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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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3章 推 奨
4 特定の病態による痛みに対する治療
7
消化管閉塞による痛み
消化管閉塞による痛みに対する有効な治療は何か?
関連する臨床疑問
62
消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して、行うべき評価は何か?
63
消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
64
消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して、消化管分泌抑制薬(オクトレオチド、ブチルスコポラミン臭化物)は、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
65
消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して、コルチコステロイドは、プラセボに比較して痛みを緩和するか?

62
痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。
63
消化管閉塞による痛みのある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う(P104,Ⅲ-1共通する疼痛治療の項参照)。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
64
消化管閉塞による痛みのある患者に対して、オクトレオチドまたはブチルスコポラミン臭化物のいずれかを使用する。2B(弱い推奨、低いエビデンスレベル)
65
消化管閉塞による痛みのある患者に対して、コルチコステロイドを使用する。2B(弱い推奨、低いエビデンスレベル)
●フローチャート 
フローチャート
痛みの原因の評価と痛みの評価を行い、原因に応じた対応を行う。疼痛治療としては、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドを投与する。消化管分泌抑制薬、コルチコステロイドの投与を行う。
臨床疑問62
消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して、行うべき評価は何か?
推 奨
痛みの原因の評価と痛みの評価を行う(P24,Ⅱ-2 痛みの包括的評価の項参照)。
1)痛みの原因を身体所見や画像検査から評価する
 痛みの原因として、がんによる痛み以外の可能性も含めて評価する。病歴・身体所見・腹部単純X線・腹部超音波検査などから、消化管閉塞の外科治療適応について検討する。便秘、腹水、腸管の拡張など、痛みに関連する治療可能な他の要因があるかについて評価を行い、それぞれ、排便コントロール、腹水のコントロール、腸管の減圧などを検討する。
2)痛みの評価を行う
 痛みの日常生活への影響、痛みのパターン(持続痛か突出痛か)、痛みの強さ、痛みの部位、痛みの経過、痛みの性状、痛みの増悪因子と軽快因子、現在行っている治療の反応、および、レスキュー・ドーズの効果と副作用について評価する。特に、持続痛か突出痛か(消化管の蠕動による突出痛があるか)、増悪因子・軽快因子(食事や排便が影響しているか)、行っている治療の効果や副作用について評価する。
臨床疑問63
消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
推 奨
消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる鎮痛治療は痛みを緩和する。
消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
 消化管閉塞による痛みに限定した臨床研究は限られている。しかし、消化管閉塞による痛みを含むがん疼痛に対するWHO方式がん疼痛治療法が有用性を示した複数の観察研究がある(P31,Ⅱ-3 WHO方式がん疼痛治療法の項参照)。
**
 以上より、消化管閉塞による痛みのある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、痛みを緩和すると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、消化管閉塞による痛みのある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うことを推奨する。
臨床疑問64
消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して、消化管分泌抑制薬(オクトレオチド、ブチルスコポラミン臭化物)は、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
推 奨
消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して、消化管分泌抑制薬(オクトレオチド、ブチルスコポラミン臭化物)は、痛みを緩和する可能性がある。
消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して、オクトレオチドまたはブチルスコポラミン臭化物のいずれかを使用する。2B(弱い推奨、低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関連する臨床研究としては無作為化比較試験が3件ある。いずれの研究もオクトレオチドとブチルスコポラミン臭化物の効果を比較したものであり、オピオイドの単独治療と、消化管分泌抑制薬とオピオイドとの併用治療の効果を比較したものではない。
 Mystakidouら1)による、外科治療不能のがんによる消化管閉塞のある患者68例を対象に、痛みを含む腹部症状に対するブチルスコポラミン臭化物60〜80mg/日とオクトレオチド0.6〜0.8mg/日の効果を比較した無作為化比較試験では、いずれも痛みのVAS 値(0−10)が3日後に改善し、両群に有意差はなかった(5.4→1.3 vs 5.1→1.1,p>0.05)。両群ともオピオイドやクロルプロマジンなどが併用されていた。重篤な副作用はなかった。
 Ripamontiら(2000)2)による、外科治療不能の胃管が挿入されたがんによる消化管閉塞のある患者17例を対象に、持続痛・蠕動痛を含む腹部症状に対するブチルスコポラミン臭化物60mg/日とオクトレオチド0.3mg/日の効果を比較した無作為化比較試験では、いずれも痛みのVRS値(4段階)が3日後に改善し(持続痛:1.4→0.4 vs 1.4→0.3,p>0.05;蠕動痛:0.9→0.1 vs 0.7→0.1,p>0.05)、両群に有意差はなかった。副作用について記載がない。
 Mercadanteら3)による、外科治療不能のがんによる消化管閉塞患者18例を対象に、持続痛・蠕動痛を含む腹部症状に対するブチルスコポラミン臭化物60mg/日とオクトレオチド0.3mg/日の効果を比較した無作為化比較試験では、いずれも、痛みのVRS値(4段階)が2日後により改善傾向であり(持続痛:1.8→1.2 vs 0.6→0.3;蠕動痛:0.4→0.2 vs 0.4→0.1, p>0.05)、両群に有意差はなかった。患者死亡およびデータ欠損による脱落症例が17%あった。副作用については記載がない。
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 以上より、痛みを評価項目としてプラセボとの比較による無作為化比較試験がないため十分な根拠ではないものの、消化管閉塞による痛みのある患者に対して、消化管分泌抑制薬(オクトレオチド、ブチルスコポラミン臭化物)は、痛みを緩和する可能性があると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、専門家の合意により、鎮痛効果が期待され、重篤な副作用が少ないという理由で、消化管閉塞の痛みに対して、オクトレオチドまたはブチルスコポラミン臭化物のいずれかを使用することを推奨する。
 特に、蠕動痛に対しては、抗コリン作用の強いブチルスコポラミン臭化物の使用を検討する。
臨床疑問65
消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して、コルチコステロイドは、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
推 奨
消化管閉塞による痛みのある患者に対して、コルチコステロイドは、痛みを緩和する可能性がある。
消化管閉塞による痛みのある患者に対して、コルチコステロイドを使用する。2B(弱い推奨、低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関連する臨床研究として、1件の系統的レビューがある。Feuerら4)の系統的レビューでは、がんによる消化管閉塞のある患者を対象に、コルチコステロイドとプラセボの効果を比較した2件の無作為化比較試験を検討した。対象患者は97例であり、消化管閉塞の再開通(嘔吐や蠕動痛などの症状の消失、軽食の摂取が可能、排ガスあるいは蠕動の存在と定義)のNNTは6であり、コルチコステロイドは消化管閉塞の症状緩和に有用な可能性が示唆されると結論している。これらの研究は直接、腹痛に対する効果を評価したものではないものの、再開通の結果として腹痛の改善が得られる可能性がある。
 Hardyら5)による、がんによる消化管閉塞患者39例を対象に、デキサメタゾン16mg/日とプラセボの効果を比較した無作為化比較試験では、デキサメタゾン群で消化管閉塞の再開通が多く認められる傾向であった(62% vs 57%)。副作用は1例が胃腸障害で中断、数例で肛門周囲の不快感が生じたが、重篤な副作用はなかった。
 Lavalら6)による、がんによる消化管閉塞患者58例を対象に、メチルプレドニゾロン40mg/日 静脈内投与(または240mg 経口投与)とプラセボの効果を比較した無作為化比較試験では、メチルプレドニゾロン群で消化管閉塞の再開通が多く認められた(59% vs 33%,p=0.080)。副作用はなかった。
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 以上より、消化管閉塞による痛みのある患者に対して、コルチコステロイドは、痛みを緩和する可能性があると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、上記の知見と専門家の合意により、消化管閉塞による痛みのある患者に対して、コルチコステロイドを投与することを推奨する。
既存のガイドラインとの整合性
 EAPCの消化管閉塞についてのガイドラインでは、悪性腫瘍による消化管閉塞に伴う持続痛および蠕動痛は、WHO方式がん疼痛治療法に従ったオピオイド投与、消化管分泌抑制薬を投与し、オピオイド投与により残存する蠕動痛に対してはブチルスコポラミン臭化物などの抗コリン作用薬を推奨している。コルチコステロイドの有用性については、まだ結論がでておらず、痛みに限定する記載ではないが、制吐効果および腫瘍や神経周囲の浮腫を改善することで症状緩和に有用な可能性があるとしている。
(久永貴之、志真泰夫)
献】
臨床疑問64
1)
Mystakidou K, Tsilika E, Kalaidopoulou O, et al. Comparison of octreotide administration vs conservative treatment in the management of inoperable bowel obstruction in patients with far advanced cancer: a randomized, double- blind, controlled clinical trial. Anticancer Res 2002; 22(2B) : 1187-92
2)
Ripamonti C, Mercadante S, Groff L, et al. Role of octreotide, scopolamine butylbromide, and hydration in symptom control of patients with inoperable bowel obstruction and nasogastric tubes: a prospective randomized trial. J Pain Symptom Manage 2000; 19: 23-34
3)
Mercadante S, Ripamonti C, Casuccio A, et al. Comparison of octreotide and hyoscine butylbromide in controlling gastrointestinal symptoms due to malignant inoperable bowel obstruction. Support Care Cancer 2000; 8: 188-91
臨床疑問65
4)
Feuer DJ, Broadley KE. Corticosteroids for the resolution of malignant bowel obstruction in advanced gynaecological and gastrointestinal cancer. Cochrane Database Syst Rev 2000(2): CD001219
5)
Hardy J, Ling J, Mansi J, Isaacs R, et al. Pitfalls in placebo-controlled trials in palliative care: dexamethasone for the palliation of malignant bowel obstruction. Palliat Med 1998; 12: 437-42
6)
Laval G, Girardier J, Lassaunière JM, et al. The use of steroids in the management of inoperable intestinal obstruction in terminal cancer patients: do they remove the obstruction? Palliat Med 2000; 14: 3-10
【参考文献】
臨床疑問65
7)
Ripamonti C, Twycross R, Baines M, et al. Clinical-practice recommendations for the management of bowel obstruction in patiens with end stage cancer: the EAPC recommendations. Supportive Care Cancer 2001; 9: 223-33

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