line
がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

目次にもどる

2章 背景知識
8 薬物療法以外の疼痛治療法
2
神経ブロック
2
がん疼痛治療に行われる代表的な神経ブロック
1. 腹腔神経叢、内臓神経ブロック
応] 胃、小腸、肝臓、胆嚢、胆道、膵臓、脾臓、腎臓などの上腹部内臓痛。
置] 通常は後方からのアプローチである。 X線透視下、 CTガイド下、エコーガイド下(以下、透視下)に横隔膜脚を越えて腹腔神経叢まで針を進める腹腔神経叢ブロックと、横隔膜脚、椎体、大動脈で囲まれるコンパートメント内で内臓神経をブロックする内臓神経ブロックとがある(図1、2)。いずれの場合も水溶性造影剤を注入して、的確なブロック針の位置、造影剤の広がりを確認し、さらに局所麻酔薬の投与で効果を確認してから、神経破壊薬(50〜99. 9%アルコール、 7〜10%フェノール)10〜20mLを注入する。
徴]  腹腔神経叢(内臓神経)は交感神経であるため、ブロックすると副交感神経が優位となることから内臓の血管が拡張し血圧低下や下痢を生じるが、オピオイドの副作用である便秘を解消し食欲が亢進することが多い。
[有効率] 75〜85%
[合併症] 一過性の低血圧および起立性低血圧(30〜40%)、酩酊(20〜30%)、下痢(60〜70%)、その他、血管損傷、後腹膜出血、くも膜下注入、腎損傷、アルコール性神経炎による胸痛などはいずれもまれで数%以下である。
図1 腹腔神経叢・内臓神経ブロック施工中の写真
図1 腹腔神経叢・内臓神経ブロック施工中の写真
腹臥位にて、右側腹腔神経叢ブロック、左側内臓神経ブロックを施行している。
図2 腹腔神経叢・内臓神経
図2 腹腔神経叢・内臓神経
上腹部内臓からの求心線維は大動脈から腹腔動脈が分枝する位置(第1腰椎レベル)で腹腔神経叢を形成し、横隔膜脚部を貫いて椎体、大動脈、横隔膜脚に囲まれたコンパートメントを通る大・小、最下内臓神経となり、交感神経幹を通って脊髄後角に入力する。
2. 下腸間膜動脈神経叢ブロック
応] 横行結腸左半分、下行結腸、S字結腸、直腸由来の内臓痛。大動脈リンパ節転移、腫瘍浸潤による下腹部痛、腰痛。
置] 下腸間膜動脈神経叢は総腸骨動脈分岐部から約4〜7cm程度上方の腹部大動脈全面(第3腰椎レベル)にある(図3)。椎体外側接近法と経椎間板法とがある。前者は側臥位か腹臥位で、後者は腹臥位で透視下に行う。水溶性造影剤を注入して、的確なブロック針の位置、造影剤の広がりを確認し、さらに局所麻酔薬の投与で効果を確認してから、神経破壊薬(50〜99.9%アルコール、7〜10%フェノール)8〜15mLを注入する。
[有効率] 適応、手技が正しければ極めて高い。
[合併症] 低血圧および起立性低血圧(約20%)、下痢(約25%)、アルコールによる酩酊(20〜30%)、その他、血管損傷、後腹膜出血、射精障害、経椎間板法では椎間板炎、椎体炎などはいずれもまれで数%以下である。
図3 下腸間膜動脈神経叢、上下腹神経叢
図3 下腸間膜動脈神経叢、上下腹神経叢
下腸間膜動脈神経叢は総腸骨動脈分岐部から約4〜7cm 上方の腹部大動脈前面(第3腰椎レベル)にある。
上下腹神経叢は左右の第2、3腰内臓神経がほぼ大動脈分岐部で合体して形成され、第5腰椎〜仙骨上部前面にある。
3. 上下腹神経叢ブロック
応] 骨盤内臓器である直腸、前立腺、精嚢、膀胱後半部、子宮頸部、膣円蓋などの内臓痛。
置] 上下腹神経叢は第2、3腰内臓神経がほぼ大動脈分岐部で左右が合体して形成され、第5腰椎〜仙骨上部前面にある(図3)。椎体外側接近法と経椎間板法とがあるが、いずれも腹臥位で透視下に行う。水溶性造影剤を注入して、的確なブロック針の位置、造影剤の広がりを確認し、さらに局所麻酔薬の投与で効果を確認してから、神経破壊薬(50〜99.9%アルコール、7〜10%フェノール)5〜8mLを注入する。
徴] 知覚脱失や下肢筋力低下はない。
[有効率] 約70〜90%
[合併症] アルコールによる酩酊(20〜30%)、その他、血管穿刺、後腹膜出血、射精障害、膀胱直腸障害、椎間板炎、椎体炎などはいずれもまれで数%以下である。
4. 硬膜外鎮痛法
応]
  • オピオイドの全身投与では鎮痛効果が得られない時。
  • 高用量のオピオイドによる副作用のコントロールができない場合。
  • 具体的には、分節遮断が可能なため、後頭部から下肢、会陰部に至る広範な領域で、限局した痛み。
置] 痛みのある分節もしくはその頭側にチューブを留置する。局所麻酔薬とモルヒネ塩酸塩などのオピオイドを混合するが、下肢の運動傷害や膀胱直腸障害を防ぐには、低濃度、低用量の局所麻酔薬でオピオイドを主体とする。長期に留置する場合は皮下ポートを使用する。
徴]
  • 硬膜外腔へのオピオイド投与法はくも膜下腔投与と同様に、全身投与に比較して鎮痛力価が極めて高い。
  • 局所麻酔薬は分節麻酔作用、オピオイドが脊髄オピオイドレセプターを介して鎮痛効果をもつ。
  • 持続投与、間欠投与が可能、PCAによるレスキュー・ドーズが可能。
  • モルヒネなら経口モルヒネの1/5〜1/10 の投与量である。
[有効率] 短期間(数カ月)では極めて高い有効率である。
[合併症] 嘔気、尿閉は初期にのみ現れ(50〜70%)、数日〜2週間で改善する。呼吸抑制0.09〜0.9%、感染0〜15%(ほとんどの報告では1%未満)、瘙痒感、ミオクローヌスはまれ。
5. くも膜下鎮痛法(くも膜下オピオイド)
応] 
  • 直腸がん、膀胱がんなど骨盤腔内腫瘍の局所再発による仙骨神経叢へのがん浸潤に伴う会陰部や大腿後面の神経障害性疼痛。
  • パンコースト腫瘍の頸神経叢、腕神経叢への浸潤による神経障害性疼痛。
  • オピオイド、鎮痛補助薬などの副作用管理が困難な場合。
  • 主に第一胸椎神経より低いレベルに痛みがある場合。
置] 痛みのある分節もしくはその頭側にチューブを留置する。局所麻酔薬とモルヒネ塩酸塩などのオピオイドを混合するが、下肢の運動障害や膀胱直腸障害を防ぐには、低濃度、低用量の局所麻酔薬でオピオイドを主体とする。長期に留置する場合は皮下ポートを使用する。
 硬膜外穿刺針と硬膜外カテーテルを用いる。神経損傷を防ぐため第2 腰椎レベル以下で穿刺する。透視下にくも膜下腔にまで穿刺針を進め脊髄液の逆流が確認できたら造影剤にて、くも膜下腔を確認する。カテーテル先端を透視下に目的部位に進める。長期に留置する場合は皮下ポートを使用する。低濃度の局所麻酔薬とオピオイドを主体とする持続注入を行う。
徴] 
  • くも膜下腔へのオピオイド投与法は、全身投与に比較して鎮痛力価が極めて高い。
  • 局所麻酔薬は分節麻酔作用、オピオイドが脊髄オピオイドレセプターを介して鎮痛効果をもつが、オピオイドの作用が主である。
  • PCAによるレスキュー・ドーズが可能。
  • モルヒネなら経口モルヒネの1/50〜1/100 の投与量で済む。
[有効率] 長期間(数年)でも90%以上の高率で有効。
[合併症] 呼吸抑制0.1%以下、感染0〜15%(ほとんどの報告では1%未満)、嘔気、尿閉は初期にのみ現れ、数日〜2週間で改善する。
6. 高周波熱凝固による神経根ブロック、末梢神経ブロック
応] 限局した片側性の胸・上腹部、背部の体性痛や三叉神経領域のがん疼痛。
置]
  • 透視下に放散痛を参考に目的とする神経近傍に針を進める。低電流の刺激を与え、痛みのある部位に放散痛または筋の攣縮が生じることや造影剤注入にて針先端を正しい位置に置く。
  • 高周波熱凝固装置を用いた熱凝固法が、現在では一般的でありアルコールやフェノールを用いることは少ない。局所麻酔薬でブロック後、50〜90℃、 90〜180 秒で熱凝固を行う。
徴]
  • 神経刺激による正確な針先の確認ができる。
  • 神経破壊領域が針先端に限局されるため安全である。
  • 神経破壊作用が針先の温度と凝固時間で決まるため、調節性に富む。
[有効率] 針先が正しい位置にあれば、有効率は高いが、効果期間はアルコールやフェノールに比べると短い。
(細川豊史)
【参考文献】
1)
Mercadante S, Radbruch L, Caraceni A, et al. Episodic(breakthrough)pain. Cancer 2002; 94: 832-9
2)
Ambrosio F, Paoletti F, Savoia G, et al; SIAARTI. SIAARTI recommendations on the assessment and treatment of chronic cancer pain. Minerva Anestesiol 2003; 69: 697-729
3)
Hanks GW, de Conno F, Cherny N, et al. Morphine and alternative opioids in cancer pain: the EAPC recommendations. Br J Cancer 2001; 84: 587-93
4)
Dy SM, Asch SM, Naeim A, et al. Evidence-based standards for cancer pain management(Clinical Practice Guidelines in Oncology; Adult Cancer Pain: V-1 2008). J Clini Oncol 2008; 26 : 3879-85
5)
がん疼痛に対する神経ブロックの役割と実際の治療法. 日本緩和医療学会がん疼痛治療ガイドライン作成委員会 編. Evidenced-Based Medicineに則ったがん疼痛治療ガイドライン, 真興交易医書出版部, 2000; pp104-17
6)
A report by the American Society of Anesthesiologists. Task Force on pain management, cancer pain section. Practice guidelines for cancer pain management. Anesthesiology 1996; 84: 1243-57
7)
Bonica JJ. 24. Cancer pain. The Management of Pain, 2nd ed, 1990; pp400-60
8)
Baines M, Kirkham SR. 2.D.1 Carcinoma involving bone and soft tissue. Wall PD & Melzack R eds. Textbook of Pain, Churchl Livingstone 1984; pp453-9
9)
Eisenberg E, Carr DB, Chalmers TC. Neurolytic celiac plexus block for treatment of cancer pain; A metaanalsis. Anesth Analg 1995; 80: 290-5
10)
Rykowski JJ, Hilger M. Efficacy of neurolytic celiac plexus block in varying location of pancreatic cancer. Anesthesiology 2000; 92: 347-54
11)
De Leon-Casasola A, Kent E, Lema MJ. Neurolytic superior hypogastric plexus block for chronic pelvic painassocisted with cancer. Pain 1993; 54: 145-51
12)
Plancarte R, De Leon-Casasola OA, EL-Helaly M, et al. Neurolytic superior hypogastric plexus block for chronic pelvic pain associsted with cancer. Reg Anesth 1997; 22: 562-8
13)
井関雅子, 宮崎東洋. 経椎間板的上下腹神経叢ブロックの手技と除痛効果. ペインクリニック 1997; 18: 197-204
14)
Dupen SL. Epidural techniques for cancer pain management: when, why and how? Curr Rev Pain 1999; 3: 183-9
15)
Panchal SJ. Intrathecal Pumps. Tech Reg. Anesth Pain Manage 2000; 4: 137-42
16)
Dougherty PM, Staats PS. Intrathecal drug therapy for chronic pain. Anesthesiology 1999; 91: 1891-918
17)
Cousins MJ, Suellen MW. Neural blockade and pain management. Mitchell M eds. Pain 1999. An update review. Seattle, IASP Press, 1999; pp289-91

目次にもどる