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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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3章 推 奨
4 特定の病態による痛みに対する治療
5
直腸がんなどによる会陰部の痛み
直腸がんなどによる会陰部の痛みに対する有効な治療は何か?
関連する臨床疑問
55
直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して、行うべき評価は何か?
56
直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
57
直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して、神経ブロックは、薬物療法に比較して痛みを緩和するか?

55
痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。
56
直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う(P104,Ⅲ-1共通する疼痛治療の項参照)。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
57
直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して、サドルブロック、上下腹神経叢ブロックなどの神経ブロックを行う。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
会陰部の痛み
骨盤内臓器の内臓知覚は、腹膜内臓器では交感神経線維を求心性に入力。胸腰脊髄神経節に入り、腹膜外臓器では副交感神経線維に混じり、第2から第4仙骨神経の脊髄神経節に入る。会陰部の知覚は、陰部神経(S2-4)など体性神経の支配を受ける。
●フローチャート 
フローチャート
痛みの原因の評価と痛みの評価を行い、原因に応じた対応を行う。疼痛治療としては、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドを投与する。尿路変更・人工肛門などすでに排尿・排便機能が廃絶している場合にはサドルブロックによって鎮痛効果を得ることができる可能性があるので専門家に相談する。このほか、その他の神経ブロック(上下腹神経叢ブロックなど)の適応について専門家に相談する。病態に合わせて鎮痛補助薬を使用する。
臨床疑問55
直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して、行うべき評価は何か?
推 奨
痛みの原因の評価と痛みの評価を行う(P24,Ⅱ-2 痛みの包括的評価の項参照)。
1)痛みの原因を身体所見や画像検査から評価する
 痛みの原因として、がんによる痛み以外の可能性も含め評価する。局所の感染、出血、骨盤内の骨転移、腫瘍の局所再発の有無を検索する。原因に応じて、抗菌薬、放射線治療、化学療法などが疼痛緩和に有効なことがある。
 神経ブロックを行う場合には、排尿・排便機能が維持されているかどうかによって選択する方法が異なるため、現在と将来予測される排尿・排便機能を把握しておくことが望ましい。
2)痛みの評価を行う
 痛みの日常生活への影響、痛みのパターン(持続痛か突出痛か)、痛みの強さ、痛みの部位、痛みの経過、痛みの性状、痛みの増悪因子と軽快因子、現在行っている治療の反応、および、レスキュー・ドーズの効果と副作用について評価する。また鎮痛薬以外の鎮痛手段(神経ブロックなど)を患者が希望するかどうかを確認する。
 さらに、増悪因子・軽快因子を評価する。坐位をとると増悪する場合は、環境調整で改善する場合がある。排便時に増悪する場合は、下剤による排便調整で改善する場合がある。
直腸腫瘍に対するマイルズ術後の旧肛門部における灼熱痛(burning pain)、アロディニアや異常感覚を伴うなど、体性痛、神経障害性疼痛の要素が大きいと判断される場合は、サドルブロックが有効な場合がある。入浴して温まると痛みが減弱するなど、交感神経の関与の要素が大きいと判断される場合は、上下腹神経叢ブロック・不対神経節ブロックのような交感神経ブロックの効果がある場合がある。
臨床疑問56
直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイド よる疼痛治療は、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
推 奨
直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、痛みを緩和する。
直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関連した臨床研究として、直腸がんなどによる会陰部の痛みに限定して非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療の効果を比較した無作為化比較試験、前後比較研究はない。直腸がんなどによる会陰部の痛みを含むがん疼痛に対するWHO方式がん疼痛治療法の有用性を示した複数の観察研究がある(P31,Ⅱ-3 WHO方式がん疼痛治療法の項参照)。
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 以上より、直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、痛みを緩和すると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うことを推奨する。
臨床疑問57
直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して、神経ブロックは、薬物療法に比較して痛みを緩和するか?
推 奨
直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して、サドルブロック、上下腹神経叢ブロックなどの神経ブロックは、痛みを緩和する。
直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して、サドルブロック、上下腹神経叢ブロックなどの神経ブロックを行う。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
1)サドルブロック
 サドルブロックは、座位にてくも膜下腔に高比重のフェノールグリセリンを注入することで、第4、5仙髄神経や尾骨神経を遮断し会陰部の鎮痛効果を得る神経ブロックである。合併症として、膀胱直腸障害が起こる可能性が高い。
 本臨床疑問に関する臨床研究としては、無作為化比較試験や前後比較研究はないが、複数の症例報告や記述的研究がある(Slatkinら、杉ら)。
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 以上より、質の高いエビデンスは存在しないが、臨床経験から、直腸がんなどによる会陰部の痛みに対して、サドルブロックは、膀胱直腸障害を生じうるが、痛みを緩和すると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、直腸がんなどによる会陰部の痛みに対して、尿路変更・人工肛門などすでに排尿・排便機能が廃絶している場合に、サドルブロックが有効な場合があるので専門家に相談することを推奨する。人工肛門があるが尿路変更がなされていない場合には、患者が尿路変更になること(導尿など)を了解すれば、選択できる場合がある。
2)上下腹神経叢ブロック
 上下腹神経叢ブロックは、骨盤内臓器の交感神経由来の痛みに対する疼痛治療法である。
 本臨床疑問に関する臨床研究としては、無作為化比較試験はないが、前後比較研究が1件ある。
 Plancarteら1)の研究では、VAS値が7〜10 で、オピオイドで十分に鎮痛効果が得られないか、または許容できない眠気のためオピオイドを増量できない骨盤腫瘍の患者227例のうち局所麻酔薬の試験的な投与で鎮痛効果が得られた159例(79%)を対象に、上下腹神経叢ブロックを施行した。72%の患者で3週間後のVAS値が7以上から4以下へと低下した。オピオイド投与量は経口モルヒネ換算量で治療前56mg/日、治療後32mg/日と低下した。残りの患者ではVAS値は4〜7へと中等度の低下にとどまったが、オピオイド投与量は治療後に65mg/日から48mg/日と低下した。眠気の強かった18例の患者のうち16例において、眠気の強さが0〜3の評価で2(しばしば眠そうで容易に覚醒しない)から0〜1(清明〜ときに眠そうだが容易に覚醒)へ改善した。排尿・排便困難などの副作用は出現しなかった。
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 以上より、質の高いエビデンスは存在しないが、直腸がんなどによる会陰部の痛みに対して、上下腹神経叢ブロックは、痛みを緩和する可能性があると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、直腸がんなどによる会陰部の痛みに対して、上下腹神経叢ブロックが有効な場合があるので専門家に相談することを推奨する。
 この他の神経ブロックとして、上下腹神経叢ブロックと同じ交感神経ブロックとして、肛門部からの交感神経由来の痛みに対する、不対神経節ブロックがある。さらに、硬膜外腔またはくも膜下腔へのオピオイドや局所麻酔薬の持続投与が選択肢になる場合がある。患者にどのブロックが適しているのかは専門家に相談することが望ましい。
上下腹神経叢ブロック
神経ブロックの一つ。骨盤内臓器由来の痛みに対する治療法。くも膜下フェノールブロックに比べて、会陰部知覚脱出や排泄障害などが少ない。P90参照。
既存のガイドラインとの整合性
 NCCNのガイドラインでは、局在性の直腸肛門痛の場合は、神経破壊薬によるサドルブロック、上下腹神経叢ブロック、オピオイドの硬膜外またはくも膜下投与などが推奨されている。
(奥津輝男、井関雅子)
献】
1)
Plancarte R, de Leon-Casasola OA, El-Helaly M, et al. Neurolytic superior hypogastric plexus block for chronic pelvic pain associated with cancer. Reg Anesth 1997; 22: 562-8
【参考文献】
2)
Slatkin NE, Rhiner M. Phenol saddle blocks for intractable pain at end of life: report of four cases and literature review. Am J Hosp Palliat Care 2003; 20: 62-6
3)
杉 崇史, 他. サドルフェノールブロックにより大量のオピオイド減量に成功した2症例. 日本ペインクリニック学会誌 2005; 12: 429

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