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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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2章 背景知識
8 薬物療法以外の疼痛治療法
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放射線治療
 本項は日本放射線腫瘍学会に依頼して作成したものである。
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代表的ながん疼痛治療に対する放射線治療
1. 有痛性骨転移に対する放射線治療
1)有痛性骨転移の機序と基本的な考え方
 骨転移は、がん疼痛の代表的なものであり、患者のQOLに大きく影響する。その頻度は原疾患により異なるが、例えば肺がん・乳がん・前立腺がんの患者ではその全経過中に高頻度で骨転移を有するようになると報告されている。
 骨転移による痛みの発生機序については十分に解明されているとはいえないが、全体像としては以下のように捉えられる。
 骨転移が成立する過程は、①原発巣から腫瘍細胞が遊離し血管内へ移動する、②腫瘍細胞が血流中で生き残る、③腫瘍細胞が血管から組織へ浸潤し、骨へ定着して微小転移巣を形成する、④転移巣で血管新生が起こり、腫瘍増大して骨融解を引き起こす、というように大別できる。細胞の遊離や移動にはカドヘリンなどの接着因子の機能状態、ケモカイン(白血球を遊走させるサイトカイン、白血球遊走因子)、低酸素や酸性環境、細胞形態の変化などの役割が大きい。骨転移巣の特徴の一つは、炎症時に見られるマクロファージや破骨細胞などの間質細胞間のシグナル伝達が、腫瘍細胞によっても引き出される点である。よって転移巣は炎症と同様に、骨の融解と造骨のいずれをももたらしうるが、破壊的骨融解に終わることが多い。PTH-rPは腫瘍細胞そのものが分泌し破骨細胞の活性を高める。
 腫瘍組織そのものは無痛である。骨転移巣がもたらす痛みは、まず影響を受けた骨に由来する痛みと巻き込まれた周辺の神経の痛みとに大別できる。前者は腫瘍細胞による発痛物質や、骨の内圧の上昇や骨の機械的強度の低下による骨内や骨膜にある感覚神経の終末装置への刺激による痛みであり、後者は腫瘍の直接神経根などへの浸潤・圧迫で生じる痛みと整理できる。しかしこれらの痛みを明確に区分できないことも多い。
 放射線治療による鎮痛効果の機序は十分に解明されているわけではないが、上記の骨転移痛発生のさまざまな段階に働きかけているものと考えられる。
2)有痛性骨転移に対する外照射
 有痛性骨転移に対する外照射は、緩和的放射線治療のなかでは最もエビデンスの得られている領域である。疼痛治療という観点での有効率は、原疾患にもよるが、60〜90%である。鎮痛効果は、照射開始後2週程度から出現し、4〜8週で最大になると考えられている。そのため、2週〜1カ月を超える予後が期待されない症例は治療の適応とならない可能性が高い。
 標準的とされているのは1回3Gyを10回、2週間で治療する方法(30Gy/10回/2週)であるが、鎮痛目的の放射線治療としては、8Gy/1回、12Gy/2回、20〜24Gy/4〜6回など数多くの線量分割法の報告があるが、鎮痛効果という点ではほぼ同等と考えられる。しかし、欧米などの無作為化比較試験などで8Gy 1回照射の疼痛再燃率や骨折のリスクは従来法より高いという報告もある。また、1回線量を多くした場合には、治療部位や治療範囲の大きさによっては副作用が大きくなる可能性が高い。実際の線量分割法を決定するにはこれらの要因を総合的に判断する必要がある。なお、緩和ケアの領域では患者の自己決定の尊重という観点も重要である。がんの病状の進行に伴って、痛みの明らかな原因となる骨転移が複数個所に及ぶ場合がある。このような場合、同時に何部位までの放射線治療を行えるかについては明らかな根拠はない。ただ、治療部位数が多くなれば結果として照射範囲が大きくなり全身への影響が出やすくなることや、1回の治療に時間がかかり体位保持が困難になりやすいことなどのデメリットもある。現行の保険診療では1回に2 部位までしか認められていないという現実もふまえて、放射線治療部門と十分に相談し患者個々に応じた判断をする必要がある。
 また、一度放射線治療を施行した脊髄などの重要臓器が再度治療範囲に含まれてしまうような場合には、施設ごとに放射線脊髄症などの重篤な放射線障害のリスクに対する考え方に多少の違いはありうるが、現時点では数カ月以後の放射線障害の危険性を十分に考慮する必要がある。その上で、放射線脊髄症などの放射線障害について十分に説明がなされれば、治療を行うことも可能であるが、現状では障害発生も含めた説明同意書の作成などの配慮が不可欠である。放射線脊髄症などの放射線障害発生までの生存が見込めなければ同一部位再照射はより積極的な選択となりうるが、その場合でも障害発生リスクについての説明は必要である。
 有痛性骨転移の治療においては対象となる骨転移巣の性状を画像診断などで正確に評価することが不可欠である。対象となる骨転移巣の状態や期待される予後によっては、脊髄圧迫のリスクが高い病巣などの場合、照射目的として、鎮痛効果だけでなくある程度の局所制御も考慮することが好ましいと考えられる。また、末梢神経の圧迫や浸潤による神経障害を伴っている病変に対しては、放射線治療により鎮痛できる割合は40〜60%と低く報告されているので、鎮痛薬、鎮痛補助薬の使用や神経ブロックなどの他治療の併用を検討することも必要である。
 全身に広がった多発性骨転移で痛みの責任病巣を明確にできない場合は、半身照射という選択肢がある。骨髄抑制や消化器症状(嘔気・嘔吐・下痢)などの急性期有害事象(副作用)が比較的強く、補液や制吐薬の前投薬などの十分な全身管理が必要な治療法である。鎮痛薬の改良や種々の治療方法の導入によって、現在ではほとんど行われなくなっている。そのため適応については、放射線腫瘍医に十分に相談し検討したうえで、慎重に判断する必要がある。
3)有痛性骨転移に対するR(I 放射線同位元素)治療
 Sr-89はβ線という弱いエネルギーの放射線を出す物質で、骨転移巣の骨の改変に伴う再ミネラル化に伴って病巣に取り込まれ、治療効果を発現する。取り込まれたSr-89は病巣にとどまるため、有効期間は3カ月程度である。エネルギーが低いため、投与後数時間後には帰宅可能で外来にて使用可能である。有痛性骨転移の治療についてはいくつかの無作為化比較試験が報告され、外照射と同様の鎮痛効果が報告されている。
 本治療の適応を判断するにあたってはいくつかの点に留意することが必要である。第一に無作為化比較試験の対象疾患がほとんど乳がん・前立腺がんであることで、有効性が明確なのは乳がん・前立腺がんの多発性造骨性病変という特定の病態である。しかし、本治療が治療戦略の主力として期待されるべき広汎な骨転移では効果が低かったという報告もある。第二に腫瘤を形成するような骨転移巣や骨折のリスクの高い溶骨性変化を示す病変に対しては外照射のように脊髄圧迫症候群や骨折を回避するだけの効果は期待できないことである。
 半身照射同様、骨髄抑制が重要な副作用である。すでに凝固系に異常を来しているような場合や、化学療法などの影響で骨髄抑制のリスクを有している場合は適応とならない。また、投与された放射性同位元素は体内に留まるため、骨髄抑制の回復には場合によっては数カ月を要する。そのため、化学療法や放射線治療が施行可能な場合には時期を慎重に検討する必要がある。特徴的な副作用としてはフレア現象と呼ばれる投与後の一過性の疼痛増悪で、20%前後に認められるので、患者への説明および十分な鎮痛薬の調整が必要である。
 有痛性骨転移に対するR(I放射線同位元素)治療としてはI-131による甲状腺がん骨転移の治療が古くから行われている。この治療は、I-131 が放出するγ線の透過力が比較的強くて投与量が多いため、患者の体内および排泄物などの放射能レベルが低下するまで特殊病棟への入院を必要とする。そのため施行可能な施設がかなり限られている。
2. 脳転移に対する放射線治療
 脳転移は頭痛以外にもめまい、嘔気・嘔吐、種々の神経障害などを引き起こす。放射線治療はこれらの症状の緩和に用いられる。通常は25Gy〜30Gy/8〜10回程度の外照射を行う。治療範囲は、疾患・病変の数と局在部位などによって決定し、線量も病状などによって増減する。脳以外の病変が制御されていて全身状態が良好な単発または3個程度までの脳転移に対しては外科的切除や定位放射線治療などの局所治療が組み合わされる場合もある。
3. その他のがん疼痛に対する放射線治療
 原発巣か転移巣かを問わず、痛みの責任病巣が局在する腫瘍として同定されれば、患者の全身状態が可能な限り放射線治療の適応となる。線量分割方法としては、30Gy/10 回前後が多いが、局所制御を得ることが好ましいと判断されれば50Gy/25回など根治的放射線治療と同様の治療を行う場合もある。体表に近い病変などでは、密封小線源治療の良い適応となる場合もある。
(日本放射線腫瘍学会 清水わか子)

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