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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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3章 推 奨
2 オピオイドによる副作用
3
オピオイドが投与された患者において、眠気が発現した時に有効な治療は何か?
関連する臨床疑問
32
オピオイドが投与され、眠気が発現した患者に対して、行うべき評価は何か?
33
オピオイドが投与され、眠気が発現した患者に対して、精神刺激薬、コリンエステラーゼ阻害薬、カフェインは、プラセボに比較して眠気を改善するか?
34
オピオイドが投与され、眠気が発現した患者に対して、オピオイドの変更(オピオイドローテーション)は、変更しないことに比較して眠気を改善するか?
35
オピオイドが投与され、眠気が発現した患者に対して、オピオイドの投与経路の変更は、変更しないことに比較して眠気を改善するか?

32
眠気の強度と苦痛の程度を評価する。
眠気を発現する他の要因を鑑別し、治療を検討する。
オピオイドの投与量が多くないかを評価する。
33
オピオイドが投与され、眠気が発現した患者に対して、専門家に相談したうえで、精神刺激薬を追加する。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
34
オピオイドが投与され、眠気が発現した患者に対して、オピオイドを変更する。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
35
オピオイドが投与され、眠気が発現した患者に対して、オピオイドの経口投与を持続静
注・持続皮下注に変更する。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
●フローチャート 
フローチャート
眠気の強度と苦痛の程度を評価する。眠気の原因を評価し、原因に応じた対応を行う。特に鎮痛効果が十分に得られている場合にはオピオイドの減量を検討する。初回投与や増量後の軽度の眠気であれば経過を観察する。オピオイドによる眠気の場合は、眠気に対する薬物療法(精神刺激薬の投与)、オピオイドローテーション、または、投与経路の変更を検討する。効果が不十分な場合、神経ブロックなどによりオピオイドを減量・中止できるか検討する。
臨床疑問32
オピオイドが投与され、眠気が発現した患者に対して、行うべき評価は何か?
推 奨
眠気の強度と苦痛の程度を評価する。
眠気を発現する他の要因を鑑別し、治療を検討する。
オピオイドの投与量が多くないかを評価する。
 オピオイドが投与された患者に眠気が発現した場合には、眠気がオピオイドの過量投与の兆候の可能性があるので、投与量が適切であるかをまず確認する。
 次に、眠気を生じる他の要因を鑑別し、治療を検討する。がん患者の眠気の原因としてオピオイド以外に、薬物(向精神薬、中枢作用のある制吐薬など)、中枢神経系の病変、電解質異常(高カルシウム血症、低ナトリウム血症など)、内分泌疾患、血糖値異常、腎機能障害、肝機能障害、高アンモニア血症、脱水、感染症、低酸素血症などがある。これらの原因には、治療可能なものもあるため、オピオイドによる眠気と判断する前に治療可能な原因を評価し、治療を検討する。例えば、薬物では、日中に投与されている眠気の原因となる薬物を中止・減量、または、夜間の投与とする。
 具体的には、投与薬物を確認し、眠気の悪化との時間関係を確認する。また、神経学的所見など理学所見をとり、血液検査(補正カルシウム値を含む)、頭部画像検査を検討することにより、主要な眠気の原因を鑑別することができる。そのうえで、眠気に対する患者の受け取り方が患者によって異なるため、眠気が患者にとって苦痛となっていないかを患者自身に評価してもらい、眠気を治療対象とするかを判断する。
 オピオイドが原因と考えられる場合は、初回投与や増量後では数日間で耐性ができることが多いため可能であれば経過を観察する。鎮痛効果が十分であればオピオイドの減量を検討する。鎮痛効果が不十分であれば、非オピオイド鎮痛薬・神経ブロック・放射線治療など他の鎮痛手段を加えてオピオイドを減量できるかを検討する。モルヒネが投与されている場合、腎機能障害が生じるとモルヒネの投与量は同一でもモルヒネの代謝産物が蓄積することにより眠気を発現することがある。
既存のガイドラインとの整合性
 NCCNのガイドラインでは、オピオイド開始後1週間以上経過しても眠気が改善しない場合、オピオイド以外の原因を評価することを推奨している。また、より少ない投与量で疼痛緩和が維持できるならばオピオイド投与量を減量する、オピオイドの投与量を減らすために非オピオイド鎮痛薬などの投与を考慮する、最高血中濃度を減らす目的でオピオイドをより少量の投与量で頻回に投与することを推奨している。
 EAPCのガイドライン(2001b)では、最初の対処として、中枢神経系の病変、脱水、高カルシウム血症、低ナトリウム血症、肝機能障害、腎機能障害、低酸素血症、感染症、薬物などによる眠気を鑑別すること、モルヒネの投与量を減量することを推奨している。その際に、痛みがある場合には非オピオイド鎮痛薬の追加、鎮痛補助薬の追加、痛みの原因となる疾患への治療、神経ブロックなどにより、モルヒネの投与量を減量することを推奨している。
臨床疑問33
オピオイドが投与され、眠気が発現した患者に対して、精神刺激薬、コリンエステラーゼ阻害薬、カフェインは、プラセボに比較して眠気を改善するか?
推 奨
オピオイドが投与され、眠気が発現した患者に対して、精神刺激薬は眠気を改善するが、コリンエステラーゼ阻害薬、カフェインについて眠気を改善する根拠はない。
オピオイドが投与され、眠気が発現した患者に対して、専門家に相談したうえで、精神刺激薬を追加する。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に対する臨床研究としては、系統的レビューが1件、無作為化比較試験2件、前後比較研究1件がある。
1)精神刺激薬
 複数の無作為化比較試験と前後比較研究で、オピオイドによる眠気に対する精神刺激薬の効果が示されている。
 McNicolら1)の系統的レビューでは、オピオイドが投与され眠気が発現した患者に対して、精神刺激薬が有効であるとしている。
 Wilwerdingら2)による無作為化クロスオーバー比較試験では、痛みに対してオピオイドを必要とするがん患者43例(必ずしも眠気を苦痛としているわけではない)を対象とし、メチルフェニデート15mg/日とプラセボの全般的な症状への効果を比較したところ、鎮痛効果などに差はみられなかったが、眠気を有意に改善した(絶対値の記載なし, p=0.01)。副作用として、メチルフェニデートに関連したものは認めなかった。
 Brueraら(1987)3)による無作為化クロスオーバー比較試験では、痛みに対してオピオイドを必要とするがん患者32例を対象とし、メチルフェニデート15mg/日とプラセボの鎮痛効果と眠気への効果を比較したところ、中等度の鎮痛効果とともに、眠気のVAS(0が最悪、100が最良)を有意に改善した(36 → 58 vs 36 → 45,p<0.01)。メチルフェニデートに関連した重度の副作用は認めなかった。
 この他に、Brueraら(1992)4)による前後比較研究では、メチルフェニデートにより、オピオイドの投与を受けているがん患者の眠気が改善することが示唆されている。
2)コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル)
 オピオイドの眠気にドネペジルが中等度有効であったが、副作用が高頻度にみられたことが1件の前後比較研究で示唆されている。
 Brueraら(2003)5)による前後比較研究では、痛みに対してオピオイドが使用され眠気を訴えているがん患者27例を対象とし、ドネペジル5mg/日を7日間投与したところ、7日後の眠気NRS が改善した(6.4 → 4.8, p=0.035)。副作用としては、20例中嘔気を6例、嘔吐を5例、下痢を5例、筋けいれんを3例、食欲不振を3例、腹痛を1例で認め、中止後に消失した。
3)カフェイン
 オピオイドの眠気に対するカフェインの効果については、1件の無作為化比較試験がある。
 Mercadante ら(2001)6)による無作為化クロスオーバー比較試験では、痛みに対して一定量のモルヒネを使用しているがん患者12例を対象とし、モルヒネ投与後のカフェイン200mgとプラセボの効果を比較したところ、眠気についてのNRS は有意な変化はみられなかった(28 →28 vs 22 →24, p 値の記載なし)。一方、認知機能検査に用いられるtapping speed testには有意な改善が認められた(120 →129 vs 133 →123,p=0.041)。カフェインによる副作用はみられなかった。
**
 以上より、オピオイドが投与され、眠気が発現した患者に対して、精神刺激薬は、眠気を改善する相応の根拠があると考えられるが、コリンエステラーゼ阻害薬、カフェインについて眠気を改善するとする十分な根拠はない。
 本邦では、精神刺激薬であるメチルフェニデートとモダフィニルはナルコレプシーと注意欠陥/多動性障害以外には使用が厳しく規制されている。同効薬としてペモリンがある。ペモリンは、中枢神経系のドパミン作動性ニューロンの神経終末でのドパミン取り込み阻害により効果を発現するため、オピオイドによる眠気を改善する可能性があるが、根拠となるエビデンスがほとんど存在していない(宮澤ら)。したがって、本ガイドラインでは、専門家に相談したうえで使用を検討することを推奨する。
 一方、コリンエステラーゼ阻害薬やカフェインは、十分なエビデンスがないため、推奨しない。
既存のガイドラインとの整合性
 NCCNのガイドラインでは、オピオイド開始後1 週間以上経過しても眠気が改善しない場合、カフェイン、メチルフェニデート、モダフィニルなどを推奨している。
 EAPCのガイドライン(2001b)では、オピオイド以外の原因の鑑別、オピオイドの減量について検討した後に、精神刺激薬(メチルフェニデートなど)の使用を推奨している。
臨床疑問34
オピオイドが投与され、眠気が発現した患者に対して、オピオイドの変更(オピオイドローテーション)は、変更しないことに比較して眠気を改善するか?
推 奨
オピオイドが投与され、眠気が発現した患者に対して、オピオイドの変更は、眠気を改善する。
オピオイドが投与され、眠気が発現した患者に対して、オピオイドを変更する。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関する臨床研究としては、系統的レビューが2件ある。無作為化比較試験はなく、前後比較研究が3件ある。
 Quigeyら7)による系統的レビューでは、痛みを訴える患者に対するオピオイドの変更の有効性について52件の文献に関してレビューしている。前後比較研究14件、後ろ向き研究15件、症例報告23件を検討した結果、1つの報告を除き、オピオイドを変更することは疼痛緩和とオピオイドによる副作用を軽減するために有効な手段であると結論付けている。
 また、Mercadanteら8)による系統的レビューでは、前後比較研究13件、後ろ向き研究10件などを含む31件の文献を検討し、1種類のオピオイドで疼痛緩和が不十分な患者に対してオピオイドの変更を行うことで50%以上の患者において臨床的な改善が認められると結論づけた。
 例えばNarabayashiら9)による前後比較研究では、鎮痛効果が不十分であったり耐えがたい副作用のためにモルヒネ内服の継続が困難ながん患者25例を対象とし、オキシコドン内服への変更を行ったところ、変更前に耐えがたい眠気を訴えていた7例全例で耐えがたい眠気は消失した(0〜3の4段階の評価で、2.1 → 0.9, p=0.031)。
 McNamara10)による前後比較研究では、痛みに対してモルヒネが投与されており、モルヒネによる眠気やせん妄などの精神症状のあるがん患者19例を対象とし、モルヒネからフェンタニル貼付剤に変更を行ったところ、4項目からなる眠気尺度(0〜12 点、9.4 → 7.3,p=0.0012)、眠気によるわずらわしさのVAS(68 → 49, p=0.017)が改善した。観察期間中に、19例中17例の患者で36件の有害事象がみられた。そのうち、治療に関連するものは、重篤なものとして呼吸抑制が1件あり、その他、倦怠感、発汗、嘔気、嘔吐、便秘、下痢、ミオクローヌス、モルヒネの離脱症候を12件認めたが一過性であり回復した。
 Ashbyら11)による前後比較研究では、オピオイドが原因と考えられる副作用のある患者49例を対象とし、モルヒネからフェンタニルへ変更したところ、眠気を有する10例中4例で臨床的な改善がみられ、うち2例で消失した。モルヒネからオキシコドンへの変更では、眠気のある2例中2例で臨床的な改善がみられた。副作用に関する記載は特になかった。
**
 以上より、オピオイドが投与され眠気が発現した患者に対して、オピオイドの変更は、眠気を改善する相応の根拠があると考えられる。いずれも質の高いエビデンスではないが、モルヒネからオキシコドンまたはフェンタニルに、オキシコドンからフェンタニルに変更することで眠気の改善が認められると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、専門家の合意により、オピオイドによる眠気に対して、オピオイドの変更を推奨する。
既存のガイドラインとの整合性
 NCCNのガイドラインでは、オピオイド開始後1週間以上経過しても眠気が改善しない場合、他の対応に加えて、オピオイドの変更を検討することを推奨している。
 EAPCのガイドライン(2001b)では、オピオイド以外の原因の鑑別、オピオイドの減量について検討した後に、オピオイドの変更を推奨している。
臨床疑問35
オピオイドが投与され、眠気が発現した患者に対して、オピオイドの投与経路の変更は、変更しないことに比較して眠気を改善するか?
推 奨
オピオイドが投与され、眠気が発現した患者に対して、オピオイドの投与経路の変更は、眠気を改善する可能性がある。
オピオイドが投与され、眠気が発現した患者に対して、オピオイドの経口投与を持続静注・持続皮下注に変更する。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関する臨床研究としては、無作為化比較試験はなく、前後比較研究が1件ある。
 Entingら12)による前後比較研究では、オピオイドによる鎮痛効果が不十分な100例の患者を対象とし、オピオイドを静脈内・皮下投与に変更(主な変更は、経口モルヒネを静脈内・皮下投与、フェンタニル貼付剤をフェンタニルかモルヒネの静脈内投与)したところ、鎮痛効果の改善とあわせて、眠気の改善または消失が60%(45例中27例)でみられたが、最終的に眠気は38例でみられた。重篤な副作用はなかった。
**
 以上より、質の高いエビデンスではないが、オピオイドが投与され眠気が発現した患者に対して、オピオイドの投与経路の変更は、眠気を改善する可能性があると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、専門家の合意により、オピオイドによる眠気に対してオピオイドの投与経路の変更を推奨する。すなわち、経口投与を持続静注・持続皮下注に変更する。
 ただし、投与ラインにより、患者が生活するうえで不便となる可能性があり、患者とよく相談して投与経路の変更を行う必要がある。
既存のガイドラインとの整合性
 EAPCのガイドライン(2001b)では、最初の対応(他の原因の鑑別、オピオイドの減量)で緩和しない場合に、投与経路の変更(経口→皮下投与)を推奨している。
(松本禎久、小笠原利枝、川村三希子)
献】
臨床疑問33
1)
McNicol E, Horowicz-Mehler N, Fisk RA, et al. Management of opioid side effects in cancer-related and chronic noncancer pain: A systematic review. J Pain 2003; 4: 231-56
2)
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Bruera E, Chadwick S, Brennels C, et al. Methylphenidate associated with narcotics for the treatment of cancer pain. Cancer Treat Rep 1987; 71: 67-70
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臨床疑問34
7)
Quigley C. Opioid switching to improve pain relief and drug tolerability. Cochrane Database Syst Rev. 2004(3): CD004847
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Narabayashi M, Saijo Y, Takenoshita S, et al; Advisory Committee for Oxycodone Study. Opioid rotation from oral morphine to oral oxycodone in cancer patients with intolerable adverse effects: an open-label trial. Jpn J Clin Oncol 2008; 38: 296-304
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臨床疑問35
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【参考文献】
臨床疑問33
13)
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14)
宮澤真帆,郡由起子,赤穂理絵,他.オピオイド・鎮痛補助薬に起因する,がん患者の眠気に対するペモリンの有効性と安全性の検討.第14回日本緩和医療学会総会.2009

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