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苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン(2010年版)

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6章 文献的検討の要約
1 医学的検討
1
1. 鎮静方法の選択
 鎮静の施行頻度を調べた多施設の前向き研究は存在しない。表4に報告されている鎮静の施行率を示す(Cameron 2004;Chiu 2001;Fainsinger 1991, 1998a, 2000a, 2000b;池永 1995;Kohara 2005;近藤 2002;Morita 1996d;Stone 1997b;Ventafridda 1990)。深い持続的鎮静の頻度は,6.7%から68%まで大きな差がある。これらの研究における累積患者数から計算した深い持続的鎮静の施行率は28%(520/1,841例),および,各報告の鎮静率の中央値は21%であった。
 イタリアの13の在宅ホスピスにおける研究では,深い持続的鎮静の施行率は0〜60%(中央値=36%)であった(Peruselli 1999)。わが国の緩和ケア病棟81施設を対象とした調査では,身体的苦痛に対する深い持続的鎮静の施行率は,33施設(41%)で10%未満,43施設(53%)で10〜50%,5施設(6.2%)で50%以上であった(Morita 2004a)。わが国のがん治療病棟と緩和ケア病棟の看護師を対象とした調査では,深い持続的鎮静を必要とした患者の累積割合は31%(3万5,214/11万1,990例)であった(Morita 2004b)。
 以上から判断して,深い持続的鎮静の施行頻度は,全患者の20〜35%と見積もられる。
 なお,わが国の緩和ケア病棟の医師105名における深い持続的鎮静の頻度と影響要因についての質問紙調査がある(Morita 2004a)。その結果によると,身体的苦痛に対する深い持続的鎮静の施行頻度は,10%以下が41%,10〜50%が53%,50%以上が6.2%であった。また,心理実存的苦痛に対する深い持続的鎮静の頻度は,0%が64%,0.5〜5%が32%,10%以上が3.6%であった。深い持続的鎮静は,①はっきりとした意識が良い死には必要であるとは考えていない,②鎮静はしばしば生命予後を短縮させるとは考えていない,③がん・緩和ケアの専門看護師とともに働いている,④治療を実際に試さずとも緩和困難として判断する,⑤間欠的鎮静よりも持続的鎮静を第一に行う,⑥フェノバルビタールをよく使用する,と回答した医師ほど施行頻度が高かった。
 鎮静の頻度に関しては,良い死に対する臨床医の考え方,生存期間に対する鎮静の影響に関する考え方,臨床医の医学的実践が影響していたと報告されている。
表4 頻度・対象症状

(
 対象数)
Ventafridda
1990
(イタリア
 120)
Fainsinger
1991
(カナダ
 100)
池永
1995
(日本
 202)
Morita
1996d
(日本
 143)
Stone
1997b
(イギリス
 115)
Fainsinger
1998a
(南アフリカ
 79)
深い持続的鎮静(%)

27
(520/1,841)
53 16 68 (20)

48
26 (18)

30
  対象症状†(%) (n=1,157)            
  せん妄・混乱 13.1 7.4 10 11   16  
  呼吸困難 11.5 22   17   5.2  
  全身倦怠感 8.9     39      
  疼痛 5.1 21 6.1 0.95   5.2  
  嘔気・嘔吐 1.8 3.2          
  出血 0.2            
  精神的苦痛 1.2            
  家族の苦痛 0.3         6.8  
*:「通常死亡前に中止」, † : 深い持続的鎮静の対象症状が明記されている研究において全患者を母数とした割合(%)
(表4 つづき)
Fainsinger
2000a
(カナダ
 150)
Fainsinger
2000b
Chiu
2001
(台湾
 251)
近藤
2002
(日本
 70)
Cameron
2004
(南アフリカ
100)
Kohara
2005
(日本
 124)
(イスラエル
 100)
(南アフリカ
 94)
(南アフリカ
 93)
(スペイン
 100)
6.7 15 29 36 22 (13)*

28
(11)

33
20 50.3
                 
6.0 14 8.7 23 16     9.0 10.6
0.67 1.0 13 12 2.0     2.0 31.7
              1.0 20.1
  1.0 4.4 1.1 0.99       12.6
    6.4 3.3       5.0 5.0
  1.0     2.0        
    1.1 1.1 5.1        
        4.0        

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