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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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2章 背景知識
7 がん疼痛マネジメントを改善するための組織的な取り組み
 がん疼痛マネジメントを改善するためには、基本的な知識や技術に加えて、それらを効果的に活用できるような組織的な取り組みを行うことも重要である。本項では、がん疼痛マネジメントを改善するための組織的な取り組みに関する系統的レビューの結果を中心に要約する。また地域への介入についても取り上げる。
がん疼痛マネジメント
適切で効果的な疼痛緩和を行うために、患者の体験に焦点をあてた包括的評価、痛みの治療やケア(薬物療法、その他の治療、非薬物療法、ケア)および、継続的な評価を含めた多職種で行う過程である。
1. 医療従事者への教育
 がん疼痛マネジメントやオピオイドに関して、①多くの医師はがん疼痛マネジメントの重要性を認識しているが、自分の知識や技術が不足していると感じている、②医師は高用量のオピオイドの使用やオピオイドの副作用に不安をもっている、③系統的な疼痛アセスメントの手段を用いている医師は非常に少ない、④適切な副作用対策を行っている医師は少ない、ことが明らかになっており、がん患者の疼痛マネジメントの改善には、医療従事者への教育が重要であると思われる。1980年代以降、がん疼痛マネジメントに関する教育への関心が高まり、内科・外科の腫瘍学テキストや医学雑誌でも、がん疼痛が幅広く取り扱われるようになった。全国規模や地域で疼痛マネジメントの教育コースも開催され、医学生や研修医の教育プログラム、看護系教育にも疼痛マネジメントが取り入れられることが増えている。
 教育の効果に関する研究では、例えば、米国の医師20名、看護師38名、患者105名を対象に無作為化比較試験が行われ、介入群の医療従事者に対して5時間のカリキュラムが1回実施された。4カ月後、介入群の医療従事者から治療を受けた患者では、痛みのNRSの平均値が対照群の患者と比べ改善した(3.6→2.8vs3.0→3.0, p=0.05)。しかし医療従事者がカリキュラムを受けてから140日を過ぎるとその改善効果は減少した。
 また、米国の在宅看護師336名、患者673名を対象とした無作為化比較試験では、看護師を3群に分け、基本介入群にはe-mailを使用して、個々の患者に推奨される疼痛マネジメントに関する情報提供が行われた。拡大介入群にはe-mailに加えて、疼痛アセスメントの情報が書かれたポケットカードなどが提供された。対照群には新たな情報提供は行われず、これまでと同じように患者ケアを行った。介入前の患者の痛みのNRSは3群ともほぼ同レベルであった(5.3〜5.4)。45日後、痛みの最大値は、対照群4.5、基本介入群3.6、拡大介入群3.3となり、対照群と拡大介入群で有意差を認めた(p=0.03)。痛みの平均値は、対照群3.7、基本介入群2.2、拡大介入群3.1で、対照群と基本介入群で有意差を認めた(p=0.05)。
 その他、看護師を対象に、 1時間だけの講義から3時間のセッションを8週間行うものなど、さまざまな方法が試みられている。その結果、痛みや鎮痛薬処方に関する看護師の知識が増え誤解が減っているが、患者の痛みを改善し満足度を高める効果は証明されていない。医師だけを対象とした教育に関する研究はほとんどない。
 以上より、医師や看護師への教育は患者の痛みを緩和する一定の効果がある可能性があるが、どのような医療従事者を対象にどのような教育を行うことが、有効であるかについての十分なエビデンスはない。
NRS(numerical rating scale)
痛みを0から10の11段階に分け、痛みが全くないのを0、考えられるなかで最悪の痛みを10として、痛みの点数を問うもの。P26参照。
2. がん疼痛アセスメントのルーチン業務化
 適切な疼痛マネジメントを行うためには、まず患者の痛みを適切に認識し評価することが必要である。そこで、標準化した疼痛アセスメントを施設のルーチン業務として行い、疼痛マネジメントの改善を図ることが試みられている。
 例えば、痛みを5番目のバイタルサインとして捉えて、ベッドサイドチャートにグラフで記入する方法、標準化した疼痛アセスメント用紙や疼痛管理シートを使用する方法、教育セッションとアセスメントツールを組み合わせる方法、施設規模での学際的多職種チームで介入する方法などが行われている。本邦では、電子カルテに痛みを取り入れることで病院内の痛みのある患者をスクリーニングするシステムが試みられている。
 こうした方法により、痛みの発見や記録方法について改善を得ることができる。また、疼痛マネジメントに関する患者と医療従事者の満足度を高め、鎮痛薬の適切な処方につながる場合もある。しかし、患者の痛みそのものを改善することは証明されていない。
3. がん疼痛治療の監査(audit)と医療従事者へのフィードバック
 看護師や医師を含む多職種チームによる臨床行為の監査と実際に治療を担当している医療従事者へのフィードバックにより、術後患者の痛みの発見が早くなり、疼痛マネジメントが改善することが報告されている。がん患者を対象としたものでは、看護師や患者への教育、疼痛アセスメント、患者の満足度などを組み合わせて監査し、看護師にフィードバックする方法などが行われている。
 その結果、看護師の疼痛アセスメントの頻度が増え、看護師や患者の満足度を上げる可能性が示唆されている。しかし、患者の痛みの改善を示せた報告はない。
4. コンピューターを用いた診療支援システム(computerized decision support system;CDSS)
 コンピューターを用いた診療支援システムを用い、鎮痛薬の処方開始時期、薬剤の増量や変更、消化器症状への処方などのアドバイスを行うことで、医師の適切な薬剤処方を増やし、副作用を防ぐことが期待されている。しかし、CDSSを用いたこれまでの研究では、患者の痛みを改善する結果は得られていない。その理由として、CDSSでは自動的に薬剤が処方されるのではなく医師が最終的に処方を決定することや、対象患者が少数であったことなどが挙げられ、がん疼痛マネジメントにおけるCDSS の効果は、今のところ不明である。
5. 専門家、専門チームへの相談
 がん疼痛マネジメントの良し悪しは、患者を診療する医師の専門性や技量にも左右される。すなわち、痛みなどの症状マネジメントの訓練を受けた専門家やチームに相談することは、がん患者の疼痛マネジメントの有効な方法の一つと思われる。
 19の研究を対象としたメタアナリシスでは、緩和ケアチームの関わりにより、患者の痛みの軽減(オッズ比:0.38)や他の症状の改善(オッズ比:0.51)が有意にみられ、患者の満足度の向上や疼痛マネジメントの改善が認められる傾向がある。また家族の満足度が向上することも報告されている。
メタアナリシス
あるテーマについて、過去に独立して行われた複数の臨床研究を系統的に収集し、データを統合・解析する統計的手法。
6. 地域に対する介入
 米国ミネソタ州では、地域のオピニオンリーダーとなる医師と看護師が2日間の疼痛マネジメントに関する教育を受けた後、実行部隊(task force)として地域での啓発活動を15カ月間行った。対照群地域と比較して患者の痛みの出現率や疼痛治療の適切さを示す指標は改善する傾向がみられたが、痛みの強さは改善しなかった。
 ドイツのブレーメンでは、地域の医師、薬剤師、看護師、がん患者や家族、公共機関を対象に、がん疼痛について啓発活動が2年間行われ、その前後でのオピオイドの処方状況が検討された。介入地域と対照地域ともに、オピオイド処方を受けた患者数は著変なかったが(19.1%→19.4% vs 15.9%→16.2%)、オピオイドの総処方量は介入地域で著増した(210%増 vs 20%増)。しかしこの増加は、以前より高用量の処方を行っていた医師の処方量が増加したものであり、地域全体の改善につながったとはいえないと結論している。
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 以上のように、組織的な取り組みによりがん疼痛マネジメントを改善しようとする試みはいくつかあるが、今までのところ、いずれの方法も十分なエビデンスをもっているとはいえない。これまでに行われた研究の多くは、①サンプルサイズやサンプル選択が不適切である、②観察期間や追跡調査が不十分である、③痛みの原因やタイプを分析していない、④アウトカムとして痛みの強さが評価されていない、などの欠点をもっている。無作為化比較試験もほとんど行われていない。
 がん患者の疼痛マネジメントを改善するためには、個々の診療技術の向上とともに、本邦の医療現場に合った組織的な取り組み方法を開発し、検証していくことが期待される。
(西岡弘晶)
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