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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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3章 推 奨
2 オピオイドによる副作用
4
せん妄
オピオイドが投与された患者において、せん妄が発現した時に有効な治療は何か?
関連する臨床疑問
36
オピオイドが投与され、せん妄が発現した患者に対して、行うべき評価は何か?
37
オピオイドが投与され、せん妄が発現した患者に対して、抗精神病薬は、プラセボに比較してせん妄を改善するか?
38
オピオイドが投与され、せん妄が発現した患者に対して、オピオイドの変更(オピオイドローテーション)は、変更しないことに比較してせん妄を改善するか?
39
オピオイドが投与され、せん妄が発現した患者に対して、オピオイドの投与経路の変更は、変更しないことに比較してせん妄を改善するか?

36
せん妄を発現する他の要因を鑑別し、治療を検討する。
37
オピオイドが投与され、せん妄が発現した患者に対して、抗精神病薬を投与する。2B( 弱い推奨、低いエビデンスレベル)
38
オピオイドが投与され、せん妄が発現した患者に対して、オピオイドを変更する。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
39
オピオイドが投与され、せん妄が発現した患者に対して、オピオイドの経口投与を持続静注・持続皮下注に変更する。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
せん妄
周囲を認識する意識の清明度が低下し、記憶力、見当識障害、言語能力の障害などの認知機能障害が起こる状態。通常、数時間から数日の短期間に発現し、日内変動が大きい。
●フローチャート 
フローチャート
せん妄の原因を評価し、原因に応じた対応を行う。オピオイドによるせん妄の場合は、抗精神病薬の投与、オピオイドローテーション、あるいはオピオイドの投与経路の変更を行う。効果が不十分な場合、神経ブロックなどによりオピオイドを減量・中止できるか検討する。
臨床疑問36
オピオイドが投与され、せん妄が発現した患者に対して、行うべき評価は何か?
推 奨
せん妄を発現する他の要因を鑑別し、治療を検討する。
 がん患者のせん妄の原因として、薬物(ベンゾジアゼピン系薬剤、コルチコステロイド、抗うつ薬など)、中枢神経系の病変、電解質異常(高カルシウム血症、低ナトリウム血症など)、高アンモニア血症、脱水、感染症、低酸素血症などがある。このうち、薬物、高カルシウム血症、脱水によるせん妄は可逆性が高いので、治療する価値が高い。ビタミンB 群欠乏、内分泌疾患は、がん患者における頻度は少ないと考えられるが、原因治療により改善する可能性がある。
 具体的には、投与薬物を確認し、せん妄の発現や悪化との時間関係を確認する。また、神経学的所見など理学所見をとり、血液検査(補正カルシウム値を含む)、頭部画像検査を検討することにより、主要なせん妄の原因を鑑別することができる。
 オピオイドが原因と考えられる場合は、十分な鎮痛効果が得られていれば、鎮痛が得られる範囲でオピオイドの減量を検討する。鎮痛効果が不十分であれば非オピオイド鎮痛薬・神経ブロック・放射線治療など他の鎮痛手段を加えてオピオイドを減量できるかを検討する。モルヒネが投与されている場合、腎機能障害が生じるとモルヒネの投与量は同一でもモルヒネの代謝産物が蓄積することにより眠気を発現することがある。
既存のガイドラインとの整合性
 NCCNのガイドラインでは、オピオイド以外の原因を鑑別すること、オピオイドの投与量を減らすために非オピオイド鎮痛薬を考慮することを推奨している。
 EAPCのガイドライン(2001b)では、最初の対処として、中枢神経系の病変、脱水、高カルシウム血症、低ナトリウム血症、肝機能障害、腎機能障害、低酸素血症、感染症、薬物によるものかを鑑別すること、オピオイドを減量することを推奨している。痛みがある場合には、非オピオイド鎮痛薬の追加、鎮痛補助薬の追加、痛みの原因となる疾患への治療、神経ブロックなどによりオピオイドの投与量を減量することを推奨している。
臨床疑問37
オピオイドが投与され、せん妄が発現した患者に対して、抗精神病薬は、プラセボに比較してせん妄を改善するか?
推 奨
オピオイドが投与され、せん妄が発現した患者に対して、抗精神病薬は、せん妄を改善する。
オピオイドが投与され、せん妄が発現した患者に対して、抗精神病薬を投与する。2B( 弱い推奨、低いエビデンスレベル)
 オピオイドによるせん妄に対する薬物療法に関しては、McNicolらによる系統的レビューが行われているが、無作為化比較試験はない(McNicolら)1)。原因をオピオイドと限定しないせん妄については、抗精神病薬投与に関する系統的レビューが2件、ベンゾジアゼピン系薬剤投与に関する系統的レビューが1件ある。
1)抗精神病薬
(1)定型抗精神病薬
 定型抗精神病薬とは、ドパミンD2受容体に対して高い親和性をもつ拮抗薬であり、ハロペリドールやクロルプロマジンなどに代表される抗精神病薬のことを指す。
 Breitbartら2)による無作為化比較試験では、せん妄が出現したAIDS患者30例を対象とし、ハロペリドール2.8mgとクロルプロマジン50mgとロラゼパム3mgの効果を比較したところ、せん妄の重症度の評価指標であるDelirium Rating Scale1が、ハロペリドール群、クロルプロマジン群では改善したが、ロラゼパム群では改善しなかった〔20→12(p<0.001) vs21→12( p<0.001) vs 18→1(7 p<0.63)〕。ハロペリドール群とクロルプロマジン群においては副作用を認めなかったが、ロラゼパム群には過鎮静やせん妄が悪化するなどの有害事象がみられた。クロルプロマジン群では長期的には認知機能を悪化させた。
 Jacksonら3)による、終末期患者に生じたせん妄に対する系統的レビューでは、1件の無作為化比較試験の結果から、せん妄の治療薬としてハロペリドールが最も適切であり、クロルプロマジンは軽度の認知機能障害が許容できるのであれば使用可能と結論した。
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 以上より、オピオイドによるせん妄に限定した知見ではないが、定型抗精神病薬はオピオイドによるせん妄を改善する可能性があると考えられる。
(2)非定型抗精神病薬
 非定型抗精神病薬とは、1980年代後半より導入された新規抗精神病薬を指す。従来の抗精神病薬と比較して、ドパミンD2受容体以外の神経伝達物質受容体に対しても選択的に作用し、錐体外路症状を中心とした中枢神経に対する副作用が少ない。
 Loner ga nら(2007)4)による、非定型抗精神病薬のせん妄に対する効果と副作用をみた系統的レビューでは、無作為化比較試験3件を検討し、3mg/日以下のハロペリドールとリスペリドン、オランザピンは効果と副作用の点で同等であり、4.5mg/日以上のハロペリドールはオランザピンと比較して、錐体外路症状が多いと結論した。例えば、ハロペリドール1.7mg/日とリスペリドン1.0mg/日とでは、せん妄の重症度の評価指標であるMemorial Delirium Assessment Scale(MDAS)2の低下には顕著な差はなく(75% vs 42% good response,p=0.11)、ハロペリドール7.1mg/日とオランザピン4.5mg/日とでは、Delirium Rating Scaleの低下率はいずれも同等であり、プラセボと比較して有意に改善した(ハロペリドール70% vs オランザピン72% vs プラセボ30%,p < 0.01)。
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 以上より、非定型抗精神病薬であるリスペリドンとオランザピンは、せん妄に対してハロペリドールと同等の効果があることが示唆される。また、クエチアピンやペロスピロンに関しては臨床研究がないが、薬理学的に他の非定型抗精神病薬と同種の薬剤として効果が期待できると考えられる。すなわち、オピオイドによるせん妄に限定した知見ではないが、非定型抗精神病薬はオピオイドによるせん妄を改善する可能性があると考えられる。
1:Delirium Rating Scale
せん妄の診断を目的として開発された評価尺度。10項目からなり、13点以上(最大32点)でせん妄と診断される。
2:MDAS
せん妄の重症度を測定するために開発された評価尺度。10項目からなり、MDAS日本語版では10点以上(最大30点)でせん妄と診断される。
2)ベンゾジアゼピン系薬剤
 Breitbartら2)による無作為化比較試験では、せん妄が出現したAIDS患者30例を対象とし、ハロペリドール、クロルプロマジンと比較して、ロラゼパムの単独投与では、せん妄の症状が改善しなかった。Lonerganら(2004)5)によるせん妄に対するベンゾジアゼピン系薬剤の使用に関する系統的レビューでは、せん妄に対するベンゾジアゼピン系薬剤の単独投与の効果を示した臨床研究は、アルコール離脱性せん妄以外のせん妄にはないと結論している。したがって、ベンゾジアゼピン系薬剤は、単独投与でせん妄は改善せず、悪化させる可能性もある。
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 以上より、オピオイドが投与され、せん妄が発現し患者に対して、抗精神病薬は、せん妄を改善する可能性があると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、オピオイドが投与され、せん妄が発現し患者に対して、抗精神病薬の投与を推奨する。
 投与薬物は、がん患者に対するエビデンスはないが、非がん患者に対するエビデンスから、定型抗精神病薬または非定型抗精神病薬を選択する。投与量に関しては、錐体外路症状や眠気など副作用を防ぐために、必要最少量にとどめる。抗精神病薬は少量から開始し、症状に合わせて増量する。投与時間については、眠気を来す作用もあることから、定期投与を行う場合には夕または就寝前の投与が望ましいが、症状に合わせて分割投与を検討する。1種類の抗精神病薬によってもせん妄が改善しない場合には、専門家の合意から、他の抗精神病薬へ変更するか、または、焦燥感・不眠などの症状が緩和されない場合は抗精神病薬とベンゾジアゼピン系薬剤を併用する。
既存のガイドラインとの整合性
 NCCNのガイドラインでは、ハロペリドール(0.5〜2mg、4 〜6時間ごとに経口投与)もしくは他の抗精神病薬の投与を検討することを推奨している。
 EAPCのガイドライン(2001b)では、他の原因の鑑別、オピオイドの減量を検討した後に、抗精神病薬(具体的にはハロペリドール、焦燥が著しい時にはベンゾジアゼピン系薬剤の併用)の使用を推奨している。
 日本総合病院精神医学会が作成した「せん妄の治療指針(2005年)」では、薬物療法としてハロペリドールの使用が推奨されている。
臨床疑問38
オピオイドが投与され、せん妄が発現した患者に対して、オピオイドの変更(オピオイドローテーション)は、変更しないことに比較してせん妄を改善するか?
推 奨
オピオイドが投与され、せん妄が発現した患者に対して、オピオイドの変更は、せん妄を改善する。
オピオイドが投与され、せん妄が発現した患者に対して、オピオイドを変更する。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関する臨床研究としては、系統的レビューが2件ある。無作為化比較試験はなく、前後比較研究が5件ある。
 Quigeyら6)による系統的レビューでは、痛みを訴える患者に対するオピオイドの変更の有効性について、前後比較研究14件、後ろ向き研究15件、症例報告23件を含む52件の文献を検討した結果、1つの報告を除き、オピオイドを変更することは疼痛緩和とオピオイドによる副作用を軽減するために有効な手段であると結論づけている。
 また、Mercadanteら7)による系統的レビューでは、オピオイドの変更に関して、前後比較研究が13件、後ろ向き研究10件などを含む31件の文献を検討し、1種類のオピオイドで疼痛緩和が不十分な患者に対してオピオイドローテーションを行うことで50%以上の患者において臨床的な改善が認められると結論づけた。
 Moritaら8)による前後比較研究では、モルヒネによるせん妄と診断されたがん患者20例を対象とし、モルヒネをフェンタニルに変更したところ、MDASが10点以上である患者は治療前85%であったが、治療3日後に15%、治療7日後に5%に減少した(p<0.001)。副作用は特にみられなかった。
 Gagnonら9)による前後比較研究では、オピオイドによる副作用のためにオピオイドの変更を行ったがん患者63例を対象とし、せん妄のためにオキシコドン皮下投与に変更した38例のうち、13例(34%)でせん妄は臨床的に改善した。注射部位の局所反応以外の副作用は認めなかった。
 Maddocksら10)による前後比較研究では、モルヒネが原因と考えられるせん妄のある患者13例を対象とし、オキシコドン皮下投与へ変更したところ、6日後には13例中9例(69%)でせん妄が消失した。変更に伴う副作用はみられなかった。
 Ashbyら11)による前後比較研究では、オピオイドが原因と考えられる副作用のある患者49例を対象とし、モルヒネからフェンタニルへ変更したところ、せん妄は15例中12例で臨床的な改善がみられ、2例は消失した。オキシコドンからフェンタニルへの変更では、せん妄は2例中1例で臨床的に改善した。モルヒネからオキシコドンへの変更では、4例中3例でせん妄が消失した。副作用に関する記載は特になかった。
 ほかに、McNamara12)による前後比較研究では、痛みに対してモルヒネが投与されており、モルヒネによる眠気やせん妄などの精神症状のあるがん患者19例を対象とし、モルヒネからフェンタニル貼付剤に変更を行ったところ、認知機能検査における記憶の項目で改善が認められている。
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 以上より、オピオイドが投与され、せん妄が発現した患者に対して、オピオイドの変更は、せん妄を改善する相応の根拠があると考えられる。いずれも質の高いエビデンスではないが、モルヒネからオキシコドンまたはフェンタニルに、あるいは、オキシコドンからフェンタニルに変更することでせん妄の改善を認めている。
 したがって、本ガイドラインでは、専門家の合意により、オピオイドによるせん妄に対してオピオイドの変更を推奨する。
既存のガイドラインとの整合性
 NCCNのガイドラインでは、オピオイドの変更を検討することを推奨している。
 EAPCのガイドライン(2001b)では、他の原因の鑑別とオピオイドの減量などを検討した後に、オピオイドの変更を推奨している。
臨床疑問39
オピオイドが投与され、せん妄が発現した患者に対して、オピオイドの投与経路の変更は、変更しないことに比較してせん妄を改善するか?
推 奨
オピオイドが投与され、せん妄が発現した患者に対して、オピオイドの投与経路の変更は、せん妄を改善する可能性がある。
オピオイドが投与され、せん妄が発現した患者に対して、オピオイドの経口投与を持続静注・持続皮下注に変更する。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関する臨床研究としては、無作為化比較試験はなく、前後比較研究が1件ある。
 Entingら13)による前後比較研究では、オピオイドによる疼痛緩和が不十分な100例の患者を対象とし、オピオイドを持続静注・持続皮下注に変更したところ、鎮痛効果の改善とあわせて、混乱および幻覚の改善または消失がそれぞれ87%(15例中13例)、70%(10例中7例)でみられた。
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 以上より、質の高いエビデンスではないが、オピオイドが投与され、せん妄が発現した患者に対して、オピオイドの投与経路の変更はせん妄を改善する可能性があると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、専門家の合意により、オピオイドによるせん妄に対してオピオイドの投与経路の変更を推奨する。
 ただし、せん妄が発現している患者では、投与ルートによる拘束感などにより、せん妄症状が悪化する場合や、転倒やルート抜去などの危険性が増加する場合があるため、投与経路の変更の際には十分に注意する。
既存のガイドラインとの整合性
 EAPCのガイドライン(2001b)では、他の原因の鑑別、オピオイドの減量を検討した後に、投与経路の変更を推奨している。
(松本禎久、小笠原利枝、川村三希子)
献】
臨床疑問37
1)
McNicol E, Horowicz-Mehler N, Fisk RA, et al. Management of opioid side effects in cancer-related and chronic noncancer pain: A systematic review. J Pain 2003; 4: 231-56
2)
Breitbart W, Marotta R, Platt MM, et al. A double-blind trial of haloperidol, chlorpromazine, and lorazepam in the treatment of delirium in hospitalized AIDS patients. Am J Psychiatry 1996; 153: 231-7
3)
Jackson KC, Lipman AG. Drug therapy for delirium in terminally ill patients. Cochrane Database Syst Rev 2004(2): CD004770
4)
Lonergan E, Britton AM, Luxenberg J, Wyller T. Antipsychotics for delirium. Cochrane Database Syst Rev 2007(2): CD005594
5)
Lonergan E, Luxenberg J, Areosa Sastre A et al. Benzodiazepines for delirium. Cochrane Database Syst Rev 2004
臨床疑問38
6)
Quigley C. Opioid switching to improve pain relief and drug tolerability. Cochrane Database Syst Rev 2004
7)
Mercadante S, Bruera E. Opioid switching: a systematic and critical review. Cancer Treat Rev 2006; 32: 304-15
8)
Morita T, Takigawa C, Onishi H, et al; Japan Pain, Rehabilitation, Palliative Medicine, and PsychoOncology(PRPP)Study Group. Opioid rotation from morphine to fentanyl in delirious cancer patients: an open-label trial. J Pain Symptom Manage 2005; 30: 96-103
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Gagnon B, Bielech M, Watanabe S, et al. The use of intermittent subcutaneous injections of oxycodone for opioid rotation in patients with cancer pain. Support Care Cancer 1999; 7: 265-70
10)
Maddocks I, Somogyi A, Abbott F, et al. Attenuation of morphine-induced delirium in palliative care by substitution with infusion of oxycodone. J Pain Symptom Manage 1996; 12: 182-9
11)
Ashby MA, Martin P, Jackson KA. Opioid substitution to reduce adverse effects in cancer pain management. Med J Aust 1999; 170: 68-71
12)
McNamara P. Opioid switching from morphine to transdermal fentanyl for toxicity reduction in palliative care. Palliat Med 2002; 16: 425-34
臨床疑問39
13)
Enting RH, Oldenmenger WH, van der Rijt CC, et al. A prospective study evaluating the response of patients with unrelieved cancer pain to parenteral opioids. Cancer 2002; 94: 3049-56
【参考文献】
臨床疑問37
14)
せん妄の治療指針, 日本総合病院精神医学会 編, 星和書店, 2005

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