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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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3章 推 奨
4 特定の病態による痛みに対する治療
2
骨転移による痛み
骨転移による痛みに対する有効な治療は何か?
関連する臨床疑問
46
骨転移による痛みのあるがん患者に対して、行うべき評価は何か?
47
骨転移による痛みのあるがん患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
48
骨転移による痛みのあるがん患者に対して、ビスホスホネートは、プラセボに比較して痛みを緩和するか?

46
痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。
47
骨転移による痛みのあるがん患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う(P104,Ⅲ-1共通する疼痛治療の項参照)。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
48
骨転移による痛みのあるがん患者に対して、予測される生命予後を検討したうえで鎮痛効果を目的としてビスホスホネートを投与する。2B(弱い推奨、低いエビデンスレベル)
●フローチャート 
フローチャート
痛みの原因の評価と痛みの評価を行い、原因に応じた対応を行う。疼痛治療としては、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドを投与する。予測される生命予後を検討したうえでビスホスホネートを投与する。神経ブロックの適応について専門家に相談する。
臨床疑問46
骨転移による痛みのあるがん患者に対して、行うべき評価は何か?
推 奨
痛みの原因の評価と痛みの評価を行う(P24,Ⅱ-2 痛みの包括的評価の項参照)。
1)痛みの原因を身体所見や画像検査から評価する
 痛みの原因として、がんによる痛み以外の可能性も含めて評価する。骨転移であれば、病変の部位、進展範囲(周囲の神経、血管、筋肉との関係)、単発性か多発性かなどの評価が必要である。画像検査は単純X線写真が基本となるが、脊椎であればMRI、骨盤骨であればCTを追加することでより詳細な評価が期待できる。さらに、骨シンチグラフィを加えることにより正確な診断が可能となり、全身の多発転移の有無も確認できる。骨転移による骨折は患者の身体機能とQOLを著しく障害することになるため、骨折あるいは切迫骨折の有無を評価する。特に、荷重のかかる大腿骨、臼蓋、脛骨、椎体、上腕骨などへの転移の場合には、外科治療も検討する。骨転移を正確に評価することは、非薬物療法である放射線治療、放射性同位元素(Sr)、経皮的椎体形成術、神経ブロック1などの適応を検討する際に必要である(P83,Ⅱ-8 薬物療法以外の疼痛治療法の項参照)。
2)痛みの評価を行う
 痛みの日常生活への影響、痛みのパターン(持続痛か突出痛2 か)、痛みの強さ、痛みの部位、痛みの経過、痛みの性状(神経障害性疼痛の混在など)、痛みの増悪因子と軽快因子、現在行っている治療の反応、および、レスキュー・ドーズの効果と副作用について評価する。
 特に痛みが持続痛なのか突出痛なのか評価し、神経障害性疼痛の要素があるかを評価する。さらに増悪因子・軽快因子を評価する。これにより生活の仕方、コルセットや杖などの補助具を使うなど、患者の苦痛を増悪させる要因を避け、軽快させる要因を生活に取り入れることができる。
1:神経ブロック
局所麻酔薬や神経破壊薬、熱などにより神経の伝達機能を一時的・永久的に遮断することによって、または、オピオイドなど鎮痛薬の硬膜外腔・クモ膜下腔への投与によって鎮痛効果を得る手段。
(注釈)狭義の神経ブロックは一般的に前者をさし、後者とあわせたものを麻酔科的鎮痛(anesthesiological procedure)と呼ぶことがあるが、本ガイドラインでは、簡便に、両方を合わせて「神経ブロック」と呼ぶ。
2:突出痛(breakthrough pain)
持続痛の有無や程度、鎮痛薬治療の有無にかかわらず発生する一過性の痛みの増強。P18参照。
臨床疑問47
骨転移による痛みのあるがん患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
推 奨
骨転移による痛みのあるがん患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、プラセボに比較して痛みを緩和する。
骨転移による痛みのあるがん患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関する無作為化比較試験、前後比較研究はともにないが、骨転移による痛みを含むがん疼痛に対するWHO方式がん疼痛治療法の有用性を示した複数の観察研究がある(P31,Ⅱ-3 WHO方式がん疼痛治療法の項参照)。
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 以上より、骨転移による痛みに対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は有効であると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、骨転移による痛みに対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うことを推奨する。
臨床疑問48
骨転移による痛みのあるがん患者に対して、ビスホスホネートは、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
推 奨
骨転移による痛みのあるがん患者に対して、ビスホスホネートは、投与後4〜12週では鎮痛効果がある。投与後4週以内では鎮痛効果があるという根拠はない。
骨転移による痛みのあるがん患者に対して、予測される生命予後を検討したうえで鎮痛を目的としてビスホスホネートを投与する。2B(弱い推奨、低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に対する臨床研究としては、無作為化比較試験30件を含む系統的レビューがある(Pet cuら1))。
(1)投与後4〜12週の効果
 ビスホスホネート投与後4週から12週での有効率については8件で検討されている。有効の定義は、それぞれの研究で①6点のスコア方式において、2回以上連続して1点以上減少あるいは1回の測定で2点以上減少、②0〜5段階のスコア方式において、2回以上連続してスコアが20%以上減少、③無痛になった場合などと異なっている。これらを原著の定義のまま「有効」とした場合、4週において有効であった患者数は、ビスホスホネート治療群214例中40例(18%)、対照群194例中18例(9%)で、NNT11(95%信頼区間:6〜36)であった。一方、12週においては、ビスホスホネート治療群317例中103例(32%)、対照群317例中55例(17%)で、NNTは7(95%信頼区間:5〜12)であった。副作用は、治療群の16%、対照群の15%に嘔気・嘔吐を認めたが有意差はなかった。副作用による治療中断は、治療群の6%、対照群の0.6%に生じ、治療中止を要するような有害事象に関するNNHは16(95%信頼区間:12〜27)であった。
(2)投与後4週以内の効果
 投与後4週以内の鎮痛効果に関する臨床研究としては、無作為化比較試験、前後比較研究はなく、pamidronate投与後6日目に鎮痛効果を得たという症例報告がある程度である(Eugenら)。
**
 以上より、骨転移による痛みのあるがん患者において、ビスホスホネートは、投与後4〜12週では中等度の鎮痛効果があるが、投与後4週以内に鎮痛効果があるという根拠はない。また、これらは現在痛みのある患者に対しての鎮痛効果の目的で用いられたものではない。
 したがって、本ガイドラインでは、骨転移による痛みに対して、予測される生命予後を検討したうえで鎮痛を目的としてビスホスホネートを投与することを推奨する。すなわち、投与後4〜12週の鎮痛効果を期待する場合には投与を行う。一方、投与後4週以内の鎮痛効果に関するエビデンスは確立されていないため、「現在の痛み」を緩和するためにはビスホスホネート以外の疼痛治療を十分に行うことが必要である。
既存のガイドラインとの整合性
 NCCNのガイドラインでは、NSAIDsは脊髄圧迫のない骨転移による痛みに対して推奨されており、ビスホスホネート、コルチコステロイドは多発性骨転移による痛みに対して推奨されている。
 ACCPのガイドラインでは、骨転移による痛みのある肺がん患者に対して、放射線治療とビスホスホネートの併用を推奨している。
 EAPCのガイドラインでは、十分なエビデンスはないとしながらも骨転移による痛みに対してNSAIDsおよびコルチコステロイドの投与を推奨している。
(大坂 巌)
献】
1)
Petcu EB, Schug SA, Smith H. Bisphosphonates for the relief of pain secondary to bone metastases. Cochrane Database Syst Rev 2002; Issue 2: CD002068
【参考文献】
2)
Eugen B, Stephan A. Clinical evaluation of onset of analgesia using intravenous pamidronate in metastatic bone pain. J Pain Symptom Manage 2002; 24: 281-4
3)
Yuen KY, Shelley M, Sze WM, et al. Bisphosphonates for advanced prostate cancer. Cochrane Database Syst Rev 2006; Issue 4: CD006250
4)
Pavlakis N, Schmidt RL, Stockler MR. Bisphosphonates for breast cancer. Cochrane Database Syst Rev 2005; Issue 3: CD003474
5)
Djulbegovic B, Wheatley K, Ross J, et al. Bisphosphonates in multiple myeloma. Cochrane Database Syst Rev 2002; Issue 4: CD003188

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