対象とした系統的レビューでは,鎮静の対象症状は不穏(26%),疼痛(21%),混乱(14%),呼吸困難(12%),ミオクローヌス(11%),精神的苦痛(9%),嘔気・嘔吐(3%)であった(Cowan 2001)。また,2 つの観察的研究におけるせん妄症状に対する深い持続的鎮静の施行率は,全患者の5.9%,10%であった(Morita 2001a;Stiefel 1992)。
 以上から判断して,鎮静の主要な対象症状は,せん妄,呼吸困難,疼痛であり,ときに,倦怠感,嘔気・嘔吐,ミオクローヌス,精神的苦痛などが対象となると考えられる。
 実存的苦痛に対する鎮静に関しては,仮想4 症例(生命予後の長短と身体的苦痛・実存的苦痛の組み合わせ)に対する意見調査(Blondeau 2005)において,苦痛が身体的なものであれば鎮静が必要と考えるが,実存的な苦痛である場合には鎮静を行うことに躊躇が認められたとの報告がある。
 また,心理社会的苦痛に対する深い持続的鎮静の施行頻度について,わが国の105 名の緩和ケア病棟医に対する質問紙調査が報告されている(Morita 2004c)。その調査では,36%の回答者において心理社会的な苦痛に対して深い持続的鎮静を行ったことがあると答えていた。全症例数から検討すると,8,661 例中90 例であった(1.0%)。そのうち,46例の内容について検討するとPS が3−4 であったのが96%,予測される生命予後が3週間未満であったのが94%であった。
 鎮静を希望した苦痛の内容は,意味のなさ/価値のなさ61%,他者への迷惑/依存/セルフケアの低下が48%,強い不安/恐怖/パニックが33%,死亡時期を自分で決めたいが24%,孤独/ソーシャルサポート不足が22%であった。鎮静施行の前には,間欠的鎮静(94%)や特別な精神科的,心理的,宗教的ケア(59%)が行われていた。26名の抑うつ患者の89%では抗うつ薬が投与されていた。意思決定能力のある患者はすべて,明確な鎮静の希望をもっており,家族の鎮静に対する同意も得ていた。また,98%では治療に対する看護師の同意が得られており,95%の患者は繰り返し鎮静を求めていた。一方で,複数の臨床医で相談がなされていたが44%で,多職種カンファレンスが行われていたのは54%であった。また,精神科医への対診依頼がされていたのは17%であった。心理実存的な苦痛に対する鎮静はわが国においては稀なことであるが,全身状態が極めて悪く,間欠的鎮静や特別なケアによっても緩和されない状況にあり(proportionality),患者・家族からの同意(autonomy)も得られているならば倫理的にも許容されると考えられたと報告している。

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