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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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3章 推 奨
4 特定の病態による痛みに対する治療
6
悪性腸腰筋症候群による痛み
(腸腰筋へのがんの浸潤・転移に伴って起こる鼠径部・大腿・膝の痛み)
悪性腸腰筋症候群による痛みに対する有効な治療は何か?
関連する臨床疑問
58
悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して、行うべき評価は何か?
59
悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
60
悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して、筋弛緩薬は、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
61
悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して、神経ブロックは、薬物療法に比較して痛みを緩和するか?

58
痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。
59
悪性腸腰筋症候群による痛みのある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う(P104, Ⅲ-1共通する疼痛治療の項参照)。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
60
悪性腸腰筋症候群による痛みのある患者に対して、筋弛緩薬を投与する。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
61
悪性腸腰筋症候群による痛みのある患者に対して、神経ブロックを行う。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
悪性腸腰筋症候群
腸腰筋内の悪性疾患の存在により起こる鼠径部・大腿・膝の痛み。身体所見として、患側の第1〜4腰椎神経領域の神経障害、腸腰筋の攣縮を示唆する股関節屈曲固定がみられる。P21参照。
●フローチャート 
フローチャート
痛みの原因の評価と痛みの評価を行い、原因に応じた対応を行う。疼痛治療としては、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドを投与する。神経障害性疼痛が認められる場合などには鎮痛補助薬の使用を検討する。腸腰筋の攣縮がみられる場合は、筋弛緩薬を使用する。神経ブロックの適応について、専門家に相談する。
臨床疑問58
悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して、行うべき評価は何か?
推 奨
痛みの原因の評価と痛みの評価を行う(P24,Ⅱ-2 痛みの包括的評価の項参照)。
1)痛みの原因を身体所見や画像検査から評価する
 痛みの原因として、がんによる痛み以外の可能性も含めて評価する。悪性腸腰筋症候群による痛みであれば、身体所見として、患側の第1〜4腰椎神経領域の神経障害、腸腰筋の攣縮を示唆する股関節屈曲固定がみられることが多い。画像検査では、患側腸腰筋内の悪性腫瘍の存在がみられる。必要に応じて、外科治療、化学療法、放射線治療の適応について検討する。
 腸腰筋症候群を示すがん以外の原因として腸腰筋膿瘍などを除外する。
2)痛みの評価を行う
 痛みの日常生活への影響、痛みのパターン(持続痛か突出痛か)、痛みの強さ、痛みの部位、痛みの経過、痛みの性状、痛みの増悪因子と軽快因子、現在行っている治療の反応、および、レスキュー・ドーズの効果と副作用について評価する。
 特に痛みが持続痛なのか突出痛なのか評価し、神経障害性疼痛の要素があるのかを評価する。さらに増悪因子・軽快因子を評価する。悪性腸腰筋症候群では、股関節を伸展すると痛みが増強し、屈曲すると痛みが軽快することが多いため、痛みの増強する姿勢を避けるようにする(P16,Ⅱ-1-1③神経障害性疼痛の項参照)。
臨床疑問59
悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
推 奨
悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、痛みを緩和する。
悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関する臨床研究としては、無作為化比較試験や前後比較研究はなく、少数の後ろ向き研究や症例報告しかない。
 Agarらによる症例報告およびレビューでは、WHO方式がん疼痛治療法に基づいた非オピオイド鎮痛薬・オピオイドの投与に加えて、抗けいれん薬(ガバペンチン、バルプロ酸ナトリウム、カルバマゼピン)、三環系抗うつ薬(アミトリプチリン)、デキサメタゾンの投与が有効であった症例が報告されている。
 一方、がん疼痛に対するWHO方式がん疼痛治療法の有用性を示した複数の観察研究がある(P31,Ⅱ-3 WHO方式がん疼痛治療法の項参照)。
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 以上より、悪性腸腰筋症候群による痛みに対する知見は限られているが、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、悪性腸腰筋症候群による痛みを緩和すると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、専門家の合意により、悪性腸腰筋症候群による痛みに対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うことを推奨する。
臨床疑問60
悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して、筋弛緩薬は、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
推 奨
悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して、筋弛緩薬は、痛みを緩和する可能性がある。
悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して、筋弛緩薬を投与する。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関する臨床研究としては、無作為化比較試験や前後比較研究はなく、少数の後ろ向き研究や症例報告しかない。
 Agarらによる症例報告およびレビューでは、腸腰筋の攣縮に伴う股関節の有痛性屈曲固定(股関節を屈曲位にしている、伸展位にすると痛みを訴える)に対してジアゼパムの投与が有効であった症例が報告されている。
 この他に、骨格筋の攣縮に対する治療薬として、バクロフェン、チザニジン、ダントロレンナトリウムが記載されている。
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 以上より、十分な知見ではないが、悪性腸腰筋症候群による痛みのある患者に対して、筋弛緩薬は、痛みを緩和する可能性があると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、専門家の合意により、悪性腸腰筋症候群による痛みのある患者に対して、特に腸腰筋の攣縮に伴う股関節の有痛性屈曲固定が認められた場合に筋弛緩薬を投与することを推奨する。
 筋弛緩薬として、最も一般的に使用されるものはジアゼパムである。ジアゼパムの効果が不十分な場合は、専門家に相談のうえ、バクロフェン、チザニジン、またはダントロレンナトリウムを検討する。
臨床疑問61
悪性腸腰筋症候群による痛みのある患者に対して、神経ブロックは、薬物療法に比較して痛みを緩和するか?
推 奨
悪性腸腰筋症候群による痛みのある患者に対して、神経ブロックは、薬物療法に比較して痛みを緩和する可能性がある。
悪性腸腰筋症候群による痛みのある患者に対して、神経ブロックを行う。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関する臨床研究としては、無作為化比較試験や前後比較試験はなく、少数の後ろ向き研究や症例報告しかない。
 Agarらによる症例報告およびレビューでは、持続硬膜外ブロックが有効であった症例が報告されている。しかし、薬物療法との比較は行われていない。
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 以上より、確実な知見ではないが、悪性腸腰筋症候群による痛みのある患者に対して、神経ブロックは、痛みを緩和する可能性があると考える。
 したがって、本ガイドラインでは、専門家の合意として、悪性腸腰筋症候群による痛みのある患者に対して、神経ブロックによる疼痛治療が可能か、専門家に相談することを推奨する。神経ブロックとしては、持続硬膜外ブロックや神経根ブロックがある。
既存のガイドラインとの整合性
 既存のガイドラインでは、悪性腸腰筋症候群による痛みに対する記述はみられない。
(松田陽一、池永昌之)
【参考文献】
1)
Agar M, Broadbent A, Chye R. The management of malignant psoas syndrome: case reports and literature review. J Pain Symptom Manage 2004; 28: 282-93
2)
Ampil FL, Lall C, Datta R. Palliative management of metastatic tumors involving the psoas muscle: case reports and review of the literature. Am J Clin Oncol 2001; 24: 313-4

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