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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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3章 推 奨
2 オピオイドによる副作用
2
便
オピオイドが投与された患者において、便秘が発現した時に有効な治療は何か?
関連する臨床疑問
29
オピオイドが投与され、便秘が発現した患者に対して、行うべき評価は何か?
30
オピオイドが投与され、便秘が発現した患者に対して、下剤は、プラセボに比較して便秘を改善するか?
31
オピオイドが投与され、便秘が発現した患者に対して、オピオイドの変更(オピオイドローテーション)は、変更しないことに比較して便秘を改善するか?

29
便秘を発現する他の要因を鑑別し、治療を検討する。
また、排便の状況を聴取し、腹部を診察し、腸閉塞と宿便の有無について評価する。
30
オピオイドが投与され、便秘が発現した患者に対して、下剤を投与する。
下剤は、便の性状に合わせて、主に便が硬い場合は浸透圧性下剤を、主に腸蠕動が低下している場合は大腸刺激性下剤を使用する。効果が不十分であれば両者を併用する。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
31
オピオイドが投与され、便秘が発現した患者に対して、下剤の投与や経直腸的処置で便秘が改善しない場合は、オピオイドを変更する(モルヒネやオキシコドンからフェンタニルへ)。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
便秘の定義
便秘とは「腸管内容物の通過が遅延・停滞し、排便に困難を伴う状態」を指す。排便の習慣は個人差が大きいため、もともとの排便習慣と比較し、排便回数の低下、便の量の減少やかたさ、残便感、排便の困難感などから判断する。
●フローチャート 
フローチャート
便秘の原因を評価し、原因に応じた対応を行う。腸閉塞を除外し、また、宿便を認める場合は経直腸的処置を行う。オピオイドによる便秘の場合は、下剤を投与する。便が硬い場合は浸透圧性下剤を、腸蠕動が低下している場合は大腸刺激性下剤を投与し、十分な効果があるまで増量する。効果が不十分であれば両者を併用、オピオイドローテーションを検討する。さらに効果が不十分な場合、神経ブロックなどによりオピオイドを減量・中止できるか検討する。
臨床疑問29
オピオイドが投与され、便秘が発現した患者に対して、行うべき評価は何か?
推 奨
便秘を発現する他の要因を鑑別し、治療を検討する。
また、排便の状況を聴取し、腹部を診察し、腸閉塞と宿便の有無について評価する。
 オピオイドが投与されている患者に便秘が発現した場合、まず排便状況や便秘の原因を評価する。
 排便状況の評価として、最近と現在の便の回数、量、硬さ、排便時の不快感(排便困難感、痛み、残便感)を聴取する。特に、腸閉塞と宿便の有無を評価する。
 腹部の診察では、腸蠕動、腸管内のガス貯留の有無、便塊の有無、圧痛を確認する。腸閉塞が疑われる場合は、腹部単純X線撮影を行い、腸閉塞が診断されれば腸閉塞に対する治療と処置を行う。
 宿便は、排便がみられていても宿便の周囲や下部腸管狭窄部を通って下痢便が出る「溢流性便秘」の場合があり、見逃して悪化すると消化性潰瘍形成による出血や穿孔の原因となるので注意が必要である。宿便が疑われる場合(排便時の不快感がある、溢流性便秘を認める、下剤を投与しても3日間以上排便を認めないなど)は、直腸診で直腸内の便貯留を確認し、宿便がみられる場合は経直腸的処置(坐剤投与、浣腸、摘便など)を行う。
 便秘を悪化させる原因として、脱水、代謝異常(高カルシウム血症、糖尿病、低カリウム血症、尿毒症、甲状腺機能低下症など)、薬物(抗コリン薬、利尿薬、抗けいれん薬、抗うつ薬、制酸薬、鉄剤、降圧薬、セロトニン拮抗薬など)の有無を確認する。可能であれば原因の治療として、脱水の補正、代謝異常の治療、便秘を悪化させる薬物の変更や中止を行う。十分な鎮痛効果が得られている場合、オピオイドの減量を検討する。
 また、生活習慣について聴取し、水分の十分な摂取や食物繊維の多い食事摂取、軽い運動や散歩を促す。また、腹部のマッサージや保温を勧め、排便習慣が保たれるようにし、定期的に排便状況を評価する。
既存のガイドラインとの整合性
 NCCNのガイドラインでは、便秘を生じた場合、便秘を引き起こすオピオイド以外の原因を治療すること、オピオイドを減量するために非オピオイド鎮痛薬を使用することを推奨している。また、便秘が持続した場合に原因を再評価することと、宿便の確認を推奨している。便秘の予防として水分摂取の増量、食物繊維摂取、運動を推奨している。
臨床疑問30
オピオイドが投与され、便秘が発現した患者に対して、下剤は、プラセボに比較して便秘を改善するか?
推 奨
オピオイドが投与され、便秘が発現した患者に対して、下剤は、便秘を改善する。
オピオイドが投与され、便秘が発現した患者に対して、下剤を投与する。
下剤は、便の性状に合わせて、主に便が硬い場合は浸透圧性下剤を、主に腸蠕動が低下している場合は大腸刺激性下剤を使用する。効果が不十分であれば両者を併用する。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関連した臨床研究としては、2件の系統的レビューと包括的レビューに基づくガイドライン、および無作為化比較試験1件、前後比較研究1件がある。
 Larkinら1)によるレビューでは、緩和ケアを受けている患者における便秘に対して浸透圧性下剤のみでは不十分な可能性があり、浸透圧性下剤と大腸刺激性下剤を併用することを専門家の意見より推奨している。しかし、McNicolら2)による系統的レビューでは、オピオイドの副作用対策として、推奨されている浸透圧性下剤と大腸刺激性下剤の併用は一般的にエビデンスが不十分であり経験に基づいていると結論づけている。さらに、Milesら3)による系統的レビューでは、緩和ケアを受けている患者の便秘治療に対する下剤、またはある下剤の組み合わせによる治療が、他の治療より優れているかを示すエビデンスはないと結論している。
 Agraら4)による無作為化比較試験では、米国の緩和ケア病棟に入院しオピオイドの投与を受けた終末期がん患者91例を対象とし、センナとラクツロースとの効果を比較したところ、オピオイド開始と同時にセンナあるいはラクツロース投与を開始し、観察期間において72時間以上排便を認めない回数(0.9 vs 0.9,p=0.85)、排便のあった日数(0.9 vs 1.0,p=0.72)は両者で差異を認めなかった。副作用は、センナ投与の7.0%、ラクツロース投与の6. 3%で下痢、嘔吐などを認めたがいずれも容易に改善した。効果と副作用とも同等のため、費用の点からセンナを利用することが望ましいと結論した。
 また、Twycrossら5)による前後比較研究では、悪性腫瘍の患者で60mg/日以上の硫酸モルヒネを投与されており、治療を要する便秘を生じた23例を対象に、ピコスルファートナトリウムを患者の状態に応じて5、10、15mg の1日1回投与で開始し、2.5〜5mg/日で増減し上限を60mg/日として投与量を調整したところ、75%で14日間の観察期間中に普通便がみられた。浣腸、坐剤、摘便が必要でなく副作用を認めない満足のいく投与量の中央値は15mgであった。投与後最初の排便までの平均は12時間でその時点での投与量の中央値は15mgであった。5%に下痢を認めた。
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 以上より、浸透圧性下剤であるラクツロース、大腸刺激性下剤であるセンナ、ピコスルファートナトリウムはいずれもオピオイドによる便秘に有効であると考えられる。これ以外の一般的な下剤として、浸透圧性下剤では、塩類下剤である酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、クエン酸マグネシウムがあり、大腸刺激性下剤では、センノシド、大黄末がある。いずれもエビデンスは限られているが、同等の効果が期待できると考えられるため、オピオイドが投与され便秘が発現した患者に対して、下剤の投与は、便秘を改善すると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、オピオイドが投与され便秘が発現した患者に対して、下剤を投与することを推奨する。下剤の選択について十分な根拠はないが、専門家の合意として、便が硬い場合は、まず便を軟らかくする作用をもつ浸透圧性下剤を使用し、一方、腸蠕動が低下している場合は、まず腸管運動を促進する作用をもつ大腸刺激性下剤を使用することを推奨する。いずれも十分な効果があるまで増量し、効果が不十分な場合は作用機序の異なる両者を併用する。
既存のガイドラインとの整合性
 NCCNのガイドラインでは、浸透圧性下剤(docusate)と大腸刺激性下剤(センナ)を併用し、オピオイドを増量するときには下剤も増量し、便秘が持続した場合に他の下剤(マグネシウム製剤、ビサコジル、ラクツロース、ソルビトール、坐剤)やメトクロプラミドの追加投与を推奨している。
 EAPC のガイドライン(2001b)では、オピオイドが原因の便秘に対してどの下剤がより優れているかを示す臨床研究はないとしたうえで、センナ、ビサコジル、ラクツロースの有効性が示唆されるとしている。
臨床疑問31
オピオイドが投与され、便秘が発現した患者に対して、オピオイドの変更(オピオイドローテーション)は、変更しないことに比較して便秘を改善するか?
推 奨
オピオイドが投与され、便秘が発現した患者に対して、オピオイドの変更は、便秘を改善する。
オピオイドが投与され、便秘が発現した患者に対して、下剤の投与や経直腸的処置で便秘が改善しない場合は、オピオイドを(モルヒネやオキシコドンからフェンタニルへ)変更する。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関する臨床研究としては、無作為化比較試験はなく、オープン試験1件を含むコクランデータベースと、前後比較研究1件とオープン試験1件を含む系統的レビューがある(Quigley6)、Mercadanteら7))。
 Donnerら8)による前後比較研究では、疼痛治療にオピオイドが必要ながん患者98例を対象とし、モルヒネ徐放性製剤からフェンタニル貼付剤への変更を行ったところ、便秘の頻度が59%から35%へ減少し、下剤治療の使用頻度が62%から38%へ減少した。便秘以外の副作用は違いを認めなかった。3例で悪寒、寒気、発汗、頭痛を伴うモルヒネの離脱症候を認めたが3日以内に改善した。
 Mystakidouら9)による単一施設前向き観察研究では、痛みに対しオピオイド投与が必要ながん患者321例を対象とし、経口モルヒネを開始しフェンタニル貼付剤に変更したところ、便秘の頻度がモルヒネ投与時は17%、フェンタニルへ変更7日後は8.1%であった。
 Radbruchら10)による前後比較研究では、痛みに対しモルヒネ徐放性製剤投与を受けているがん患者46例を対象とし、フェンタニル貼付剤への変更を行ったところ、便秘の頻度は有意差を認めなかった。しかし観察日ごとの下剤(ラクツロース、ピコスルファートナトリウム、ビサコジルなど)を使用している患者はモルヒネ投与中の78〜87%から、フェンタニルへ変更後は22〜48%へ低下した。フェンタニル変更後12日、17日では変更前に比べて有意差を認めた(p<0. 001)。
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 以上より、モルヒネからフェンタニル貼付剤へ変更することは便秘の改善に有効であると考えられる。一方、オキシコドンからフェンタニル貼付剤への変更が便秘の改善に有効であることを示すエビデンスはない。しかしオキシコドンはモルヒネと同程度の便秘を生じると考えられていることから、オキシコドンからフェンタニル貼付剤へ変更することが便秘の改善に有
効であると考えられる。すなわち、オピオイドの投与を受け便秘を生じた患者に対して、オピオイドの変更は、便秘を改善すると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、オピオイドの投与を受け便秘を生じた患者に対して、下剤の投与や経直腸的処置で便秘が改善しない場合は、オピオイドを(モルヒネやオキシコドンからフェンタニルへ)変更することを推奨する。
既存のガイドラインとの整合性
 NCCNのガイドラインでは、オピオイドの減量を検討し、便秘に対する治療を行っても改善しない場合、オピオイドの変更を考慮するとしている。ESMOのガイドラインでは、オピオイドの減量、下剤投与、オピオイドの変更が有用であるとしている。
(今井堅吾)
献】
臨床疑問30
1)
Larkin PJ, Sykes NP, Centeno C, et al. The management of constipation in palliative care: clinical practice recommendations. Palliat Med 2008; 22: 796-807
2)
McNicol E, Horowicz-Mehler N, Fisk RA, et al. Management of opioid side effects in cancer-related and chronic noncancer pain: a systematic review. J Pain 2003; 4: 231-56
3)
Miles CL, Fellowes D, Goodman ML, Wilkinson S. Laxatives for the management of constipation in palliative care patients. Cochrane Database Syst Rev 2006(4): CD003448
4)
Agra Y, Sacristàn A, Gonzàlez M, et al. Efficacy of senna versus lactulose in terminal cancer patients treated with opioids. J Pain Symptom Manage. 1998; 15: 1-7
5)
Twycross RG, McNamara P, Schuijt C, et al. Sodium picosulfate in opioid-induced constipation: results of an open-label, prospective, dose-ranging study. Palliat Med 2006; 20: 419-23
臨床疑問31
6)
Quigley C. Opioid switching to improve pain relief and drug tolerability. Cochrane Database Syst Rev 2004(3): CD004847
7)
Mercadante S, Bruera E. Opioid switching: a systematic and critical review. Cancer Treat Rev 2006; 32: 304-15
8)
Donner B, Zenz M, Tryba M, et al. Direct conversion from oral morphine to transdermal fentanyl: a multicenter study in patients with cancer pain. Pain 1996; 64: 527-34
9)
Mystakidou K, Tsilika E, Parpa E et al. Long-term cancer pain management in morphine pretreated and opioid naïve patients with transdermal fentanyl. Int J Cancer 2003; 107: 486-92
10)
Radbruch L, Sabatowski R, Loick G, et al. Constipation and the use of laxatives: a comparison between transdermal fentanyl and oral morphine. Palliat Med 2000; 14: 111-9

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