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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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3章 推 奨
4 特定の病態による痛みに対する治療
1
神経障害性疼痛
がんによる神経障害性疼痛1に対する有効な治療は何か?
関連する臨床疑問
42
がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して、行うべき評価は何か?
43
がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
44
がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して、抗けいれん薬、抗うつ薬、抗不整脈薬、NMDA受容体拮抗薬、コルチコステロイドは、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
45
がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して、ある鎮痛補助薬を増量しても効果がない場合、他の鎮痛補助薬への変更や併用は、行わないことに比較して痛みを緩和するか?

42
痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。
43
がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う(P104,Ⅲ-1共通する疼痛治療の項参照)。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
44
がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して、抗けいれん薬、抗うつ薬、抗不整脈薬、NMDA受容体拮抗薬2、コルチコステロイドのうちいずれかを投与する。2B(弱い推奨、低いエビデンスレベル)
45
がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して、ある鎮痛補助薬3を増量しても効果がない場合、専門家に相談したうえで、他の鎮痛補助薬への変更や併用を行う。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
1:神経障害性疼痛
末梢、中枢神経の直接的損傷に伴って発生する痛み。灼熱痛、電撃痛、痛覚過敏、感覚過敏、アロディニアなどを伴うことがある。難治性で鎮痛補助薬の併用を必要とすることが多い。P16参照。
2:NMDA受容体拮抗薬
興奮性の神経伝達物質としても機能するグルタミン酸が、グルタミン酸受容体の一つであるNMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)受容体に結合するのを阻害して鎮痛作用などを発揮する薬剤。P70参照。
3:鎮痛補助薬
主たる薬理作用には鎮痛作用を有しないが、鎮痛薬と併用することにより鎮痛効果を高め、特定の状況下で鎮痛効果を示す薬物(抗うつ薬、抗けいれん薬、NMDA受容体拮抗薬など)。非オピオイド鎮痛薬やオピオイドだけでは痛みを軽減できない場合に選択される。P66参照。
●フローチャート 
フローチャート
痛みの原因の評価と痛みの評価を行い、原因に応じた対応を行う。特に脊髄圧迫症候群が疑われる場合には、疼痛治療のみならず原因の評価と対応を行う。疼痛治療としては非オピオイド鎮痛薬・オピオイドを投与する。効果が不十分な場合は、抗けいれん薬、抗うつ薬、抗不整脈薬、NMDA受容体拮抗薬、コルチコステロイドの中から、副作用と病態から患者に最も適した鎮痛補助薬を選択して投与する。コルチコステロイドは脊髄圧迫症候群など神経への圧迫や炎症による痛みの場合に検討する。1種類の鎮痛補助薬を増量しても十分に効果がない場合には、他の鎮痛補助薬への変更や併用、または神経ブロックの適応について専門家に相談する。
痛みの包括的評価
本ガイドラインでいう「痛みの包括的評価」とは、①痛みの原因の評価と②痛みの評価からなる。痛みの原因の評価とは、身体所見や画像検査から痛みの原因を診断することであり、疼痛治療に加えて原因に対する治療が必要かどうかの判断などに役立てることができる。痛みの評価とは、患者の自覚症状としての痛みの強さや生活への影響、治療効果を評価するものであり、これを行うことで、患者に合わせた疼痛治療を計画することができるようになる。P24参照。
臨床疑問42
がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して、行うべき評価は何か?
推 奨
痛みの原因の評価と痛みの評価を行う(P24,Ⅱ-2 痛みの包括的評価の項参照)。
1)痛みの原因を身体所見や画像検査から評価する
 神経障害性疼痛は、中枢神経系・末梢神経系の障害によって引き起こされる。
 原因は、①がんによる神経障害性疼痛、②がん治療による神経障害性疼痛、③がん・がん治療と直接関係のない神経障害性疼痛がある。これらは原因によって対処する方法が異なる。本ガイドラインの薬物療法では、「がんによる神経障害性疼痛」を扱う。
(1)がんによる神経障害性疼痛
 脊髄圧迫症候群、腕神経叢浸潤症候群、腰仙部神経叢浸潤症候群、悪性腸腰筋症候群などが含まれる(P14,Ⅱ-1がん疼痛の分類・機序・症候群の項参照)。薬物療法を行うとともに、外科治療、化学療法、放射線治療の適応について検討する。
 痛みが脊髄圧迫症候群など神経麻痺の症候であるかを判断する。脊髄圧迫症候群による痛みの場合、下肢麻痺に進展した場合は患者のQOLが大きく損なわれるため、診断精度の高いMRIなどを施行し、早急に放射線治療科・整形外科などの専門家に相談する。
(2)がんの治療による神経障害性疼痛
化学療法による神経障害性疼痛(ビンアルカロイド系薬剤、タキサン系薬剤で多くみられる)、乳房切除後疼痛・開胸術後疼痛など外科治療による痛みなどがある。
(3)がん・がん治療と直接関連のない神経障害性疼痛
帯状疱疹後神経痛、糖尿病性神経障害、脊柱管狭窄症などが痛みの原因となっていないかを評価する。
2)疼痛の評価を行う
 痛みの日常生活への影響、痛みのパターン(持続痛か突出痛か)、痛みの強さ、痛みの部位、痛みの経過、痛みの性状、痛みの増悪因子と軽快因子、現在行っている治療の反応、および、レスキュー・ドーズの効果と副作用について評価する。
臨床疑問43
がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
推 奨
がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、痛みを緩和する。
がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関する臨床研究として、がん患者を対象とした質の高い臨床研究はない。
 オピオイドを中心としたWHO方式がん疼痛治療法の神経障害性疼痛への鎮痛効果を評価した観察研究がある。例えば、Grondら1)は、オピオイドを中心としたWHO方式がん疼痛治療法に基づいた治療は、侵害受容性疼痛、混合性疼痛、神経障害性疼痛のいずれにおいても、同程度の鎮痛効果が得られたと報告した(入院時と3日後の痛みのNRS(0〜100):
侵害受容性疼痛66→26 vs 混合性疼痛65→30 vs 神経障害性疼痛70→28)。同様に、Mercadanteら2)は、在宅治療において、神経障害性疼痛を含む痛みの多くは、WHO方式がん疼痛治療法で死亡前1 週間前まで緩和できたとしている。
 また、Caraceniら(2004)3)によるガバペンチンの効果をみた無作為化比較試験では、オピオイドによる治療が対照群として用いられ、痛みの33%低下を有効とした有効率は、投与後10日目に約60%であった。
 非がん患者の神経障害性疼痛に関するオピオイドの鎮痛効果を評価したEisenberg4)の系統的レビューでは、オピオイドは中等度の鎮痛効果があることが確認されている。
**
 以上より、知見は十分ではないものの、がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は、痛みを緩和すると考えられる。
 したがって本ガイドラインでは、がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して、他の機序によるがん疼痛と同様に、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うことを推奨する。
侵害受容性疼痛
体性痛と内臓痛に分類される。末梢神経終末の侵害受容器が、熱や機械的・化学的な刺激によって受けた侵害を電気信号に変換し、脳に伝えることで自覚する痛み。P14参照。
臨床疑問44
がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して、抗けいれん薬1、抗うつ薬2、抗不整脈薬3、NMDA受容体拮抗薬、コルチコステロイド4は、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
推 奨
がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して、抗けいれん薬、抗うつ薬、抗不整脈薬、NMDA受容体拮抗薬、コルチコステロイドは、痛みを緩和する可能性がある。
がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して、抗けいれん薬、抗うつ薬、抗不整脈薬、NMDA受容体拮抗薬、コルチコステロイドのうちいずれかを投与する。2B(弱い推奨、低いエビデンスレベル)
 鎮痛補助薬としては、抗けいれん薬、抗うつ薬、抗不整脈薬、NMDA受容体拮抗薬、およびコルチコステロイドなどがある。
 本臨床疑問に関する臨床研究として、非がん疼痛については、比較的豊富な臨床研究により、期待される鎮痛効果と副作用の程度が明らかにされている(P66,Ⅱ-4-3 鎮痛補助薬の項参照)。一方、がんによる神経障害性疼痛についての知見は限られているが、抗けいれん薬、抗うつ薬、抗不整脈薬、NMDA受容体拮抗薬、コルチコステロイドの一部について、無作為化比較試験を含む知見がある。
1)抗けいれん薬
(1)ガバペンチン
 非がん患者の神経障害性疼痛に対して、Wiffen5)の系統的レビューでは、ガバペンチンには、めまい、眠気、頭痛、下痢、混乱、嘔気の副作用があるが、中等度の鎮痛効果があることが確認されている。プラセボは19%、ガバペンチンは42%に有効であり、NNT5は4.3であった。治療中断はプラセボと有意差はなく(14% vs 10%)、重度ではない副作用のNNH6は3.7である。
 一方、がん患者の神経障害性疼痛への有効性に関しては、無作為化比較試験が2件、前後比較研究が2件ある。
 Caraceniら(2004)6)による無作為化比較試験では、オピオイド治療中で神経障害性疼痛のあるがん患者121例を対象に、ガバペンチン600〜1,800mg/日とオピオイドの併用治療と、オピオイド単独治療の効果を比較したところ、痛みのNRSは、ガバペンチン併用群でより低下した(7.0→4.6 vs 7.7→5.4, p=0.025)。痛みの33%低下を有効とした有効率は、投与後1〜5日にガバペンチン群で高かったが(3日目、57% vs 31%)、10日目には差はなくなった(62% vs 64%)。副作用として、眠気(23% vs 9.7%)、立ちくらみ(8.8% vs 0%)、嘔気・嘔吐(6.3% vs 0%)が多かった。治療中断による症状はいずれも約7%に認められ、鎮静、呼吸抑制、血圧低下などであった。ガバペンチンは、オピオイド単独治療と比較してある期間に限って、がんによる神経障害性疼痛をより緩和した。
 Keskinboraら7)による無作為化比較試験では、オピオイド治療中のがんによる神経障害性疼痛のある患者75 例を対象に、ガバペンチン平均629 mg/ 日(4 日目)〜1, 287mg/日(13日目)とオピオイドとの併用治療と、オピオイド単独治療の13日間の鎮痛効果を比較したところ、治療4日、13日後にガバペンチン群により強い鎮痛効果が認められた(ベースラインと比較したNRSの変化:灼熱痛:−7.4 vs −5.8,p=0.018;電撃痛:−6.8 vs −4.7, p=0.009)。ガバペンチン併用での副作用は、眠気(13% vs 6.2%)が多かったが、嘔気は少なく(3.2% vs 19%)、めまい(13% vs 13%)は同等であった。呼吸抑制による治療中断はガバペンチン併用群で1例認めた。
 この他に、前後比較研究では、オピオイド治療中のがんによる神経障害性疼痛患者22例を対象に、ガバペンチン1,004mg(600〜1,800mg)の併用を行ったところ、NRSが6.4から3.2 に低下した報告(Caraceniら,19998))や、がんによる神経障害性疼痛に対して300〜1,800mg のガバペンチンとオピオイド併用が45%に有効(痛みの程度がBrief Pain Invent oryで33%以上低下)であったという報告(Ross ら9))などがある。
(2)ガバペンチン以外の抗けいれん薬
 ガバペンチン以外の抗けいれん薬については、非がん患者での鎮痛効果は中等度であることが示されている。非がん患者の神経障害性疼痛を主としたFinnerup10)の系統的レビューでは、50%以上の痛みの改善を有効とし定義した場合のNNTはカルバマゼピン2.0、フェニトイン2.1、バルプロ酸2.8などであり、抗けいれん薬全体で4.2 であった。副作用による治療中断のNNHは11である(P66,Ⅱ-4-3 鎮痛補助薬の項参照)。
 一方、がん患者では質の高い臨床研究はほとんどなく、フェニトイン、バルプロ酸、クロナゼパムについて少数の研究があるにすぎない。
 Yajnikら11)の無作為化比較試験では、がん疼痛患者75 例を対象とし、ブプレノルフィン単独0.4mg/日、フェニトイン単独200mg/日、ブプレノルフィン0.2mg/日とフェニトイン100mg/日併用を比較したところ、50%以上の程度で痛みが改善した比率に差はなかった(84% vs 72% vs 88%)。フェニトイン単独群での副作用は頭痛とめまいがそれぞれ1例に、併用群では副作用は観察されなかった。
 Hardyら12)による無作為化比較試験では、WHO方式がん疼痛治療法でオピオイドを使用しても痛みの改善がみられない神経障害性疼痛患者25例を対象に、バルプロ酸400〜1200mg/日併用の効果をみたところ15日後の有効率は、① Brief Pain Inventory(BPI)による痛みを4段階に分け、「痛みなし」、「少し痛い(1〜4)」、「やや痛い(5〜7)」、「ひどく痛い(8〜10)」に分類し1 段階以上軽快したのは56%、② NRSで平均の痛みが絶対値1 以上低下したのは67%、③痛みの低下の程度を%で問い50%以上の低下がみられたのは28%だった。1例が振戦のために中止、5例が病状の悪化のために中止した。副作用は眠気(8日目30%、15日目47%)が最も多く、次いで、ふらつき(8日目10%、15日目41%)、食欲不振(8日目25%、15日目25%)であった。
 Hugel13)らによる前後比較研究では、オピオイドにより鎮痛効果が十分でない神経障害性疼痛のがん患者10例を対象に、クロナゼパム0.5〜2mg(5日後平均1mg)の併用投与の効果をみたところ、5例から評価が得られ、4段階痛みの評価方法(0〜3)で、治療前平均3から治療後1に低下した。3例は痛みの悪化、2例は眠気の悪化のために試験を中止した。
**
 以上より、ガバペンチンは、がんによる神経障害性疼痛に対して、中等度痛みを緩和すると考えられる。ガバペンチン以外の抗けいれん薬は、がんによる神経障害性疼痛に対して、痛みを緩和する根拠は不十分であるが、非がん患者の神経障害性疼痛での知見と臨床経験から有効な可能性がある。
1:抗けいれん薬
けいれん(てんかん)発作に用いる薬剤で、鎮痛補助薬としても用いられる。神経の興奮や神経伝達物質を抑制する作用機序により鎮痛効果を発揮する。P69参照。
2:抗うつ薬
主にうつ症状を緩和する薬剤で、鎮痛補助薬としても用いられる。中枢神経系のセロトニン、ノルアドレナリン再取り込みを阻害し、下行性抑制系を賦活することによって鎮痛効果を発揮する。P66参照。
3:抗不整脈薬
不整脈の治療に使用する薬剤で、鎮痛補助薬としても用いられる。痛みによる神経の過敏反応を抑制し、また脊髄後角ニューロンの過剰な活動電位を抑制する。P69参照。
4:コルチコステロイド
副腎皮質ステロイド。骨転移痛、腫瘍による神経圧迫、関節痛、頭蓋内圧亢進、管腔臓器の閉塞などによる痛みに使用される。痛みを感知する部位の浮腫の軽減、ステロイド反応性の腫瘍の縮小などが作用機序と考えられている。P70参照。
5:NNT(Number Needed to Treat)
1例の効果を得るためにその治 療を何人の患者に用いなければならないかを示す指標。
6:NNH(Number Needed to Harm)
何人の患者を治療すると1例の有害症例が出現するかを示す指標。
2)抗うつ薬
(1)三環系抗うつ薬
 非がん患者の神経障害性疼痛の系統的レビューでは、アミトリプチリンなどの三環系抗うつ薬は、副作用として眠気、口渇、霧視、便秘、排尿障害が観察されるが、非がん患者の神経障害性疼痛に対して中等度の鎮痛効果があることが確認されている。Saartoら14)のレビューでは、「中等度の鎮痛効果」を有効と定義した場合のNNTは3.6であり、治療中断のNNHは28、重篤でない副作用のNNHは6である(P66,Ⅱ-4-3 鎮痛補助薬の項参照)。
 一方、がん患者の神経障害性疼痛の有効性に関する知見は限られており、これまでに無作為化比較試験が1件あるのみである。
 Mercadanteら15)による無作為化クロスオーバー比較試験では、比較的全身状態の良いがんによる神経障害性疼痛でモルヒネ投与中の患者16 例を対象に、アミトリプチリン25mg 3日間に続き50mg 4日間とプラセボとを比較したところ、平均の痛みの強さ(NRS 5.5→4.7 vs 5.4,p 値記載なし)や、痛みの最小値、痛みの緩和は変わらなかった。NRSでの痛みの最大値はアミトリプチリンのほうが少なくなった(8.4→7.0 vs 7.9, p=0.035)。しかし、副作用はアミトリプチリンのほうが多く、眠気(1→1.6 vs 0.8, p=0.036)、混乱(0.06 → 0.6 vs 0.06,p=0.003)、口渇(1.1→1.8 vs 1.3,p=0.034)が観察された。以上より、がん患者におけるアミトリプチリンの効果は少なく、慎重に投与するべきであると結論した。
(2)その他の抗うつ薬
 三環系抗うつ薬以外の抗うつ薬として、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor;S SRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin noradrenalin reuptake inhibitor;SNRI)は、非がん患者の神経障害性疼痛ではある程度の鎮痛効果があることが確認されている。非がん患者の神経障害性疼痛を主としたSaartoら14)の系統的レビューでは、「中等度の鎮痛効果」を有効とし定義した場合のNNTは3.1であり、治療中断のNNHは16、重篤でない副作用のNNHは9.6であった(P66,Ⅱ-4-3 鎮痛補助薬の項参照)。
 一方、がん患者の神経障害性疼痛に対するこれらの抗うつ薬の有効性に関する知見は無作為化比較試験、前後比較研究ともにない。
**
 以上より、抗うつ薬については、がん患者における有効性の根拠は不十分であるが、非がん患者の神経障害性疼痛での知見と臨床経験から、がんによる神経障害性疼痛を緩和する可能性があると考えられる。
三環系抗うつ薬
従来から使われてきた抗うつ薬の一種。中枢神経系のセロトニン、ノルアドレナリン再取り込みを阻害し、下行性抑制系を賦活することによって鎮痛効果を発揮する(代表的な薬剤としてアミトリプチリンなど)。
3)抗不整脈薬
  リドカインなどの抗不整脈薬は、非がんの神経障害性疼痛では軽度の鎮痛効果があることが確認され、副作用として眠気、倦怠感、嘔気、末梢のしびれ感、金属味がある。非がん患者の神経障害性疼痛を主としたChallapalliら16)の系統的レビューでは、治療前後でのVASの減少の平均値が−11mmであり、副作用のOdds 比は4.2(32% vs 12%;めまいがリドカインで30%、メキシレチン16%、嘔気がメキシレチンで17%)であった(P66,Ⅱ-4-3 鎮痛補助薬の項参照)。
 一方、がんによる神経障害性疼痛への有効性に関する臨床試験としては、無作為化比較試験が3件、前後比較研究が2件ある。
 Ellemannら17)による無作為化比較試験では、10例のがんによる神経障害疼痛のある患者を対象に、5mg/kgのリドカインとプラセボを30分間で投与することを1週間継続した効果を比較したところ、有効率(痛みのVASが15mm以上の減少と定義)は、リドカイン群で20%(2例)、プラセボで30%(3例)であり、リドカインはプラセボより有効であるとはいえなかった。
 また、Brueraら18)による無作為化比較試験では、オピオイドによる鎮痛効果が不十分ながんによる神経障害性疼痛のある患者10例を対象に、5mg/kgのリドカインとプラセボの30分単回投与を比較したところ、痛みのVASは2日後まで有意差はなかった。重篤な副作用も観察されなかった。
 一方、Sharmaら19)による無作為化比較試験では、オピオイドによる鎮痛効果が不十分ながん疼痛のある患者50例(混合性疼痛52%、侵害受容性疼痛30%、神経障害性疼痛18%)を対象に、リドカイン4mg/kg(2mg/kgボーラス後2mg/kgを1時間かけて投与)とプラセボを比較したところ、痛みのNRS はリドカイン投与後に有意に減少し(投与前8.5、8.7から、それぞれ、投与後−6.3 vs −2.3,p<0.0001)、50%以上痛みの改善の自覚がみられたのは、リドカイン群82%に対しプラセボ群16%であった(p=0.0001)。減少したNRS値の半分が再び増加する時間はリドカイン群で9.3日に対し、プラセボ群は3.8日であった。リドカイン群の副作用として口周囲の感覚低下(14%)、耳鳴り(8%)がプラセボ群より多く観察された。
 この他に、フレカイニド100〜200mgの効果をみた前後比較研究では、NRSで最大の痛みの強さが3点以上、あるいは50%以上の程度が減少することを有効と定義すると、30%の患者で有効であった(von Guntenら20))。副作用は軽度の白血球減少症が観察された。
**
 以上より、抗不整脈薬については、がんによる神経障害性疼痛に対して有効であるとするものと効果がないとするものとがあり、有効性は明らかではない。非がん患者の神経障害性疼痛での知見から、抗不整脈薬はがんによる神経障害性疼痛を緩和する可能性がある。
VAS(visual a nalogue scale)
100mmの線の左端を「痛みなし」、右端を「最悪の痛み」とした場合、患者の痛みの程度を表すところに印を付けてもらうもの。P26参照。
4)NMDA 受容体拮抗薬
 NMDA受容体拮抗薬には、ケタミン、アマンタジン、デキストロメトルファン、イフェンプロジルなどがある。このうち、ケタミンには、がんによる神経障害性疼痛について有効なある程度の根拠がある(P135,臨床疑問18 参照)。
5)コルチコステロイド
 コルチコステロイドが神経障害性疼痛について有効であることを示す質の高い臨床試験はない。脊髄圧迫症候群など神経への圧迫や炎症による痛みの場合に有効であることが経験的に示唆されている(P136,臨床疑問19 参照)。
**
 以上より、がんによる神経障害性疼痛に対して、ガバペンチンとケタミンはがん患者を対象とした臨床試験により中等度の鎮痛効果があることが示唆されている。ガバペンチン以外の抗けいれん薬、抗うつ薬、抗不整脈薬、ケタミン以外のNMDA受容体拮抗薬、コルチコステロイドに関しては、十分な知見がないが、非がん患者での知見や臨床経験から、がんによる神経障害性疼痛を緩和する可能性があると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、専門家の合意により、がんによる神経障害性疼痛に対して、抗けいれん薬、抗うつ薬、抗不整脈薬、NMDA受容体拮抗薬、コルチコステロイドのうちいずれかを使用することを推奨する。
 どの薬物が他の薬物に比較して鎮痛効果が優れるという十分な根拠はないため、薬物の選択は、薬物の副作用、および、痛みを生じている病態から選択する。すなわち、副作用を含む薬物の効果が、患者にとって好ましいものを優先して選択する。例えば、不眠がある場合には鎮静作用のあるものを優先する、便秘がある場合には抗コリン作用の少ないものを優先する(P66,Ⅱ-4-3 鎮痛補助薬の項参照)。
 病態としては、コルチコステロイドは、脊髄圧迫症候群など神経への圧迫や炎症による痛みの場合に検討する(P136,臨床疑問19 参照)。
 いずれの薬物も少量で開始して、眠気などの副作用が出ない範囲で、3〜5日ごとに増量する。増量の条件として、①痛みがある程度緩和しており、増量により鎮痛効果が得られると考えられる、②許容できる範囲の副作用である、③使用量が一般的な用量の上限に達していないことを目安とする。
臨床疑問45
がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して、ある鎮痛補助薬を増量しても効果がない場合、他の鎮痛補助薬への変更や併用は、行わないことに比較して痛みを緩和するか?
推 奨
がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して、ある鎮痛補助薬を増量しても効果がない場合、他の鎮痛補助薬への変更や併用が痛みを緩和するかについて十分な根拠がない。
がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して、ある鎮痛補助薬を増量しても効果がない場合、専門家に相談したうえで、他の鎮痛補助薬への変更や併用を行う。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関する臨床研究として、がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して鎮痛補助薬の変更や併用を検討した報告はなく、非がん患者の神経障害性疼痛においても、鎮痛補助薬の変更や併用を検討した質の高い臨床試験は限られている(Gilsonら21))。
**
 以上より、がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して、鎮痛補助薬を増量しても十分に効果がない場合に、他の鎮痛補助薬への変更や併用が痛みを緩和するか、また、どのような方法で変更・併用するかについては、十分な根拠がないと考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、専門家の合意により、がんによる神経障害性疼痛に対して、1種類の鎮痛補助薬を増量しても十分に効果がない場合は、専門家に相談したうえで、他の鎮痛補助薬への変更や併用を行うことを推奨する。
既存のガイドラインとの整合性
 NCCNのガイドラインでは、抗うつ薬 および/または 抗けいれん薬を第一選択とし、副作用が許容でき効果が得られるまで、常用投与量の範囲内(アミトリプチリンで50〜150mg、ガバペンチンで900〜3,600mg)で増量することを推奨している。脊髄圧迫症候群が疑われる場合には、迅速に専門家へ紹介することと、コルチコステロイドを投与することを推奨している。
 ESMOのガイドラインでは、オピオイドと抗うつ薬、抗けいれん薬の併用を推奨している。神経への圧迫による痛みの場合はコルチコステロイドの使用を推奨している。
 EAPCのガイドライン(2001a)では、オピオイドと抗うつ薬、抗けいれん薬を併用することを推奨している。脊髄圧迫症候群にはコルチコステロイド、放射線治療、化学療法を検討することを推奨している。
 ACCPのガイドラインでは、鎮痛補助薬(三環系抗うつ薬、抗けいれん薬)を使用し、無効な場合は専門家へ相談することを推奨している。新しく生じた腰背部痛に対しては、MRIで脊髄圧迫症候群の有無を精査し、放射線治療科、脊髄外科などの専門家へ迅速に相談することを推奨している。
(瀧川千鶴子)
献】
臨床疑問43
1)
Grond S, Radbruch L, Meuser T, et al. Assessment and treatment of neuropathic cancer pain following WHO guidelines. Pain 1999; 79: 15-20
2)
Mercadante S. Pain treatment and outcomes for patients with advanced cancer who receive follow-up care at home. Cancer 1999; 85: 1849-58
3)
Caraceni A, Zecca E, Bonezzi C, et al. Gabapentin for neuropathic cancer pain: a randomized controlled trial from the gabapentin cancer pain study group. J Clin Oncol 2004; 22: 2909-17
4)
Eisenberg E, Mcnicol E, Carr DB. Opioid for neuropathic pain. Cochrane Database Syst Rev 2008; 2
臨床疑問44
5)
Wiffen PJ, McQuay HJ, Moore RA, et al. Gabapentin for acute and chronic pain(Review). Cochrane Database Syst Rev 2008; 4
6)
Caraceni A, Zecca E, Bonezzi C, et al. Gabapentin for neuropathic cancer pain: a randomized controlled trial from the gabapentin cancer pain study group. J Clin Oncol 2004; 22: 2909-17
7)
Keskinbora K, Pekel AF, Aydinli I, et al. Gabapentin and an opioid combimation versus opioid alone for the management of neuropathic cancer pain: a randomized open trial. J Pain Sym Manage 2007; 34: 183-9
8)
Caraceni A, Zecca E, Martini C, et al. Gabapentin as an adjuvant to opioid analgesia for neuropathic cancer pain. J Pain Sym Manage 1999; 17: 441-5
9)
Ross JR, Goller K, Hardy J, et al. Gabapentin is effective in the treatment of cancer-related neuropathic pain: a prospective, open-label study. J Palliat Med 2005; 8: 1118-26
10)
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