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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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3章 推 奨
4 特定の病態による痛みに対する治療
4
胸部の痛み
胸部の痛みに対する有効な治療は何か?
関連する臨床疑問
52
胸部の痛みのあるがん患者に対して、行うべき評価は何か?
53
胸部の痛みのあるがん患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
54
胸部の痛みのあるがん患者に対して、神経ブロックは、薬物療法に比較して痛みを緩和するか?

52
痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。
53
胸部の痛みのあるがん患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う(P104,Ⅲ-1共通する疼痛治療の項参照)。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
54
胸部の痛みのあるがん患者に対して、神経ブロックを行う。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
●フローチャート 
フローチャート
痛みの原因の評価と痛みの評価を行い、原因に応じた対応を行う。疼痛治療としては、非オピオイド鎮痛薬・オピオイ
ドを投与する。硬膜外ブロック、肋間神経ブロック、神経根ブロック、くも膜下フェノールブロックなどの神経ブロック
が有効な場合があるので専門家に相談する。病態に合わせて鎮痛補助薬を使用する。
臨床疑問52
胸部の痛みのあるがん患者に対して、行うべき評価は何か?
推 奨
痛みの原因の評価と痛みの評価を行う(P24,Ⅱ-2 痛みの包括的評価の項参照)。
1)痛みの原因を身体所見や画像検査から評価する
 痛みの原因として、がんによる痛み以外の可能性も含めて検討する。身体所見、画像検査(単純X線、CT、MRI、骨シンチグラフィ、超音波など)から、原因となる病態の評価を行う。特に脊髄圧迫症候群を来す病変があるかどうかに注意する。
2)痛みの評価を行う
 痛みの日常生活への影響、痛みのパターン(持続痛か突出痛か)、痛みの強さ、痛みの部位、痛みの経過、痛みの性状、痛みの増悪因子と軽快因子、現在行っている治療の反応、および、レスキュー・ドーズの効果と副作用について評価する。特に体性痛(骨転移、皮膚転移など)か、内臓痛(胸膜浸潤、胸水など)か神経性障害性疼痛かを評価する。
 がん疼痛以外の原因(心疾患、肺塞栓、帯状疱疹、胸膜炎、気胸、胃十二指腸潰瘍など)が考えられる場合には原因の治療を検討する。
臨床疑問53
胸部の痛みのあるがん患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
推 奨
胸部の痛みのあるがん患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、プラセボに比較して痛みを緩和する。
胸部の痛みのあるがん患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に対する無作為化比較試験、前後比較研究はない。
 胸部の痛みを含むがん疼痛に対するWHO方式がん疼痛治療法の有用性を示した複数の観察研究がある(P31,Ⅱ-3 WHO方式がん疼痛治療法の項参照)。
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 以上より、胸部の痛みに対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、プラセボに比較して痛みを緩和すると考えられる。したがって、本ガイドラインでは、胸部の痛みに対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うことを推奨する。
臨床疑問54
胸部の痛みのあるがん患者に対して、神経ブロックは、薬物療法に比較して痛みを緩和するか?
推 奨
胸部の痛みのあるがん患者に対して、神経ブロックは、薬物療法に比較して痛みを緩和する場合がある。
胸部の痛みのあるがん患者に対して、神経ブロックを行う。2C(弱い推奨、とても低 いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関する無作為化比較試験、前後比較研究はない。本邦の7つの緩和ケア病棟と5つの緩和ケアチームを対象とした多施設研究では、紹介された3,553例の患者のうち136例(3.8%)が神経ブロックを受けており、痛み、performance status の改善がみられ、生命予後が28日以上の患者で、より効果が認められた。そのうち12%が胸部の痛みに関するものであった(Teiら)。
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 以上より、十分な知見はないが、胸部の痛みのあるがん患者に対して、神経ブロックは薬物療法に比較して痛みを緩和する場合があると考えられる。本ガイドラインでは、専門家の合意により、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療の効果が不十分な場合、痛みが胸部に限局している場合には、神経ブロックなどによる疼痛緩和が可能か専門家に相談することを推奨する。
 推奨される神経ブロックには、硬膜外ブロック、肋間神経ブロック、神経根ブロック1、くも膜下フェノールブロックがあるが、どのブロックが適しているかは専門家に相談する。一般的には、肋間神経ブロック、高周波熱凝固は1神経根毎に針の刺入が必要であるため限局された範囲の痛みに、くも膜下フェノールブロック2 は、2−3神経分節の痛みに用いられる。硬膜外ブロックは複数分節にまたがる痛みに用いられる。
 これらの対応で鎮痛効果が不良の場合や、鎮痛効果は得られていても眠気などの許容できない副作用が生じている場合は、硬膜外・くも膜下腔内への持続オピオイド投与、局所麻酔薬の併用を検討する。
 いずれの手技においても、ブロック針の刺入部位に感染巣がある場合、出血傾向および凝固異常、ショック状態、患者の同意が得られない場合、全身状態が著しく悪化している場合は禁忌となる。したがって、神経ブロックの効果を十分に活かすためには、適切な施行時期に行うことが重要であり、胸部の限局した痛みを訴える患者は、早期に専門家に相談することが望ましい。
1:神経根ブロック
神経ブロックの一つ。神経根に局所麻酔薬やステロイドを注入し、その神経根が支配している領域の痛みを緩和する治療法。現在では高周波熱凝固装置を用いた熱凝固法が一般的。P92参照。
2:くも膜下フェノールブロック
神経ブロックの一つ。くも膜下腔に神経破壊薬のフェノールを注入する治療法。肛門や会陰部の除痛に有効。通常の局所麻酔薬を使用する神経ブロックより効果の持続期間が長い。
既存のガイドラインとの整合性
 NCCNのガイドラインでは、胸壁に限局した痛みに対して硬膜外ブロックや肋間神経ブロックを、体幹に分布しているような痛みに対して硬膜外またはくも膜下腔へのオピオイドの持続投与を推奨している。
(八戸すず、井関雅子)
【参考文献】
1)
Tei Y, Morita T, Nakaho T, et al. Treatment efficacy of neural blockade in specialized palliative care services in Japan: a multicenter audit survey. J Pain Symptom Manage 2008; 36: 461-7

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