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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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2章 背景知識
8 薬物療法以外の疼痛治療法
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放射線治療
 本項は日本放射線腫瘍学会に依頼して作成したものである。
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がん疼痛治療における放射線治療概論
1. 疼痛治療における放射線治療の基本的な考え方
 放射線治療は多くのがんに伴う局所の症状の改善に有効な手段である。放射線治療においては、治癒を目的とする「根治的」治療から、術後などに用いられる「予防的」治療、症状制御を目的とする「緩和的」治療などいろいろな目的の設定が可能である。
 この「緩和的」放射線治療の分野において、多くの疼痛緩和に対して放射線治療が有効であるが、有痛性骨転移を除き無作為化比較試験などエビデンスレベルの高い臨床研究は少ない。この理由として、臨床においては治療手段や治療目標が患者の病状や全身状態、心理社会的条件によって大きく変化するために「標準的治療」の確立が極めて困難であることが大きな要因である。
 がん疼痛治療における放射線治療としては、有痛性骨転移に対する有効性が最もよく知られているが、それ以外にも、痛みの原因が局所の腫瘍による場合は放射線治療の適応となる可能性がある。具体的には脳転移による頭痛、神経や軟部組織への腫瘍の浸潤に伴う痛み、腫瘍による管腔臓器の狭窄や閉塞に伴う痛みなどが挙げられる。これらの痛みについては責任病巣が明確であれば、放射線治療の適応となる。また、単発の骨転移は2〜3%と比較的まれではあるが、根治的治療例も報告されている。
 近年、悪性疾患の診断・治療の早い段階からの緩和ケアの導入が望まれているが、放射線治療は疼痛緩和のみならず根治的治療としても極めて有用である。したがって、最適な放射線治療を行うためには、個々の痛みに対して責任病巣を画像診断的に正確に把握し、病状や他治療との組み合わせなども考慮することが重要である。放射線治療の治療範囲やあてる放射線の量(線量/分割)の設定は、治療に対して期待される効果や患者の病状などによってさまざまである。病状が進行し、放射線治療の効果にかかわらず予後が短いと考えられる場合には、有痛性骨転移の1回照射のように短期間で終了し、有害事象(副作用)が比較的起こりにくい治療法の選択が望ましい。また、放射線治療の対象となる腫瘍が大きい場合には痛みの原因となる部分だけの照射にとどめて全身状態への負担を軽減するようなことも検討する必要がある。
 痛みの責任病巣の局所制御により予後の改善が期待される場合や、比較的長期生存が期待される場合には根治的な放射線治療が必要とされる。この場合は、総線量が多く治療期間も長い治療が選択され、治療範囲も可及的に病巣を十分にカバーするように設定される。
 さらに、放射線治療による症状の改善によって患者の状態が好転した場合や、局所制御目的の治療中に何らかの原因で全身状態が悪化した場合には、治療目標の再設定とそれに伴う治療法の変更が必要である。
2. 放射線治療の種類
 放射線治療の種類について述べる前に、しばしば混同されるIVR(interventional radiology)との違いについて明らかにしておく。IVRとは、治療手技そのものに画像診断の介入が必要なものを指す。この場合のradiologyとは画像診断のことである。IVRの代表例である肝臓の経カテーテル動脈塞栓療法(transcatheter arterial embolization;TAE)の場合、治療手技は塞栓物質による動脈の血流遮断であるが、そのために血管造影が必要である。有痛性骨転移治療の領域で知られている経皮的骨形成術では骨セメントの注入に、X線やCTによる透視が必要となる。これに対して、放射線治療というのは、治療手段そのものが「放射線」であり、何らかの方法で人体・組織に与えられた放射線が腫瘍組織や細胞に影響して、治療効果を得る。両者は本質的に全く異なるものである。
 放射線治療の手段としては、いくつかの種類がある。一概に治療手段別に適応を限ることはできないが、治療の適応や治療装置のある他病院・施設への紹介を考える場合にはそれぞれの特徴を理解しておく必要がある。
1)外照射(体外照射)
 一般的に放射線治療という場合、体の外から放射線をあてる体外照射(以下、外照射)を指すことが多い。リニアック(高エネルギー放射線治療装置)・ガンマナイフ®・サイバーナイフ®などというのは制御系などの機械的な特性の異なる装置名であって、外照射であるという点においては同じである。また、リニアック装置に特殊な機能を付加することによって放射線の集中性を非常に高めた、定位放射線治療(SRT)、強度変調放射線治療(IMRT)や臓器などの位置移動などを画像上で確認して治療位置の調整を行う画像誘導放射線治療(IGRT)といったものもあるが、いずれも外照射の一種である。
 この外照射においては、患者には治療中や治療計画(治療のやり方を決めるための画像検査など)にかかる数〜十数分(場合によっては数十分)の間、一定の体位を保持することが求められる。場合によっては、固定具などを作成する。がん疼痛治療においては、この体位保持が困難な場合が多く、鎮痛薬との併用を適切に検討することが必要である。
 前出のガンマナイフ®、サイバーナイフ®、SRT、IMRTおよびIGRTには治療範囲を極めて限局し、周辺臓器への影響を少なくした治療が行えるという利点がある。一方で、通常の治療よりも長時間にわたって十分な体位保持が必要であること、比較的高額の医療費がかかり保険適用のない場合も多いこと、施行できる施設に限りがあることなどの欠点もある。患者の社会的状況や放射線治療の目標に見合った手段の選択が必要である。
 さらに、陽子線治療・粒子線治療などの先端的な装置による体外照射も存在するが、根治的治療が目標となるような場合を除いては、がん疼痛治療としては一般的ではない。
2)密封小線源治療
 Ir-192(イリジウム)、Cs-137(セシウム)、Co-60(コバルト)などの放射線同位元素を含有した金属製の針や粒などを治療したい部位に留置あるいは刺入することで、局所的な放射線治療を行う方法である。非常にエネルギーの低い放射線を出す放射線同位元素を用いるため、放射線の影響を受ける範囲が限局されるという利点がある。近年普及してきたIr-192(イリジウム)による高線量率組織内照射装置の場合、1〜数cm程度の小さな病巣の場合には数十分の治療1回で腫瘍を縮小して鎮痛効果を得ることも可能である。しかし、放射性物質の管理上の問題や比較的特殊な治療技術であるために行える放射線腫瘍医(radiation oncologist)や施設が極めて限定されるという問題がある。また、症例によっては入院や全身麻酔が必要な場合があることや、多少観血的で侵襲性を伴うことも考慮しなくてはならない。
3)非密封小線源治療(内照射)
 放射性同位元素を含んだ内用剤〔I-131(ヨード)〕や注射剤〔Sr-89(ストロンチウム)〕を投与し、体内に入った放射性同位元素が一定の機序によって病巣に集積することで、放射線治療を行う方法である。使用される放射性同位元素の発生する放射線のエネルギーや半減期によって、外来での治療の可否や排泄物などの処理への配慮が異なってくるので詳細については各施設の核医学の専門家や放射線腫瘍医などに確認することが必要である。なお、比較的非侵襲的な治療法と考えられるが、現時点では臨床データの蓄積段階でもあるので、適応については十分に検討し、治療後は全身的な影響に関する経過観察が必要である。

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