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苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン(2010年版)

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5章 推奨と委員会合意
3 治療とケアの実際
3
鎮静の開始
1. 鎮静方法の選択
 苦痛を緩和できる範囲で,意識水準や身体機能に与える影響が最も少ない方法を優先する。すなわち,一般的には,間欠的鎮静や浅い鎮静を優先して行い,深い持続的鎮静は間欠的鎮静や浅い鎮静によって十分な効果が得られない場合に行う。
 ただし,患者の苦痛が強く,治療抵抗性が確実であり,死亡が数時間から数日以内に生じることが予測され,かつ,患者の希望が明らかであり,間欠的鎮静や浅い鎮静によって苦痛が緩和されない可能性が高いと判断される場合,深い持続的鎮静を最初に選択してもよい。
2. 人工的な水分・栄養の補給についての決定
 人工的な水分・栄養の補給を行うか否かについては,患者の意思,および,治療目的(苦痛緩和)からみて,患者にとっての益(benefits)と害(harms)を総合的に評価する。水分・栄養の補給は,鎮静とは別に判断するべきものである。鎮静開始前に患者が経口摂取できている場合,あるいは,水分・栄養の補給を受けている場合,鎮静開始後の水分・栄養の補給についてあらかじめ患者・家族と相談しておくことが望ましい。
 水分・栄養補給による体液過剰兆候が苦痛を増悪させる場合,患者・家族の意思を尊重したうえで減量・中止を検討する。水分・栄養補給が患者の苦痛を和らげている可能性がある場合,患者・家族の意思を尊重したうえで継続する。
[コミュニケーションの例](輸液の減量・中止を提示する)
 「最近,むくみ(腹水・胸水)がふえてきました。今まで,お食事が召しあがれないので点滴をしてきたのですが,かえって負担になっているようです。今は,からだに水分はあるのですが,有効に使うことができず,たまってきている状態です。この状況ですと,点滴の量は少なくしたほうが,からだは楽になると思います。」
● 輸液を減量したために衰弱が進行するわけではないことを保証する
 「点滴を減らすと,そのせいで余計に衰弱するという心配をされるかもしれませんが,今の状態では点滴を無理に入れても栄養や水分が吸収されていない状態ですので,点滴を減らしたせいで衰弱するということはないと考えています。」
3. 苦痛緩和が目的ではない治療についての決定
 昇圧薬の投与,バイタルサインの精密な監視,定期的な採血など,治療目的(苦痛緩和)と一致しない治療や検査の実施について,あらかじめ患者・家族と相談しておくことが望ましい。DNR(心肺蘇生処置をしないこと)の同意を得る。
4. 鎮静開始前に用いられていた薬剤の調節
 苦痛緩和のために鎮静前から投与されていた薬剤は,効果がないと判断される場合を除いて継続する。治療目的と一致しないと判断される薬剤(降圧薬など)は中止を検討する。
 オピオイドは,苦痛の緩和を重視する観点から,過量投与の徴候(呼吸数の減少,ミオクローヌスなど)がみられなければ継続投与する。苦痛が緩和されており,過量投与の徴候がみられる場合は減量する。
5. 患者・家族の気がかりへの配慮
 鎮静を開始する前にしておきたいこと(大切な人と会っておくこと,話をすることなど)について,患者と家族の気持ちを確認する。
[コミュニケーションの例](鎮静を受ける前にしておきたいことを説明する)
 「しばらくして先ほどお話したお薬を始めます。少しずつ眠くなってくると思います。眠くなる前にお話しておきたい方や伝えておきたいことはありますか?」
6. 鎮静の開始
1)鎮静薬の選択
 深い持続的鎮静に用いる第1選択薬はミダゾラムである(表3−1)。ミダゾラムが有効でない場合には,ほかの薬剤(フルニトラゼパム,バルビツール系薬剤,プロポフォールなど)を使用する(表3−2,3−3)。
 オピオイドは意識の低下をもたらす作用が弱く,かつ,蓄積により神経過敏性を生じ得るため,深い持続的鎮静に用いる主たる薬剤としては推奨しない。ただし,疼痛および呼吸困難を緩和するためには有効であるため併用してよい。
 ハロペリドールは意識の低下をもたらす作用が弱いため,深い持続的鎮静に用いる主たる薬剤としては推奨しない。ただし,せん妄を緩和するためには有効であるため併用してよい。
 鎮静の適応となる患者は,経口薬の内服は不可能であるという前提から,注射剤の投与を推奨する。しかし,患者の状態(内服可能)や薬剤の選択(利用可能な薬剤)に応じて,内服薬・坐薬の使用を妨げるものではない。
2)鎮静の開始
 鎮静のための薬剤は,原則として,少量で緩徐に開始し,苦痛緩和が得られるまで投与量を漸増する。苦痛緩和が得られるまで,必要に応じて追加投与を行ってもよい。ただし,苦痛が強い場合には,十分な観察と調節のもとに,苦痛緩和に十分な鎮静薬を投与し,苦痛が緩和されたあとに減量してもよい。
3)具体的な鎮静の方法
持続的鎮静:
中止する時期をあらかじめ定めずに,意識の低下した状態を維持する。主にミダゾラムの持続皮下注射・持続静脈注射,フェノバルビタールの持続皮下注射などが行われる。
間欠的鎮静:
一定期間意識の低下をもたらしたあとに薬剤を中止・減量して,意識が低下しない時間を確保する。主に,ミダゾラムの静脈注射により行われることが多い。
深い鎮静:
言語的・非言語的コミュニケーションができないような,深い意識の低下を目標として薬剤投与量の調整を行う。
浅い鎮静:
言語的・非言語的コミュニケーションができる程度の,軽度の意識の低下を目標として薬剤投与量の調整を行う。
表3-1 持続的鎮静に用いられる薬剤
投与薬剤 開始量 投与量 投与経路
ミダゾラム 投与開始量は,0.2〜1mg/時間持続皮下・静注。1.25〜2.5mgの追加投与を行ってもよい。 投与量は,5〜120mg/日(通常20〜40mg/日) 静脈,皮下 水溶性で他剤と混注できる,抗痙攣作用,短作用時間,拮抗薬が存在する,用量依存性の鎮静効果。 耐性,離脱症状,奇異性反応,舌根沈下,呼吸抑制。保険適応は全身麻酔時の導入および維持,集中治療における人工呼吸中の鎮静であり,注意すること。
*保険適応外の投与経路
表3-2 間欠的鎮静に用いられる薬剤
投与薬剤 投与量 投与経路
ミダゾラム 10〜30mg(開始量は10mg)を生理食塩液100mLに溶解し,患者の状態を観察しながら,投与量を調整する。 水溶性で多剤と混注できる。抗痙攣作用,短作用時間,拮抗薬が存在する。用量依存性の鎮静効果。 耐性,離脱症状,奇異性反応,舌根沈下,呼吸抑制。保険適応は全身麻酔時の導入及び維持,集中治療における人工呼吸中の鎮静であり,注意すること。
フルニトラゼパム 0.5〜2mgを0.5〜1時間で緩徐に点滴静注。   舌根沈下,呼吸抑制
表3-3 鎮静の種類と投与薬剤
  浅い持続的鎮静 深い持続的鎮静 間欠的鎮静 坐薬による鎮静
ミダゾラム +++ +++ +++  
フルニトラゼパム ++ +++  
フェノバルビタール ++   ++
プロポフォール   ++    
ヒドロキシジン   ++  
ジアゼパム       ++
ブロマゼパム       ++
+++:強く推奨する。++:推奨する。+:推奨し得る。

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