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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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3章 推 奨
3 がん疼痛マネジメントにおける患者教育
がん疼痛マネジメントを受けている患者に、疼痛マネジメントに ついて教育を行うことは有効か?
関連する臨床疑問
40
がん疼痛マネジメントについて患者に教育を行うことで、痛みは緩和するか?
41
がん疼痛マネジメントについての教育は、どのように行うべきか?

40
がん疼痛マネジメントについて患者に教育を行う。1A(強い推奨、高いエビデンスレベル)
41-1
がん疼痛マネジメントについての教育は、その患者が実際に心配していることを明らかにし、患者個別に応じた教育を行う。
41-2
がん疼痛マネジメントについての患者教育は、継続して行う。
41-3
がん疼痛マネジメントについての患者教育の内容には、痛みとオピオイドに関する正しい知識、痛みの治療計画と具体的な鎮痛薬の使用方法、医療従事者への痛みの伝え方、非薬物療法と生活の工夫、セルフコントロールなどを含める。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
がん疼痛マネジメント
適切で効果的な疼痛緩和を行うために、患者の体験に焦点をあてた包括的評価、痛みの治療とケア(薬物療法、その他の治療、非薬物療法、ケア)および、継続的な評価を含めた多職種で行う過程をさす。
臨床疑問40
がん疼痛マネジメントについて患者に教育を行うことで、痛みは緩和するか?
推 奨
がん疼痛マネジメントについて患者に教育を行うことで、痛みは緩和する。
がん疼痛マネジメントについて患者に教育を行う。1A(強い推奨、高いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関連した臨床研究は、複数の系統的レビューと無作為化比較試験がある。
 Allardら1)による系統的レビューでは、がん疼痛のある患者を対象として、患者個々に応じた教育とフォローアップを行う(オピオイドについての認識を把握し誤解を修正する、オピオイドの内服方法をコーチングするなど)ことにより、痛みやオピオイドについての正しい知識の習得のみならず、痛みの改善にも効果的であることが示唆されている。また、Goldbergら2)による入院中のがん患者への患者教育についての系統的レビューでは、患者に対してカウンセリングなどを用いた教育的な介入は、痛みを改善し、痛みやオピオイドについての正しい知識を習得したと結論された。また、Devineら3)の成人がん患者への心理教育的介入についての系統的レビューでは、リラクゼーション、鎮痛薬使用についての患者教育、カウンセリングには、患者の痛みを緩和する効果があることが示されている。
 がん患者を対象として、疼痛マネジメントについての患者教育が痛みに及ぼす効果を評価した無作為化比較試験は8件ある(表1)。このすべてにおいて痛みの強さが軽減されており、教育プログラムとして、冊子を用いた説明やビデオ、録音テープ、痛み日記、継続したフォローアップなどさまざまな方法が組み合わせて実施されていた。
**
 以上により、がん疼痛マネジメントについて患者に教育を行うことで、痛みは緩和すると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、がん疼痛マネジメントを受ける患者には、がん疼痛マネジメントについて教育を行うことを推奨する。
表1  がん患者を対象とした痛みが緩和された教育プログラム
de Witらのプログラム(1997)4)
対象 がん専門病院の患者 313例(オランダ)
方法 介入群では、①痛みや疼痛マネジメントに関する情報提供や教育、②痛み日記を用いた痛みの記録方法の説明、③痛みについて医療従事者とどのようにコミュニケーションをとるかなどに関する説明を行った。説明を録音したテープと、冊子を用いて、個々の患者のニーズに合わせたプログラムを入院中に行った。介入群は、プログラムを受けた後、退院3日目、7日目に看護師が電話によるフォローアップを行った。退院後は介入群、対照群ともに訪問看護師が関わった群と関わらなかった群に振り分けられ、①訪問看護なしの対照群(n=103)、②訪問看護なしの介入群(n=106)、③訪問看護ありの対照群(n=51)、④訪問看護ありの介入群(n=53)の4 群を比較した。データ収集は、ベースライン,退院2週後,4週後,8週後に行った。
結果 退院後75%の患者が冊子を全部読み、62%がテープをすべて聴き、86%が痛み日記を記録していた。訪問看護なしの群での比較では、5以上の痛みを訴える割合が低下した(2週間目:16% vs 29%,p < 0.05;4週目:15% vs 32%,p < 0.01)。訪問看護ありの群での有意差はなかった。
Laiらのプログラム(2004)5)
対象 腫瘍病棟に入院している患者30例(台湾)
方法 10〜15分の教育セッションを5日間、痛みについて訓練を受けた腫瘍看護師が16ページの冊子を用いて行った。最後の2日間では、患者の個別の疑問に応じて、これまで学習してきたことの振り返りや、今後に向けた話し合いを行った。
冊子の内容は、①痛みの日々の生活への影響、②痛みの緩和方法や処方薬剤、③オピオイドの誤解、④副作用への対処、⑤痛みが長引くことの弊害、⑥非薬物療法、⑦痛みの強さを観察することの重要性、⑧ NRSを用いて医療従事者に痛みを伝える方法、⑨医療従事者に痛みを訴える権利、⑩患者自身が行うこと、⑪がんの痛みは緩和できることであった。
結果 介入前後の比較で、介入群では対照群と比べ平均的な痛みの強さが低下していた(5.0→2.8 vs 4.3→3.7,p<0. 05)。また、オピオイドへの正確な知識が増え、「痛みはコントロールできる」という認識が増えていた。
Rimerらのプログラム(1987)6)
対象 外来通院中のがん患者230例(米国)
方法 介入群の患者は、訓練を受けた腫瘍看護師とのセッションを受けた。セッションでは、①看護師が作成した重要事項記載カード(薬剤名と起こりうる副作用などが記載されている)と、②「No More Pain」の冊子(個別の鎮痛薬の服薬計画や説明が記載されている)をもとに15分間のカウンセリングを行った。冊子には、その患者に使用される鎮痛薬の種類や方法が記載され、看護師はこの冊子を枠組みとしてカウンセリングを行った。
結果 介入群では対照群と比較して、介入後1カ月後の痛みについて「痛みがない、あるいは、軽い痛み」と回答した患者が多かった(44% vs 24%,p=0.07)。また、介入群の患者は、対照群の患者と比して、正確なスケジュールで、正確な薬剤量を服薬する傾向にあった。介入群では医療用麻薬に対する心配をもっている患者の割合が減少した:精神依存(addiction)に関する心配(95% vs 82%,p=0.02)、耐性に関する心配(95% vs 75%,p=0.0002)。
Miaskowskiらのプログラム(PRO-SELP)(2004)7)
対象 骨転移のあるがん患者174例(米国)
方法 トレーニングを受けた看護師が、第1週に訪問し、①冊子を用いた鎮痛薬の誤解の相談、②ピルボックスを使用した内用剤の整理、③痛み日記を利用した疼痛評価の方法、④痛みが緩和しないときの医師とのコミュニケーション方法などについて、患者の個別性に合わせた面接を行った。その後、フォローアップとして、2、4、5週目に電話で痛みの強さと鎮痛薬の使用方法を確認し、3、6週目に患者の自宅を訪問した。
結果 介入群では対照群に比較して、6週目までの痛みのNRS が有意に減少した(グラフで示されており数値の記載はない, p<0.0001)。また、介入群では、定期使用薬と頓用薬の合計使用量がより増加していた。
Oliverらのプログラム(2001)8)
対象 痛みのある外来通院中の患者64 例(米国)
方法 痛みに関する知識や自己管理、疼痛コントロールについて、個別教育とコーチングセッション(約20分)を行った。
セッションには、①患者の痛みやオピオイドについての認識を確認、②誤解に対する教育、③ WHOの疼痛コントロールガイドラインに関する説明、④治療目標を確認、⑤目標に到達するための方法を具体的にすることが含まれている。
結果 介入群では、対照群と比較して2週間後の痛みの平均の強さが改善した(グラフで示されており数値の記載はない,p=0.014)。痛みによる障害、痛みの頻度、痛みの知識に関しては、群間差はみられなかった。
NRS(numerical rating scale)
痛みを0から10の11段階に分け、痛みが全くないのを0、考えられるなかで最悪の痛みを10として、痛みの点数を問うもの P26参照。
臨床疑問41
がん疼痛マネジメントについての教育は、どのように行うべきか?
推 奨
41-1
がん疼痛マネジメントについての教育は、その患者が実際に心配していることを明らかにし、患者個別に応じた教育を行う。
41-2
がん疼痛マネジメントについての患者教育は、継続して行う。
41-3
がん疼痛マネジメントについての患者教育の内容には、痛みとオピオイドに関する正しい知識、痛みの治療計画と具体的な鎮痛薬の使用方法、医療従事者への痛みの伝え方、非薬物療法と生活の工夫、セルフコントロールなどを含める。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
 がん疼痛マネジメントについての患者教育をどのように行うべきかについての具体的な方法と方法を比較した質の高い臨床試験はない。
 したがって、どのような方法がどのような方法と比較して効果があるかは明らかではない。
 本ガイドラインでは、専門家の合意として、がん疼痛マネジメントの教育は実際には複数の方法が組み合わせて行われるため、表1に挙げた無作為化比較試験で実施されていた介入プログラムに共通していた内容や方法を整理し、推奨する。
 また、がん患者の家族は、患者の疼痛マネジメントへの不安を持っており(Ferrellら)、患者が痛みを経験していても、家族が鎮痛薬の服薬にためらいや不安をもち、患者に鎮痛薬を服用させたくないという考えをもつことがある(Lin)。したがって、がん疼痛マネジメントについての患者教育においては、可能な限り、家族も含め行うことが望ましい。
41-1 患者個別に応じた教育を行う
 有効性が実証された教育プログラムでは、痛みに対する「全般的な情報」よりも「その患者が実際に心配していることを明らかにし対応すること」が要素として含められている(Rimerら、de Witら、Oliverら、Laiら)。
 例えば、「一般的にオピオイドでは麻薬中毒にはならない」と指導するだけではなく、「どういう心配をしていますか」などと、オピオイドを使用するうえで心配している内容やその理由を患者から具体的に聞いたうえでその患者の有している誤解を解消すること、患者がレスキュー・ドーズの使用方法がわからないのであればその方法を一緒に確認することなどカウンセリング技法も用い、冊子や要点を記載したカード、定期的な服用が確認できるピルボックスなどを活用して患者個別に応じた教育を行うことが重要である。
41-2 継続して教育を行う
 有効性が実証された教育プログラムでは、1回だけではなく、時間の経過に伴ってフォローアップを電話や訪問で行ったり、初回の説明内容の録音や視聴覚教材を使用したり、痛み日記を確認したりして繰り返し教育を行っている(de Witら、Miaskowskiら)。つまり、患者の痛みや鎮痛薬についての理解は一度で得られるものでなく、また、レスキュー・ドーズの使用などは痛みのタイミングに合わせた継続した教育が必要であることが示唆される。
41-3 教育内容として、痛みとオピオイドに関する正しい知識、痛みの治療計画と具体的な鎮痛薬の使用方法、医療従事者への痛みの伝え方、非薬物療法と生活の工夫、セルフコントロールを含める
有効性が実証された教育プログラムに含まれていた教育内容を整理し表2に示した(Ri merら、de Witら、Oliverら、Lai ら、Moiaaskowski ら、Wardら9)、Clotfelterら10)、Yatesら11))。
(1)痛みとオピオイドに対する正しい知識
 患者の痛みやオピオイドに関する認識を確認し、痛みを緩和することの意義や痛みを我慢することの悪影響を伝え、また、疼痛緩和の障害となっている誤解に関する正しい知識を説明する。特に、オピオイドについての誤った認識(「麻薬中毒になる」、「寿命が縮まる」、「徐々に鎮痛効果がなくなる」など)がしばしばみられることがあり、その認識に至った患者個々の背景などを十分に把握したうえで、がん疼痛やオピオイドについての情報を提供していく必要がある(P78,Ⅱ-6-2 オピオイドの誤解についての医学的真実の項参照)。
(2)痛みの治療計画と具体的な鎮痛薬の使用方法
 患者の痛みを緩和するための治療計画、すなわち患者の痛みの原因、疼痛治療の目標、鎮痛の治療計画、具体的な鎮痛薬の使用方法、特に、定期的な鎮痛薬の服用方法、レスキュー・ドーズの使用方法、副作用の対策について説明する。
(3)医療従事者への痛みの伝え方
 痛みを医療従事者に伝えることの意義を伝え、痛みの評価、痛み日記など患者が痛みを医療従事者に伝える方法を習得することである。疼痛マネジメントがうまくいかなかったときの連絡方法についてもここに含まれる。具体的な痛みの強さを伝える方法としては、NRSが一般的に推奨される(P25,U-2-2 痛みの評価の項参照)。
(4)非薬物療法と生活の工夫
 患者や家族が行っている有効な薬物以外の疼痛緩和方法を確認し、疼痛緩和につながる薬物療法以外の方法をみつけて行うように促す。例えば、「どのようにすれば痛みが和らぎますか、痛みが強くなりますか」などと評価し、生活のうえで痛みが悪化する要因や軽快する要因(温める、移動の仕方など)を観察し、生活に取り入れるように促す。
(5)セルフコントロール
 疼痛マネジメントを行うために患者が自分で痛みを観察するように促す。例えば、痛み日記やフローシートを用い、患者自身がコントロールしている実感をもてるように、一緒に患者が遂行しやすい方法を選択する。
既存のガイドラインとの整合性
 NCCNのガイドラインでは、がん疼痛マネジメントにおける患者教育について、痛みを緩和することの重要性、疼痛緩和に用いられる医療用麻薬では精神依存は問題にならないこと、患者と家族に痛みの程度や副作用、および、疼痛マネジメントに関する疑問について医療従事者に伝えることが重要であることを教育することが推奨されている。また、鎮痛薬の種類と使用方法、副作用対策、医療従事者に連絡すべき症状と連絡先の一覧を書面で情報提供すること、継続的にフォローアップすることが推奨されている。
表2 がん疼痛マネジメントについての患者教育に含まれるべき教育内容
痛みとオピオイドに対する
正しい知識
以下の誤った認識がないかを確認する。
精神依存になる。
徐々に効果がなくなる。
副作用が強い。
痛みは病気の進行を示す。
注射がこわい。
痛みの治療しても緩和することができない。
痛みを訴えない患者は「良い患者」であり、良い患者でいたい。
医療従事者は痛みの話をすることを好まない。
痛みの治療計画と鎮痛薬
の具体的な使用方法
患者の痛みの原因
痛み治療の目標
痛みの治療計画(化学療法、薬物療法、神経ブロックなど)
鎮痛薬の具体的な使用方法
  • 定期的な鎮痛薬の服薬方法
  • レスキュー・ドーズの使用
  • 副作用の出現と対策(嘔気・嘔吐、便秘、眠気、精神症状)
医療従事者への痛みの伝え方
痛みを医療従事者に伝えることの意義
痛みを医療従事者に伝える方法(NRS、痛み日記など)
疼痛マネジメントがうまくいかなかったときの連絡先
非薬物療法と生活の工夫
患者や家族が行っている薬物以外の有効な疼痛緩和方法の確認
疼痛緩和につながる薬物療法以外の方法をみつけて行うように促す(温める、移動の仕方など)。
セルフコントロール
自分で痛みを観察し、コントロールするように促す。
(梅田 恵、細矢美紀)
神経ブロック
局所麻酔薬や神経破壊薬、熱などにより神経の伝達機能を一時的・永久的に遮断することによって、または、オピオイドなど鎮痛薬の硬膜外腔・クモ膜下腔への投与によって鎮痛効果を得る手段。
(注釈)狭義の神経ブロックは一般的に前者をさし、後者とあわせたものを麻酔科的鎮痛(anesthesiological procedure)と呼ぶことがあるが、本ガイドラインでは、簡便に、両方を合わせて「神経ブロック」と呼ぶ。
献】
1)
Allard P, Maunsell E, Labbé J, Dorval M. Educational interventions to improve cancer pain control: a systematic review. J Palliat Med 2001; 4: 191-203
2)
Goldberg GR, Morrison RS. Pain management in hospitalized cancer patients: a systematic review. J Clin Oncol 2007; 25: 1792-801
3)
Devine EC. Meta-analysis of the effect of psychoeducational interventions on pain in adults with cancer. Oncol Nurs Forum 2003; 30: 75-89
4)
de Wit R, van Dam F, Zandbelt L, et al. A pain education program for chronic cancer pain patients: follow-up results from a randomized controlled trial. Pain 1997; 73: 55-69
5)
Lai YH, Guo SL, Keefe FJ, et al. Effects of brief pain education on hospitalized cancer patients with moderate to severe pain. Support Care Cancer 2004; 12: 645-52
6)
Rimer B, Levy MH, Keintz MK, et al. Enhancing cancer pain control regimens through patient education. Patient Educ Couns 1987; 10: 267-77
7)
Miaskowski C, Dodd M, West C, et al. Randomized clinical trial of the effectiveness of a self-care intervention to improve cancer pain management. J Clin Oncol 2004; 22: 1713-20
8)
Oliver JW, Kravitz RL, Kaplan SH, Meyers FJ. Individualized patient education and coaching to improve pain control among cancer outpatients. J Clin Oncol 2001; 19: 2206-12
9)
Ward S, Donovan HS, Owen B, et al. An individualized intervention to overcome patient-related barriers to pain management in women with gynecologic cancers. Res Nurs Health 2000; 23: 393- 405
10)
Clotfelter CE. The effect of an educational intervention on decreasing pain intensity in elderly people with cancer. Oncol Nurs Forum 1999; 26: 27-33
11)
Yates P, Edwards H, Nash R, et al. A randomized controlled trial of a nurse-administered educational intervention for improving   
【参考文献】
12)
Ferrell BR, Grant M, Chan J, Ahn C, et al. The impact of cancer pain education on family caregivers of elderly patients. Oncol Nurs Forum 1995; 22: 1211-8
13)
Lin CC. Barriers to the analgesic management of cancer pain: a comparison of attitudes of Taiwanese patients and their family caregivers. Pain 2000; 88: 7-14

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