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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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3章 推 奨
1 共通する疼痛治療
3
オピオイドが投与されている患者
 オピオイドが投与されている患者で、突出痛が緩和されていない場合、有効な治療は何か?
関連する臨床疑問
20
突出痛のある患者において、行うべき評価は何か?
21
突出痛のある患者において、オピオイドのレスキュー・ドーズは、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
22
定時鎮痛薬の切れ目の痛み(end-of-dose failure)のある患者において、オピオイドの定期投与量の増量・投与間隔の短縮は、増量・投与間隔の短縮をしない場合に比較して、痛みを緩和するか?
23
レスキュー・ドーズの投与で鎮痛効果が不十分な突出痛のある患者において、オピオイドの定期投与量の増量は、増量しない場合に比較して痛みを緩和するか?
24
突出痛のある患者において、オピオイドに非オピオイド鎮痛薬を併用することは、併用しない場合に比較して痛みを緩和するか?

20
痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。
21
突出痛のある患者において、オピオイドのレスキュー・ドーズを投与する。1B(強い推 奨、低いエビデンスレベル)
投与量:
経口投与では1日投与量の10〜20%の速放性製剤を、持続静注・持続 皮下注では1時間量を急速投与する。
投与間隔:
経口投与の場合は1時間ごと、持続静注・持続皮下注の場合は15〜30 分ごととする。
投与経路:
定期投与と同じ経路を原則とする。発現から最大になるまでの時間の短い突出痛に対しては、持続静注・持続皮下注を検討する。
レスキュー・ドーズの効果が不十分であった場合、眠気が許容できる範囲で、レスキュー・ドーズの投与量を増量する。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
22
定時鎮痛薬の切れ目の痛み(end-of-dose failure)のある患者において、オピオイドの定期投与量の増量、または、投与間隔の短縮を行う。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
23
レスキュー・ドーズの投与で鎮痛効果が不十分な突出痛のある患者において、専門家へ相談のうえ、眠気が許容できる範囲でオピオイドの定期投与量を増量する。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
24
突出痛のある患者において、オピオイドに非オピオイド鎮痛薬を併用する。2C(弱い 推奨、とても低いエビデンスレベル)
●フローチャート 
フローチャート
痛みの原因の評価と痛みの評価を行い、原因に応じた対応を行う。痛みが持続痛ではなく突出痛であることを確かめ、予測できる突出痛、予測できない突出痛、および、定時鎮痛薬の切れ目の痛み(end-of-dose failure)に分類する。予測できる突出痛では、誘発する刺激を避け、誘発する刺激の前にレスキュー・ドーズの投与を行う。定時鎮痛薬の切れ目の痛みでは、オピオイドの定期投与量の増量・投与間隔の短縮を行う。いずれも、突出痛に対してはオピオイドのレスキュー・ドーズを投与する。鎮痛効果が不十分な場合は、非オピオイド鎮痛薬をオピオイドと併用、レスキュー・ドーズの増量、オピオイドの定期投与量の増量、または神経ブロックなどを検討する。
臨床疑問20
突出痛のある患者において、行うべき評価は何か?
推 奨
痛みの原因の評価と痛みの評価を行う(P24,Ⅱ-2 痛みの包括的評価の項参照)。
1)痛みの原因を身体所見や画像検査から評価する
 がんによる痛みでは鎮痛薬の投与などの疼痛治療とともに、外科治療、化学療法、放射線治療などの腫瘍そのものに対する治療を検討する。がん治療による痛み(術後痛症候群、化学療法後神経障害性疼痛など)やがん・がん治療と直接関連のない痛み(脊柱管狭窄症、帯状疱疹など)では原因に応じた治療を行う。痛みがオンコロジーエマージェンシー(脊髄圧迫症候群、骨折・切迫骨折、感染症、消化管の閉塞・穿孔・出血など)の症状であることがあるので、痛みへの対応のみでなく、痛みを生じている病態の把握と原因への対応を行う。特殊な疼痛症候群(神経障害性疼痛、骨転移痛、上腹部の内臓痛、胸部痛、会陰部の痛み、消化管閉塞など)の場合にはそれぞれの対応を検討する(P184,Ⅲ-4 各項を参照)。
2)痛みの評価を行う
 痛みの日常生活への影響、痛みのパターン(持続痛か突出痛か)、痛みの強さ、痛みの部位、痛みの経過、痛みの性状、痛みの増悪因子と軽快因子、現在行っている治療の反応、および、レスキュー・ドーズの鎮痛効果と副作用について評価する。
 突出痛が生じる経過を明らかにし、体動時痛など予測できる突出痛、予測できない突出痛、定時鎮痛薬の切れ目の痛み(end- of- dos e failure)に分類する。さらに突出痛の発現から最大になるまでの時間と持続時間を評価することにより、レスキュー・ドーズの投与経路などを決める参考にする。
臨床疑問21
突出痛のある患者において、オピオイドのレスキュー・ドーズは、プラセボに比較して痛みを緩和するか?
推 奨
突出痛のある患者において、オピオイドのレスキュー・ドーズは痛みを緩和する。
突出痛のある患者において、オピオイドのレスキュー・ドーズを投与する。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
投与量:
経口投与では1日投与量の10〜20%の速放性製剤を、持続静注・持続皮下注では1時間量を急速投与する。
投与間隔:
経口投与の場合は1時間ごと、持続静注・持続皮下注の場合は15〜30分ごととする。
投与経路:
定期投与と同じ経路を原則とする。発現から最大になるまでの時間の短い突出痛に対しては、持続静注・持続皮下注を検討する。
レスキュー・ドーズの効果が不十分であった場合、眠気が許容できる範囲で、レスキュー・ドーズの投与量を増量する。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
1)レスキュー・ドーズの鎮痛効果に関する臨床研究
 本臨床疑問に関する臨床研究は、1件の系統的レビュー、5件の前後比較研究(2件は無作為化比較試験の対照群)がある。
(1)系統的レビュー
 Zeppetellaら1)の系統的レビューでは、現在本邦では未発売のoral transmucosal fentanyl citrate(以下、OTFC)に関するものであり、突出痛に対するオピオイドは有効であると結論し、レスキュー・ドーズの投与量は定期投与量から一律に決めることはできず患者個々に合わせた増量が必要であるとしている。
(2)経口投与に関する研究
 Coluzziら2)による、突出痛に対する無作為化比較試験の対照群では、突出痛に対して、レスキュー・ドーズとして平均31±14mgのモルヒネ速放製剤を投与し、15分後に32%の例において痛みの強度が33%以上低下し、投与前と比較して投与60分後の痛みのNRS は約3.5(図による表示のみで正確な数値の記載はなし)低下した。モルヒネ速放製剤の投与量は漸
増法により有効なレスキュー・ドーズ投与量を決定し、定期投与量と有効なレスキュー・ドーズ投与量に関連は認めなかった。副作用に関するデータは示されていない。
(3)静脈内投与に関する研究
 Mercadante ら(2007)3)による無作為化比較試験では、突出痛のある患者25例を対象に、経口モルヒネ換算1日投与量の1/5相当のモルヒネ静注(静注:経口=1:3の換算比を使用、例えば、経口モルヒネ 90mg/日は、モルヒネ静注換算30mg/日相当であり、その1/5であるモルヒネ6mgを静脈内投与)とOTFCの効果を比較したところ、モルヒネ静注群では投与前、15分後、30分後の平均の痛みのNRSは、それぞれ、6.9、3.3、1.7であった。有効な疼痛緩和(NRS 33%以上の低下と定義)は15分後で74%、30分後で87%であった。副作用スケール2〜3の副作用として、嘔気3.7%、眠気19%、混乱5.6%が認められた。
 Mercadanteら(2004)4)による前後比較研究では、突出痛のある患者48例(突出痛171例)を対象に、経口モルヒネ換算1日投与量の1/5相当のモルヒネ静注の突出痛に対する効果を検討したところ、95%の症例で有効な疼痛緩和(NRS 33%以上の低下と定義)が得られた。有効例における最大効果発現までの平均時間は17.7分であった。副作用スケール2〜3の副作用は、嘔気・嘔吐7.0%、眠気15%、混乱0.6%で認められた。
 Mercadanteら(2008)5)による前後比較研究では、突出痛のある患者99例(突出痛469例)を対象に、経口モルヒネ換算1日投与量の1/5相当のモルヒネ静注の突出痛に対する効果を検討したところ、平均疼痛強度はNRSで投与前7.2から15分後2.7へ低下し、全体の61%で有効な疼痛緩和(NRS 33%以上の低下と定義)が得られた。重大な副作用は認められなかった。
(4)皮下投与に関する研究
 Entingら6)による前後比較研究では、突出痛のある患者58例を対象に、皮下計算量での総オピオイド1日投与量の10〜15%相当のhydromorphone(43例)、モルヒネ(11例)、sufentanil(4例)を自己注射し、副作用(具体的な記載なし)のない範囲で有効な投与量まで増量したところ、有効率は「よい」84%、「まあまあ」14%、「変わらない」2%であった。1日投与量は経口モルヒネ換算 280mg/日、平均レスキュー・ドーズ投与量は皮下モルヒネ換算25mgであった。効果発現までの時間は5〜10分であった。副作用による中止は1例であった。
**
 以上より、突出痛に対してオピオイドのレスキュー・ドーズ投与は痛みを緩和すると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、突出痛に対して、オピオイドのレスキュー・ドーズを投与することを推奨する。
2)レスキュー・ドーズの投与量、投与間隔、投与経路
(1)投与量
 前述の臨床研究では、レスキュー・ドーズとして経口・静脈内・皮下投与のいずれにおいても1日オピオイドの1日投与量の10〜20%相当の量を投与しており、この投与量は安全かつ有効であることが示唆される。一方、持続静注・持続皮下注の場合、本邦では1時間量(定期投与量の1/24)の急速投与がレスキュー・ドーズとして広く用いられており、経験的に安全で効果があると考えられている。
 したがって、これらの知見と専門家の合意から、本ガイドラインでは、初回のレスキュー・ドーズの投与量として経口投与では1日投与量の10〜20%相当のオピオイド速放性製剤を、持続静注・持続皮下注では1時間量を初回の投与量として投与することを推奨する。ただし、体格が小さい、高齢である、全身状態が不良である場合は、より少量から開始することが望ましい。レスキュー・ドーズ投与量は、鎮痛効果と副作用を評価し、患者の状態に応じて調節する。
(2)投与間隔
 薬物の投与間隔に関しては、根拠となる臨床研究はない。
 本ガイドラインでは、それぞれの最高血中濃度到達時間(Tmax)を勘案し、専門家の合意から、経口の場合は1時間ごと、経静脈投与・皮下投与の場合は15〜30分ごととすることを推奨する。
 レスキュー・ドーズの追加がほぼ等間隔で必要な場合は、持続痛の緩和が不十分であると考えられるため、オピオイドの定期投与量の増量を検討する(P128,Ⅲ-1-3 オピオイドが投与されている患者の項参照)。
(3)投与経路
 投与経路は、定期投与されているオピオイドと同じ経路を使用することを原則とする。経口投与が最も簡便であるが、効果発現までに時間がかかるため、痛みが発現してから最大になるまでの時間の短い突出痛に対しては、効果発現までの時間が短い静脈内・皮下投与(患者自己調節鎮痛法:patient control analgesia;PCA)を行うことを検討する。
 直腸内投与に関しては、他の投与経路が困難な場合の投与経路の選択肢となりうる。レスキュー・ドーズを直腸内投与する場合、投与量はオピオイド1日投与量の10〜20%を1回投与量とし、投与間隔は最高血中濃度到達時間(Tmaxから2時間を目安とする。
Tmax(maximumdrug concentration time)
最高血中濃度到達時間。薬物投与後、血中濃度が最大〔最高血中濃度(Cmax)〕に到達するまでの時間。
3)レスキュー・ドーズの鎮痛効果が不十分であった時の対応
 突出痛に対するレスキュー・ドーズの鎮痛効果が不十分であった場合の治療を比較した臨床研究はない。
 関連する臨床研究として、ColuzziらによるOTFCとモルヒネ速放性製剤を比較した無作為化比較試験では、突出痛を緩和するのに有効なレスキュー・ドーズ投与量は必ずしもオピオイドの1日の定期投与量の一定の割合ではないことが示唆されている2)。また、Zeppetellaらのオピオイドのレスキュー・ドーズ投与に関する系統的レビューでは、OTFCの投与量は定期投与量から一律に決めることはできず、患者個々に合わせた調節が必要であると結論している1)
**
 以上より、確立した知見ではないが、レスキュー・ドーズ投与量の増量により突出痛に対する効果が改善する可能性がある。
 したがって、本ガイドラインでは、これらの知見と専門家の合意より、レスキュー・ドーズの鎮痛効果が不十分であった場合、眠気が許容できる範囲で、レスキュー・ドーズの投与量を増量することを推奨する。ただし、レスキュー・ドーズの増量方法は安全性と有効性が確認された標準化された方法がないので、患者の個々に合わせた評価と観察が必要である。すなわち、レスキュー・ドーズ投与後、血中濃度が最高となる時間の鎮痛効果、眠気、呼吸数などを評価し、眠気、呼吸数の低下がみられずに痛みが緩和できない場合に、50%を目安として漸増し、鎮痛効果と副作用を継続的に評価する。
既存のガイドラインとの整合性
  EAPCのガイドライン(2001a)では、オピオイドの定期投与を行っている患者における突出痛に対しては、1日投与量の1/6の30〜100%(1日投与量の5〜17%)のオピオイドを経口投与することを推奨しており、簡便な方法としては1日投与量の1/6を投与し、患者の痛みに合わせて投与量を調節することを推奨している。投与間隔に関しては記載がない。
 EAPCのガイドライン(2002b)では、レスキュー・ドーズは、経口で1日投与量の5〜10%の速放性製剤を2〜3時間ごとに投与すること、患者に適した投与量は患者ごとに投与量を調節して決定することを推奨している。皮下投与は静脈内投与と比較すると効果発現が幾分緩徐であるが、効果はほぼ同等であり、経口投与では効果発現が遅い場合に有効であると記載されている。
 NCCNのガイドラインでは、オピオイドの1日投与量の10〜20%のオピオイドを経口もしくは静脈内・皮下投与することを推奨している。経口投与では投与1時間後に、静脈内投与では投与15分後に、皮下投与では投与30分後に再評価を行い、NRS 4〜6までの改善にとどまれば同量を、効果なし、もしくは痛みが悪化した場合はレスキュー・ドーズ投与量を50〜100%増量してさらに追加投与を行うことを推奨している。
臨床疑問22
定時鎮痛薬の切れ目の痛み(end-of-dose failure)のある患者において、オピオイドの定期投与量の増量・投与間隔の短縮は、増量・投与間隔の短縮をしない場合に比較して、痛みを緩和するか?
推 奨
定時鎮痛薬の切れ目の痛み(end-of-dose failure)のある患者において、オピオイドの定期投与量の増量、または、投与間隔の短縮は、痛みを緩和する。
定時鎮痛薬の切れ目の痛み(end-of-dose failure)のある患者において、オピオイドの定期投与量の増量、または、投与間隔の短縮を行う。1B( 強い推奨、低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関する無作為比較試験、前後比較研究はともにないが、定時鎮痛薬の切れ目の痛み(end-of-dose failure)を含むがん疼痛に対するWHO方式がん疼痛治療法の有用性を示した複数の観察研究があり、これらには定期投与量の増量または投与間隔の短縮を行ったものが含まれている(P31,Ⅱ-3 WHO方式がん疼痛治療法の項参照)。さらに関連した臨床研究として、モルヒネ速放性製剤を就寝前に倍量投与することで、夜間の突出痛が減少するかをみた無作為化比較試験が2件ある。
1)速放性製剤
 Todら7)による無作為化比較試験では、モルヒネ速放性製剤を定期投与されているがん患者20例を対象に、4時間ごとのモルヒネ投与と就寝前の倍量投与を比較した。夜間のレスキュー・ドーズ使用が必要であった患者の割合、朝・夜間の痛みとも、就寝前に倍量投与した群に痛みが強く(それぞれ、20% vs 55%,p=0.016;0.8 vs 2.5,p<0.01;0.5 vs 2.3,p <0.01)、夜間の突出痛の予防を目的とした場合には就寝前の倍量投与よりも投与間隔の短縮が有効であると結論した。
 一方、Daleら8)による無作為化比較試験では、がん疼痛に対してモルヒネ速放性製剤を定期投与されている患者19例を対象に、十分なオピオイド定期投与量の増量を行った後に、4時間ごとのモルヒネ速放性製剤の投与と就寝前の倍量投与を比較した。両群において疼痛強度は同等(1.3 vs 0.8,p=0.058)であり、投与間隔の短縮と比較して就寝前の倍量投与の有効性を否定できないとしている。
**
 以上より、速放性製剤を定期オピオイドとして使用する場合に定時鎮痛薬の切れ目の痛みを防ぐために、オピオイドの定期投与量を増量する方法と投与間隔を短くする方法のいずれが有効かは知見が一致しておらず結論できない。
 したがって、本ガイドラインでは、専門家の合意として、速放性製剤を使用している場合、定時鎮痛薬の切れ目の痛みが発現する場合にはオピオイドの定期投与量の増量、または、投与間隔の短縮のいずれかを行い、鎮痛効果を評価することを推奨する。
2)徐放性製剤
 徐放性製剤に関して、本臨床疑問に関する臨床研究は、無作為化比較試験、前後比較研究ともにない。すなわち、徐放性製剤を定期オピオイドとして使用する場合に、定期投与量の増量または投与間隔の短縮が定時鎮痛薬の切れ目の痛みを緩和するかは明らかではない。
 しかし、がん疼痛に対するWHO方式がん疼痛治療法の有用性を示した複数の観察研究があり、これらには定期投与量の増量または投与間隔の短縮を行ったものが含まれていると考えられる(P31,Ⅱ-3 WHO方式がん疼痛治療法の項参照)。また、徐放性製剤は作用時間が長いため投与量の増量により血中濃度の維持が可能となり、定時鎮痛薬の切れ目の痛みを防ぐ可能性があると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、専門家の合意として、定時鎮痛薬の切れ目の痛みに対して徐放性製剤によるオピオイド定期投与量の増量を推奨する。
 オピオイドの定期投与量の増量によっても定時鎮痛薬の切れ目の痛みがなくならない、もしくは増量によって副作用が出現する場合は、24時間徐放性製剤であれば12時間ごとに、12時間徐放性製剤であれば8時間ごとに投与することを検討する。
**
 以上より、定時鎮痛薬の切れ目の痛みに対して、オピオイドの定期投与量の増量、または、投与間隔の短縮は、いずれも、痛みを緩和する可能性があると考えられる。本ガイドラインでは、定時鎮痛薬の切れ目の痛みに対して、オピオイドの定期投与量の増量、または、投与間隔の短縮を行うことを推奨する。
既存のガイドラインとの整合性
 EAPCのガイドライン(2001a)では、定期オピオイドとして速放性製剤を4時間ごと使用している場合は就寝前の倍量投与を推奨している。
 EAPCのガイドライン(2002b)では、次回の定期オピオイド投与前に痛みが悪化する場合には、効果が得られる、もしくは、副作用が出現しない範囲でオピオイド定期投与量を増量する、あるいは投与間隔を短くすることを推奨している。
 NCCNのガイドラインでは、定期投与量を増量することを推奨している。
臨床疑問23
レスキュー・ドーズの投与で鎮痛効果が不十分な突出痛のある患者において、オピオイドの定期投与量の増量は、増量しない場合に比較して痛みを緩和するか?
推 奨
レスキュー・ドーズの投与で鎮痛効果が不十分な突出痛のある患者において、オピオイドの定期投与量の増量は、痛みを緩和するという根拠は不十分である。
レスキュー・ドーズの投与で鎮痛効果が不十分な突出痛のある患者において、専門家へ相談のうえ、眠気が許容できる範囲でオピオイドの定期投与量を増量する。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関する臨床研究はない。関連した臨床研究として1件の前後比較研究がある。
 Mercadanteら9)による前後比較研究では、骨転移に関連した体動によって誘発される突出痛のある患者25例を対象とし、モルヒネ持続静注による増量を行い、安静時痛が消失(NRSで4以下と定義)した後、体動時痛がNRSで4以下となるのを目標に定期の経口モルヒネを副作用が許容できる範囲で増量したところ、治療前の安静時痛・体動時痛の平均NRSはそれぞれ5.3、9.2であったが、安静時痛が緩和された翌日には1.8、4.8へ改善し、退院日にはそれぞれ2.0、4.6であった。平均経口モルヒネ量は102mg/日から125mg/日に増量された。オピオイドの増量を妨げる副作用としては、嘔気・嘔吐が12%、眠気が4%で認められた。
**
 以上より、オピオイドの定期投与量の増量により骨転移による体動時痛の痛みが低下することが示唆されるが、この研究は「レスキュー・ドーズの投与で鎮痛効果が不十分な突出痛」を対象としたものではなく、また、骨転移による体動時痛に関する研究であり、骨転移による体動時痛以外の突出痛でも同様に鎮痛効果が得られるかは不明である。また、入院による安静などオピオイド定期投与量の増量以外の介入による鎮痛効果が関与している可能性もある。
 さらに、安静時の持続痛が緩和されている状況でのオピオイドの定期投与量の増量は過量投与の危険性があり、増量を行う場合に、どのくらいの増量を行えばよいかについて、判断材料となる根拠は存在しない。
 すなわち、レスキュー・ドーズの投与で鎮痛効果が不十分な突出痛に対して、オピオイドの定期投与量の増量が痛みを緩和する可能性はあるが根拠は不十分であると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、これらの知見と専門家の合意から、レスキュー・ドーズの投与で鎮痛効果が不十分な突出痛に対して、専門家への相談のうえ、眠気などの副作用が出現しない範囲でオピオイドの定期投与量の増量を検討することを推奨する。増量幅は、安全性の点から20%を目安とした慎重な増量を行い、継続して十分な観察を行うことが望ましい。
既存のガイドラインとの整合性
 既存のガイドラインにおいて突出痛に対してオピオイドの定期投与量の増量に関して言及しているものはない。
臨床疑問24
突出痛のある患者において、オピオイドに非オピオイド鎮痛薬を併用することは、併用しない場合に比較して痛みを緩和するか?
推 奨
突出痛のある患者において、オピオイドに非オピオイド鎮痛薬を併用することは、痛みを緩和する可能性がある。
突出痛のある患者において、オピオイドに非オピオイド鎮痛薬を併用する。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関する無作為化比較試験、前後比較研究はともにない。すなわち、突出痛に対してオピオイドに非オピオイド鎮痛薬を併用することが、オピオイド単独投与と比較して痛みを改善するかは明らかではない。
 しかし、関連した知見として、全般的な痛みに対して非オピオイド鎮痛薬・オピオイドの併用により、鎮痛効果が増強することが示されている(P125,臨床疑問12 参照)。
 したがって、本ガイドラインでは、非オピオイド鎮痛薬が投与されていない場合はオピオイドに非オピオイド鎮痛薬を併用することを推奨する。ただし、その鎮痛効果は中等度であり、特にNSAIDsを使用する場合は長期投与により副作用の発現頻度が高くなるため、鎮痛効果と副作用を評価し長期投与を行うか判断するのが望ましい。
既存のガイドラインとの整合性
 EAPCのガイドライン(2002b)では、NSAIDsなどの抗炎症薬は、骨転移による痛みや粘膜・皮膚病変に関連する突出痛に対しては有効である可能性があるとしている。
(山口 崇)
献】
臨床疑問21
1)
Zeppetella G, Ribeiro MD. Opioids for the management of breakthrough(episodic)pain in cancer patients. Cochrane Database of Syst Rev 2008; Issue 2
2)
Coluzzi PH, Schwartzberg L, Conroy Jr JD, et al. Breakthrough cancer pain: a randomized trial comparing oral transmucosal fentanyl citrate(OTFC(R))and morphine sulfate immediate release (MSIR(R)). Pain 2001; 91: 123-30
3)
Mercadante S, Villari P, Ferrera, P et al. Transmucosal fentanyl vs intravenous morphine in doses proportional to basal opioid regimen for episodic ? breakthrough pain. B J Cancer 2007; 96: 1828- 33
4)
Mercadante S, Villari P, Ferrera P, et al. Safety and effectiveness of intravenous morphine for episodic(breakthrough)pain using a fixed ratio with the oral daily morphine dose. J Pain Symptom Manage 2004; 27: 352-9
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Mercadante S, Intravaia G, Villari P, et al. Intravenous morphine for breakthrough(episodic-)pain in an acute palliative care unit: a confirmatory study. J Pain Symptom Manage 2008; 35: 307-13
6)
Enting RH, Mucchiano C, Okdenmenger WH, et al. The “pain”for breakthrough cancer pain: a promising treatment. J Pain Symptom Manage 2005; 29: 213-7
臨床疑問22
7)
Tod J, Rees E, Gwilliam B, et al. An assessment of the efficacy and tolerability of a“ double dose” of normal-release morphine sulphate at bedtime. Palliat Med 2002; 16: 507-12
8)
Dale O, Piribauer M, Kaasa S, et al. A double-blind, randomized, crossover comparison between single-dose and double-dose immediate-release oral morphine at bedtime in cancer patients. J Pain Symptom Manage 2009; 37: 68-76 
臨床疑問23
9)
Mercadante S, Villari P, Ferrera P, Casuccio A. Optimization of opioid therapy for preventing incidental pain associated with bone metastases. J Pain Symptom manage 2004; 28: 505-10

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