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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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3章 推 奨
4 特定の病態による痛みに対する治療
3
膵臓がんなどによる上腹部の痛み
膵臓がんなどによる上腹部の痛みに対する有効な治療は何か?
関連する臨床疑問
49
膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して、行うべき評価は何か?
50
膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
51
膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して、神経ブロックは、薬物療法に比較して痛みを緩和するか?

49
痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。
50
膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う(P104,Ⅲ-1共通する疼痛治療の項参照)。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
51
膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して、腹腔神経叢ブロックなどの神
経ブロックを行う。2A(弱い推奨、高いエビデンスレベル)
●フローチャート 
フローチャート
痛みの原因の評価と痛みの評価を行い、原因に応じた対応を行う。疼痛治療としては、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドを投与する。腹腔神経叢ブロックによって痛みが緩和する可能性があるため、神経ブロックの適応についてなるべく早い時期に専門家に相談する。病態に合わせて鎮痛補助薬を使用する。
臨床疑問49
膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して、行うべき評価は何か?
推 奨
痛みの原因の評価と痛みの評価を行う(P24,Ⅱ-2 痛みの包括的評価の項参照)。
1)痛みの原因を身体所見や画像検査から評価する
 痛みの原因として、がんによる痛み以外の可能性も含めて評価する。身体所見、画像検査(単純X線、CT、MRIなど)から、原因となる病態の評価を行う。がん以外の原因として、胃十二指腸潰瘍、胆のう炎、膵炎などが考えられる場合には、原因の治療を検討する。がんによる痛みの場合、がんに対する治療(化学療法、放射線治療など)の適応を検討する。
 腹腔神経叢ブロックの施行を検討する場合には、腹腔神経叢周囲の腫瘍浸潤の程度が問題となる。鎮痛効果を確実に得るためには、腹腔神経叢周囲に適度なスペースがある時期に神経ブロックを行うことが望ましいため、CT 検査などにより、後腹膜腔が腫瘍の腫大により充満されていないかを確認する。
2)痛みの評価を行う
 痛みの日常生活への影響、痛みのパターン(持続痛か突出痛か)、痛みの強さ、痛みの部位、痛みの経過、痛みの性状、痛みの増悪因子と軽快因子、現在行っている治療の反応、および、レスキュー・ドーズの効果と副作用について評価する。
 さらに、鎮痛薬以外の鎮痛手段(神経ブロックなど)を患者が希望するかどうかを確認する。
臨床疑問50
膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
推 奨
膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、痛みを緩和する。
膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関連した臨床研究として、膵臓がんなどによる上腹部の痛みに限定して非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療の効果を評価した無作為化比較試験、前後比較研究はない。膵臓がんなどによる上腹部の痛みを含むがん疼痛に対して、WHO方式がん疼痛治療法が有用であることが複数の観察研究で示唆されている(P31,Ⅱ-3 WHO方式がん疼痛治療法の項参照)。
**
 以上より、膵臓がんなどによる上腹部の痛みのあるがん患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、痛みを緩和すると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、膵臓がんなどによる上腹部の痛みのあるがん患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うことを推奨する。
臨床疑問51
膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して、神経ブロックは、薬物療法に比較して痛みを緩和するか?
推 奨
膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して、腹腔神経叢ブロックなどの神経ブロックは、痛みを緩和する。
膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して、腹腔神経叢ブロックなどの神経ブロックを行う。2A(弱い推奨、高いエビデンスレベル)
[腹腔神経叢ブロック](P88,Ⅱ-8-2-2 ①腹腔神経叢、内臓神経ブロックの項参照)
 本臨床疑問に対する臨床研究としては、膵臓がんによる痛みに対して腹腔神経叢ブロックと薬物療法の鎮痛効果を比較した無作為化比較試験5件を含む系統的レビュー1件(Yanら1))と、系統的レビューの作成後に出版された無作為化比較試験1件がある(Zhangら2))。
 Yanら1)の系統的レビューでは、対象患者は302 例でブロック前の痛みのVASは5.0であった。腹腔神経叢ブロックを受けた患者群では、薬物療法を受けた患者群に比較して、痛みのVAS の差は、2週間後で−0.3、4週間後で−0.5、8週間後で−0.6(各群の数値の記載なし)であった。オピオイド使用量は治療前30mg であったが、薬物療法単独の場合と比較して、2週
目で40mg、4週目で54mg、8週目で80mgと、使用量が少なかった。便秘の発現率が低かったが(オッズ比, 0.7)、その他の副作用(低血圧、嘔気・嘔吐、下痢、眠気)に有意差は認められず、生存率にも有意差は認められなかった。QOLに関しては、それぞれの研究で異なる評価方法を用いていたために、共通して評価できなかった。著者らは腹腔神経叢ブロックには
中等度の鎮痛効果があると結論した。
**
 以上より、腹腔神経叢ブロックは、膵臓がんなどによる上腹部の痛みを中等度緩和するとともに、オピオイド使用量を低下させることにより便秘を軽減する可能性があると考えられる。このほかに膵臓がんなどによる上腹部痛に対して有効と考えられる神経ブロックとして、硬膜外腔またはくも膜下腔へのオピオイドや局所麻酔薬の持続投与がある。
 したがって、本ガイドラインでは、膵臓がんなどによる上腹部の痛みに対して、腹腔神経叢ブロックなどの神経ブロックの適応についてなるべく早い時期に専門家に相談することを推奨する。
 「なるべく早い時期に」とした理由は、以下のとおりである。①腹腔神経叢ブロックが有効に行われるためには、腹腔神経叢周囲にアルコールを注入するための適度なスペースがある時期に行うことが望ましい、②ブロック後に一過性に腸蠕動が亢進するため、蠕動痛が問題となる腸閉塞の症状が合併する前に施行することが望ましい、③膵臓がんの痛みの発現機序は、膵管や間質の内圧上昇、血管内圧の上昇と虚血、侵害受容器を刺激するさまざまな化学物質による末梢感覚神経の感作と考えられている。したがって、痛みを長期間体験することで、末梢、脊髄、中枢へと感作され、痛み閾値が低下する可能性が示唆されているため、早期に行う方が鎮痛効果を期待できる。④腹水の著しい貯留や刺入部位に椎体転移があるとブロック処置を行うこと自体が困難になる。
腹腔神経叢ブロック
神経ブロックの一つ。胃、小腸、肝臓、胆嚢、胆道、すい臓、脾臓、腎臓などの上腹部内臓痛に適応。横隔膜脚を越えて腹腔神経叢まで針を進め局所麻酔薬や神経破壊薬を注入する。P88参照。
既存のガイドラインとの整合性
 NCCNによるガイドラインでは、腹腔神経叢ブロックを推奨している。
(山口敬介,井関雅子)
献】
1)
Yan BM, Myers RP. Neurolytic celiac plexus block for pain control in unresectable pancreatic cancer. Am J Gastroenterol 2007; 102: 430-8
2)
Zhang CL, Zhang TJ, Guo YN, et al. Effect of neurolytic celiac plexus block guided by computerized tomography on pancreatic cancer pain. Dig Dis Sci 2008; 53: 856-60
注:以下の文献はYan らの系統的レビューの対象となっているため個々に検討を行わなかった。
  • Mercadante S. Celiac plexus block versus analgesics in pancreatic cancer pain. Pain 52 1993; 187-92
  • Lillemoe KD, Cameron JL, Kaufman HS, et al. Chemical splanchnicectomy in patients with unresectable pancreatic cancer. A prospective randomized trial. Ann Surg 1993; 217: 447-57
  • Kawamata M, Ishitani K, Ishikawa K, et al. Comparison between celiac plexus block and morphine treatment on quality of life in patients with pancreatic cancer pain. Pain 1996; 64: 597-602
  • Polati E, Finco G, Gottin L, et al. Prospective randomized double blind trial of neurolytic coeliac plexus block in patients with pancreatic cancer. Br J Surg 1998; 85: 199-201
  • Wong GY, Schroeder DR, Carns PE, et al. Effect of neurolytic celiac plexus block on pain relief, quality of life, and survival in patients with unresectable pancreatic cancer. A randomized controlled trial. JAMA 2004; 291: 1092-9

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