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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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3章 推 奨
1 共通する疼痛治療
3
オピオイドが投与されている患者
 オピオイドが投与されている患者で、持続痛が緩和されていない場合、有効な治療は何か?
関連する臨床疑問
13
持続痛のある患者において、行うべき評価は何か?
14
オピオイドで鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において、非オピオイド鎮痛薬をオピオイドと併用することは、併用しない場合に比較して痛みを緩和するか?
15
オピオイドの定期投与により鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において、定期投与量の増量は痛みを緩和するか?
16
あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、他のオピオイドへの変更(オピオイドローテーション)や、他のオピオイドの追加は痛みを緩和するか?
16-1
あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、他のオピオイドに変更することは、痛みを緩和するか?
16-2
あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、他のオピオイドを追加することは、痛みを緩和するか?
あるオピオイドの経口投与または貼付剤で適切な鎮痛効果が得られない患者において、オピオイドを持続静注・持続皮下注に変更することは、痛みを緩和するか?
18
オピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、オピオイドとケタミンの併用は、オピオイド単独に比較して痛みを緩和するか?
19
オピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、オピオイドとコルチコステロイドの併用は、オピオイド単独に比較して痛みを緩和するか?
「適切な鎮痛効果が得られない」状態
オピオイドを十分に増量しても鎮痛効果が得られない、または痛みがあるにもかかわらず副作用のためにオピオイドを増量できないことと定義した。

13
痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。
14
オピオイドで鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドを併用する。1A(強い推奨、高いエビデンスレベル)
15
オピオイドの定期投与により鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において、定期投与量を増量する。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
増量幅:
あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、他のオピオイドに変更することは、痛みを緩和するか?
増量間隔:
あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、他のオピオイドを追加することは、痛みを緩和するか?
投与経路:
定期投与と同じ経路を原則とする。痛みが強く迅速な鎮痛効果が必要な場合は、持続静注・持続皮下注または経口速放性製剤による疼痛治療を行う。
16-1
あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、他のオピオイドに変更する。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
16-2
あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、専門家に相談したうえで、他のオピオイドを追加する。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
17
あるオピオイドの経口投与または貼付剤で適切な鎮痛効果が得られない患者において、オピオイドを持続静注・持続皮下注に変更する。2C(弱い推奨、とても低いエビ デンスレベル)
18
オピオイドを増量しても適切な鎮痛効果が得られない場合、専門家に相談したうえで、オピオイドにケタミンを併用する。2B(弱い推奨、低いエビデンスレベル)
19
オピオイドが投与されていても鎮痛効果が得られない患者において、特定の病態においては、副作用に注意しながらコルチコステロイドを投与する。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
コルチコステロイドの効果が期待できる病態
脊髄圧迫症候群など神経への圧迫による痛み、炎症による痛み、頭蓋内圧亢進に伴う頭痛、臓器の被膜伸展痛、骨転移に伴う痛みなどを指す。
●フローチャート 
フローチャート
痛みの原因の評価と痛みの評価を行い、原因に応じた対応を行う。疼痛治療としては、オピオイドによる副作用(嘔気・嘔吐、眠気など)がない場合は、オピオイドの定期投与量の増量を行う。オピオイドによる副作用がある場合は、副作用の対処をしながらオピオイドの定期投与量を増量するか、または、他のオピオイドへ変更(オピオイドローテーション)する。鎮痛効果が不十分な場合には、非オピオイド鎮痛薬をオピオイドと併用、他のオピオイドに変更(オピオイドローテーション)、他のオピオイドを追加、オピオイドの投与経路を変更、鎮痛補助薬とオピオイドを併用、または神経ブロックなどを検討する。
臨床疑問13
持続痛のある患者において、行うべき評価は何か?
推 奨
痛みの原因の評価と痛みの評価を行う(P24,Ⅱ-2 痛みの包括的評価の項参照)。
1)痛みの原因を身体所見や画像検査から評価する
 がんによる痛みでは鎮痛薬の投与などの痛みに対する治療とともに、外科治療、化学療法、放射線治療などの腫瘍そのものに対する治療を検討する。がん治療による痛み(術後痛症候群、化学療法後神経障害性疼痛など)やがん・がん治療と直接関連のない痛み(脊柱管狭窄症、帯状疱疹など)では原因に応じた治療を行う。痛みがオンコロジーエマージェンシー(脊髄圧迫症候群、骨折・切迫骨折、感染症、消化管の閉塞・穿孔・出血など)の症状であることがあるので、痛みの対応のみでなく、痛みを生じている病態の把握と原因への対応を行う。特殊な疼痛症候群(神経障害性疼痛、骨転移痛、上腹部の内臓痛、胸部痛、会陰部の疼痛、消化管閉塞など)の場合にはそれぞれの対応を検討する(P184,Ⅲ-4 各項を参照)。
2)痛みの評価を行う
 痛みの日常生活への影響、痛みのパターン(持続痛か突出痛か)、痛みの強さ、痛みの部位、痛みの経過、痛みの性状、痛みの増悪因子と軽快因子、現在行っている治療の反応、および、レスキュー・ドーズの効果と副作用について評価する。
 特に痛みが持続的にあり、持続痛を伴わない突出痛ではないことを確認する。鎮痛薬が確実に使用されているか(定期的に経口投与しているか、貼付剤がはがれていないかなど)を確認する。また、レスキュー・ドーズの効果を知ることにより、オピオイドに反応しにくい痛みなのか、オピオイドに反応する痛みであるが投与量が足りないのかを区別することができる。
臨床疑問14
オピオイドで鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において、非オピオイド鎮痛薬をオピオイドと併用することは、併用しない場合に比較して痛みを緩和するか?
推 奨
オピオイドで鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドの併用は、痛みを中等度緩和する。
オピオイドで鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドを併用する。1A(強い推奨、高いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関する臨床研究として、オピオイドを使用している患者に対して、非オピオイド鎮痛薬を上乗せして併用することにより鎮痛効果を比較した4件の無作為化比較試験がある(P125,臨床疑問12 参照)。いずれも、オピオイドを使用している患者に非オピオイドを上乗せすることにより、中等度の鎮痛効果を確認している。
**
 以上より、オピオイドで鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドの併用は、中等度痛みを緩和すると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、上記の知見と専門家の合意により、オピオイドで鎮痛効果が得られない患者において、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドを併用することを推奨する。
 ただし、鎮痛効果は中等度であり、NSAIDsでは消化管への有害作用などの副作用の発現頻度が高くなる可能性があるため、長期投与は鎮痛効果と副作用を評価して判断する。
臨床疑問15
オピオイドの定期投与により鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において、定期投与量の増量は痛みを緩和するか?
推 奨
オピオイドの定期投与により鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において、定期投与量の増量は痛みを緩和する。
オピオイドの定期投与により鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において、定期投与量を増量する。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
増量幅:
前日のレスキュー・ドーズ合計量を参考にしながら、定期投与量の30〜50%増量を原則とし、患者の状況に応じて増減する。
増量間隔:
速放性製剤、持続静注・持続皮下注では24時間、徐放性製剤では48時間、フェンタニル貼付剤では72時間を原則とする。
投与経路:
定期投与と同じ経路を原則とする。痛みが強く迅速な鎮痛効果が必要な場合は、持続静注・持続皮下注または経口速放性製剤による疼痛治療を行う。
 本臨床疑問に関する臨床研究として、オピオイドの定期投与により鎮痛効果が十分に得られない持続痛のある患者において、オピオイドの異なる増量幅や増量間隔を比較した無作為化比較試験はない。しかし、WHO方式がん疼痛治療法に基づくオピオイドの増量により、鎮痛効果が得られることが複数の観察研究で示されている(P31,Ⅱ-3 WHO方式がん疼痛治療法の項参照)。
**
 以上より、オピオイドの定期投与により鎮痛効果が十分に得られない持続痛のある患者において、定期投与量の増量は、痛みを緩和すると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、オピオイドの定期投与により鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において、定期投与量を増量することを推奨する。オピオイド定期投与量の増量を検討する場合としては、1日4回以上の経口レスキュー・ドーズをほぼ等間隔で使用する時、定期的に投与している鎮痛薬の投与前になると必ず痛みが来る時などがある。
 増量幅は、専門家の意見から、前日のレスキュー・ドーズ合計量を参考にしながら、定期投与量の30〜50%増量を原則とし、患者の状況に応じて増減することを推奨する。増量間隔は、速放性製剤、持続静注・持続皮下注では24時間、徐放性製剤では48時間、フェンタニル貼付剤では72時間を原則とすることを推奨する。投与経路は、定期投与と同じ経路を原則とする。痛みが強く迅速な鎮痛効果が必要な場合は、調節のしやすい持続静注・持続皮下注または経口速放性製剤を使用する。
既存のガイドラインとの整合性
 EAPCのガイドライン(2001a)では、直前24時間に使用したオピオイドの総量(定期投与量とレスキュー・ドーズ合計量)に基づいて増量を計算するとしている。
 NCCNのガイドラインではNRS ≧ 4の場合は、速やかに経口速放性製剤や持続注射で増量したうえで、直前24時間に使用したオピオイドの総量(定期投与量とレスキュー・ドーズ合計量)に基づいて増量を計算するとしている(詳細の方法はP250,Ⅳ-4-1,図1 参照)。
 ESMOのガイドラインでは、高度の痛みで迅速な鎮痛効果が必要な時は持続静注・持続皮下注を推奨している。また、経口レスキュー・ドーズ1日4回以上の使用でオピオイド徐放性製剤の定期投与量を増量するとしている。
臨床疑問16
あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、他のオピオイドへの変更(オピオイドローテーション)や、他のオピオイドの追加は痛みを緩和するか?
16-1
あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、他のオピオイドに変更することは、痛みを緩和するか?
推 奨
あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、他のオピオイドに変更することは、痛みを緩和する場合がある。
あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、他のオピオイドに変更する。1B(強い推奨、低いエビデンスレベル)
16-2
あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、他のオピオイドを追加することは、痛みを緩和するか?
推 奨
あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、他のオピオイドを追加することは、痛みを緩和するかどうかについて、根拠は不十分である。
あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、専門家に相談したうえで、他のオピオイドを追加する。2C (弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
16-1 オピオイドの変更(オピオイドローテーション)
 本臨床疑問に関する臨床研究としては、前後比較研究21件(そのうち、12件は本邦では利用できないmethadone への変更)を含む系統的レビューが2件ある。
 Quigley1),Mercadanteら2)の系統的レビューでは、無作為化比較試験など質の高いエビデンスではないが、オピオイドの変更は鎮痛効果の改善に有効な手段であると結論づけている。これらの研究では、モルヒネからオキシコドン、モルヒネからフェンタニルへの変更により鎮痛効果が得られている。
 例えば、Narabayashiら3)による前後比較研究では、副作用のためモルヒネを増量できず、中等度以上のがん疼痛のある患者25 例を対象として、経口オキシコドンに変更を行ったところ、変更後2.3日で84%の患者において痛みが軽度以下となった。
 Rileyら4)による前後比較研究では、モルヒネで鎮痛効果が得られないか、副作用がコントロールできない患者で、神経障害性疼痛が明らかな患者を除いた48例を対象として、モルヒネからオキシコドンに変更し、無効な場合はフェンタニルかmethadoneに変更、さらに無効な場合はフェンタニルかmethadoneのうち前回使用しなかったほうに変更を行ったところ、オキシコドンへの変更で79%の患者が、他のオピオイドへの変更3 回以内で87%の患者において鎮痛効果が得られた。
**
 以上より、あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、他のオピオイドに変更することは、痛みを緩和する場合があること示す相応の根拠があると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない場合には、他のオピオイドに変更することを推奨する(P41,Ⅱ-4-1-4オピオイドローテーションの項参照)
16-2 オピオイドの追加
  本臨床疑問に関する臨床研究としては、無作為化比較試験はなく、前後比較研究が1件あるのみである。
 Mercadanteら5)は、1週間以内にオピオイドを100%増量してもNRS ≧ 4の痛みのあるがん患者14名を対象に、他のオピオイドを追加する研究を行った。5例はフェンタニル貼付剤に20%の経口モルヒネを追加し、痛みのNRSは6.7から2.7に低下した。5例は経口モルヒネにフェンタニル貼付剤を追加し、痛みのNRS は6.4から3.3に低下した。副作用の増強はなかった。
**
  以上より、あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、他のオピオイドを追加することが、痛みを緩和する可能性はあるが根拠は不十分である。
 したがって、本ガイドラインでは専門家の合意として、あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、専門家に相談したうえで他のオピオイドを追加することを推奨する。
既存のガイドラインとの整合性
 EAPCのガイドライン(2001b)では、オピオイドの変更について、モルヒネの副作用で十分な鎮痛効果が得られない場合は、オピオイドを変更することを推奨している。
 オピオイドの追加については、既存のガイドラインでオピオイドの併用についての記載はない。
臨床疑問17
あるオピオイドの経口投与または貼付剤で適切な鎮痛効果が得られない患者において、オピオイドを持続静注・持続皮下注に変更することは、痛みを緩和するか?
推 奨
あるオピオイドの経口投与または貼付剤で適切な鎮痛効果が得られない患者において、オピオイドを持続静注・持続皮下注に変更することは、痛みを緩和する可能性がある。
あるオピオイドの経口投与または貼付剤で適切な鎮痛効果が得られない患者において、オピオイドを持続静注・持続皮下注に変更する。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
 本臨床疑問に関する臨床研究としては、前後比較研究が2件ある。
 Entingら6)による前後比較研究では、オピオイドによる疼痛治療が不十分な100例の患者を対象とし、経口投与・経皮オピオイドを静脈内投与・皮下投与に変更した。主な変更方法は、経口モルヒネを静脈内投与・皮下投与に変更、フェンタニル貼付剤をフェンタニルかモルヒネの静脈内投与・皮下投与に変更であった。変更後、安静時痛NRS が6.3 → 3.4、体動時痛NRSが8.4 → 4.6に減少した。嘔気、便秘、眠気、混乱、幻覚などの副作用は変更前78%で認められ、変更後25%で消失したが12%で新たに生じた。重篤な副作用は生じなかった。
 Drexelら7)による前後比較研究では、モルヒネ徐放性製剤や4時間毎のモルヒネ単回皮下投与をされていても重度の眠気や嘔気があったり鎮痛効果が得られない患者36例を対象とし、モルヒネを持続皮下注に変更した。全例で痛みの改善とQOLの改善、モルヒネ投与量の減少が認められた。鎮痛効果は持続皮下注に変更後10時間以内にもたらされ、NRS ≧ 5の痛みのある患者はいなくなった。
**
 以上より、十分な知見はないが、あるオピオイドの経口投与または貼付剤で適切な鎮痛効果が得られない患者において、オピオイドを持続静注・持続皮下注に変更することは、痛みを緩和する可能性があると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、あるオピオイドの経口投与または経皮投与で適切な鎮痛効果が得られない患者において、オピオイドを持続静注・持続皮下注に変更することを推奨する。
既存のガイドラインとの整合性
 EAPCガイドライン(2001b)では、モルヒネの副作用で十分な鎮痛効果が得られない場合は投与経路を変更することを推奨している。
 NCCNガイドラインでは、モルヒネ速放性製剤の経口投与を1時間おきに2〜3回繰り返しても疼痛緩和できないときは痛みの評価を再度やり直すとともに、持続静注・持続皮下注に変更することを推奨している。
臨床疑問18
オピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、オピオイドとケタミンの併用は、オピオイド単独に比較して痛みを緩和するか?
推 奨
オピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、オピオイドとケタミンの併用は、オピオイド単独に比較して痛みを緩和する可能性がある。
オピオイドを増量しても適切な鎮痛効果が得られない場合、専門家に相談したうえで、オピオイドにケタミンを併用する。2B(弱い推奨、低いエビデンスレベル)
(ケタミン・コルチコステロイド以外の鎮痛補助薬についてはP184,神経障害性疼痛参照)
 本臨床疑問に関する臨床研究としては、1件の系統的レビューがある。
 Bellら8)による系統的レビューでは、大規模な質の高い無作為化比較試験はなく、根拠としては不十分であるが、ケタミンの有効性を示唆した4つの無作為化比較試験と32の記述的研究を抽出した。ケタミンの使用量は1mg/kg/日〜600mg/日であった。
 例えば、Mercadanteら9)による無作為化比較試験では、モルヒネで緩和されない神経障害性疼痛のあるがん患者10名を対象としたところ、ケタミンは用量依存性に痛みを緩和した〔NRS 6.6 → 3.8(ケタミン0.25mg/kg 投与群)、5.9 →1.8(ケタミン0.5mg/kg 投与群)、6.5 → 6.6(プラセボ群)〕。副作用として、幻覚が30〜40%、酩酊感が20%に認められた。ま
た、ケタミン投与群ではプラセボ群より眠気が多く認められた〔1.7(ケタミン0.25mg/kg 投与群)vs 1.9(ケタミン0.5mg/kg投与群)vs 0.3(プラセボ投与群), 投与後30分の0〜3スケール〕。
 Jacksonら10)による前後比較研究では、オピオイドで鎮痛効果が不十分ながん患者39例を対象に、ケタミン100〜500mg/日を3〜5日間持続皮下注を行ったところ、体性痛17例中15 例(88%)、神経障害性疼痛23例中14例(61%)に有効であった。有効の定義は、NRSが50%以上低下し、さらに1日のオピオイド使用量または疼痛時オピオイド使用回数が50%以上減少するか生活機能が明らかに改善する場合とした。副作用として、浮遊感15%、幻覚7.7%、眠気5.1%、めまい2.5%が認められた。
 Kannanら11)による前後比較研究では、アミトリプチリンやバルプロ酸ナトリウムとモルヒネを副作用の耐えられる最大投与量まで使用していてもNRSが6以上の神経障害性疼痛のあるがん患者9例を対象に、経口ケタミン(1 回0.5mg/kgを3回/日)による鎮痛効果をみたところ、痛みのNRSは24時間後には7.6 →3.6に減少した(p=0.0092)。
 Ogawaら12)による前後比較研究では、モルヒネで鎮痛効果が得られないか、またはモルヒネの耐えがたい副作用のある終末期がん患者15例を対象に、ケタミン持続静注を行ったところ、投与後6時間で1例が幻覚を伴うせん妄で、もう1例が全身衰弱でケタミン投与中止となったが、残りの13例は3〜20mg/hのケタミン投与で、痛みのVASは5.9から0.3に低下した。
**
 以上より、十分な知見ではないが、オピオイドで適切な鎮痛効果が得られない神経障害性疼痛やオピオイド耐性を生じた可能性がある患者において、オピオイドとケタミンの併用は、精神症状の発現の可能性があるものの痛みを緩和する可能性があると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、オピオイドを増量しても鎮痛効果が得られない場合は、専門家に相談したうえでオピオイドにケタミンを併用することを推奨する。
既存のガイドラインとの整合性
  ACCPのガイドラインでは、ケタミンの少量投与は特にオピオイドに耐性のある患者に鎮痛効果をもたらすが、ケタミンの使用経験が少ない医師は専門家に相談するべきとしている。
 ESMOのガイドラインでは、ケタミンの少量投与は十分ではないがある程度の根拠があるとしている。
臨床疑問19
オピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、オピオイドとコルチコステロイドの併用は、オピオイド単独に比較して痛みを緩和するか?
推 奨
オピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、特定の病態ではオピオイドとコルチコステロイドの併用は、オピオイド単独に比較して痛みを緩和する可能性がある。
オピオイドが投与されていても鎮痛効果が得られない患者において、特定の病態においては、副作用に注意しながらコルチコステロイドを投与する。2C(弱い推奨、とても低いエビデンスレベル)
(ケタミン・コルチコステロイド以外の鎮痛補助薬についてはP184,神経障害性疼痛参照)
 本臨床疑問に対する臨床研究としては、2件の無作為化比較試験(Mercadnteら13)、Brueraら14))と複数の記述的研究(Hardy15)、Watanabeら)がある。
 Brueraら14)による、弱オピオイド(propoxyfenとdipyrone の合剤)の経口投与を受けている終末期がん患者40 例を対象とした無作為化クロスオーバー比較試験では、メチルプレドニゾロン32mg 5日間の投与により、痛みのVAS が低下した(58 → 37 vs 58 → 50,p<0.01)。
 Mercadanteら13)による、緩和ケア病棟に入院した中等度以上のがん疼痛のある患者76例を対象とした無作為化比較試験では、オピオイド投与に加えてデキサメタゾン8mg/日の投与は消化器症状(嘔気・嘔吐、便秘)と全般的快適さ(sense of well-bei ng)に短期的効果をもたらしたが、鎮痛効果はオピオイド単独と同等であり(NRS7.1 → 1.9 vs 5.4 → 2.2,2週間後)、コルチコステロイドによる鎮痛効果を示せなかった。しかし本研究は、オピオイドで鎮痛効果が不十分な患者だけを対象としているわけではなく、1カ月以内にコルチコステロイド投与を受けた患者と、痛み以外の症状に対してコルチコステロイドの適応がある患者は除外されているので、痛みに対するコルチコステロイドの適応と考えられる患者は除外されている可能性がある。
**
  以上より、オピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において、がん疼痛全体としては鎮痛効果を向上するという根拠は乏しいが、脊髄圧迫症候群など神経への圧迫による痛み、炎症による痛み、頭蓋内圧亢進に伴う頭痛、臓器の被膜伸展痛、骨転移に伴う痛みなどの病態においてはオピオイドとコルチコステロイドの併用は、オピオイド単独に比較して痛みを緩和する可能性があると考えられる。
 したがって、本ガイドラインでは、専門家の合意により、長期使用に伴う副作用(高血糖、胃潰瘍、易感染性、口腔カンジダ症、満月様顔貌など)に注意しつつ、コルチコステロイドの適応と考えられる病態であれば、オピオイドとコルチコステロイドの併用を推奨する。併用の効果が認められれば効果の認められる最少量で併用し、効果がなければ漫然と使用せずに一定期間で減量・中止する。
既存のガイドラインとの整合性
  ESMOのガイドラインでは、神経圧迫による痛みの場合はコルチコステロイド投与を推奨している。
 ACCPのガイドラインでは、急性の腰痛に対しては、MRIで転移の診断を行い、コルチコステロイドを投与したうえで放射線科に相談すること、脊髄圧迫症候群と診断された場合は脊髄外科に相談することを推奨している。
 NCCNのガイドラインでは、神経圧迫、多発骨転移による痛み、炎症による痛みに対するコルチコステロイドの投与を推奨している。
 EAPCのガイドライン(2002b)では、骨転移による痛み、粘膜や皮膚の痛み、末梢神経の周辺の浮腫による痛みに対するコルチコステロイドの投与を推奨している。
(須賀昭彦)
献】
臨床疑問16
1)
Quigley C. Opioid switching to improve pain relief and drug tolerability. Cochrane Database Syst Rev. 2004(3): CD004847
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