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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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2章 背景知識
6 患者のオピオイドについての認識
1
患者はオピオイドをどうとらえているか
この項では患者のオピオイドの認識や懸念を取り扱うため、欧米の研究におけるaddictionをより患者の表現に近い「麻薬中毒」と表現する。ただし医学的な術語についてはP55を参照。
1. オピオイドに対する患者の心配は何か
1)海外における患者のオピオイドについての認識
 がん患者はオピオイドの使用をためらうことが少なくない。患者の躊躇に関係した認識として、「麻薬中毒」になる心配、「徐々に効かなくなる」ことへの心配、鎮痛薬の「副作用が強い」ことへの心配、痛みが疾患の進行を予期させることによる不安、「医師は痛みについての話をよく思わない」との考えなどが挙げられる。患者がオピオイドの使用を躊躇する要因(barrier)を定量的に測定する手段として最もよく用いられるBarrier Questionnaireでは、患者がオピオイドの使用をためらう要因として8つの項目が抽出されている(表1)。
 終末期がん患者988例を対象とした、痛みに関する治療についての米国の大規模調査で
表1 Barrier Questionnaire 8項目
  1. 精神依存(「麻薬中毒」)になる。
  2. 徐々に効果がなくなる。
  3. 副作用が強い。
  4. 痛みは病気の進行を示す。
  5. 注射がこわい。
  6. 痛みを治療しても和らげることができない。
  7. 痛みを訴えない患者は「良い患者」であり、良い患者でいたい。
  8. 医療従事者は痛みの話をすることを好まない。
は、がん患者の約半数が中等度以上の強い痛みを体験していたが、疼痛治療をさらに求めていたのは約30%にすぎなかった。その理由には、「麻薬中毒の心配」が約40%、「オピオイドの副作用の心配」が約30%などが挙げられ、疼痛治療では、単に痛みを緩和するだけでなく、患者のオピオイドについての誤解に働きかけることや、オピオイドの副作用と鎮痛効果のバランスに配慮することが重要であると結論している。また、実際に「いま」痛みを体験しており、オピオイドを使用する選択肢を初めて提示された患者18例を対象とした質的研究では、「モルヒネは最後の手段である」、「モルヒネの使用により痛みは取れるが、体が動かなくなることで生活ができなくなり死を早める」と認識している患者が多かった。そのような認識の理由として、「死亡した家族や友人の経験」や「人から聞いた話」、「医師からの説明」が挙げられた。一方、患者は、オピオイドについて「少量から始めて、体に合わなければやめてもいい」と説明されることで、よりオピオイドを受け入れやすくなると述べていた。また、「麻薬中毒」や「徐々に効果がなくなる」ことへの心配を挙げた患者は少なかったことから、「いま」痛みを体験している患者におけるオピオイドの使用の主要なバリアは、オピオイドが「死に向かう過程を安楽に過ごすためだけの手段」と思われることであると指摘している。
 以上より、海外の先行研究では、がん患者はオピオイドに対して、 ①「麻薬中毒になる」といった誤解をもっているため、誤解に対する説明が必要であること、②鎮痛効果とバランスの取れた副作用対策に配慮すること、および③「最後の手段」といった、死を連想させることに対する配慮が重要であることが示唆される。
2)日本における患者のオピオイドについての認識
 患者のオピオイドについての認識に関して、日本でもいくつかの研究が行われている。
 Moritaらの一般人口5,000 名を対象とした全国調査では、約30%が「モルヒネは中毒になる」、「モルヒネは寿命を縮める」といったオピオイドについての「誤解」をもっていた。
 近藤らは、がん疼痛のためモルヒネを経口投与している外来通院患者32例を対象として、Barriers Questionnaireを用いた調査を行った。モルヒネに関する心配として頻度が高かったのは、「病気の進行への心配(「痛みがあるのは病気が重くなっているためである」など)」、「耐性の心配(「痛みが強くなった時に効かなくなる」など)」、「習慣性の心配(「痛み止めの薬は習慣性が起こるので危ない」など)」であった。
 Moritaらは、緩和ケア病棟に入院中にモルヒネを開始したがん患者50例を対象としてモルヒネに関する心配を同定したところ、「精神症状の副作用がある」、「寿命を縮める」、「麻薬中毒になる」との心配が約40%に認められ、心配の数はオピオイドを開始するかどうかの意思決定に関係していた。
 吉田は、がん疼痛で鎮痛薬を使用している49例の患者を対象に面接調査を行った。その結果、患者は「痛みのコントロールに対する不満」をもっているが、「医療者に何もしてもらえないため痛みを訴えても無駄」と感じており、さらに、鎮痛薬の使用に関して「依存性に対する懸念」、「副作用への不安」をもっていた。
 以上より、海外の研究と同様に、本邦においても、がん患者はオピオイドに対して、(1)「麻薬中毒になる」、「寿命を縮める」といった誤解をもっているため、誤解に対する説明が必要であること、(2)鎮痛とバランスの取れた副作用、特に眠気などの精神症状に配慮すること、および(3)「 最後の手段」といった死を連想させることに対する配慮が重要であることが示唆される。
3)オピオイドに対する認識のまとめ
 表2にオピオイドに対する患者の認識と臨床的対応をまとめた。がん患者がもつオピオイドの認識として、医学的事実と一致しない「誤解」(「麻薬中毒になる」、「寿命が縮まる」、「徐々に効果がなくなる」など)がある場合には、その認識に至った患者個々の背景などを十分に把握したうえで、がん疼痛やオピオイドについての情報を提供していく必要がある。
 また、患者は痛みが取れることだけを希望しているわけではなく、「バランスの取れた疼痛治療」を希望していることを念頭に、副作用への配慮や対策を十分に行うことが必要である。 さらに、オピオイドが最後の手段や死を連想させることによる不安に対しては、疼痛治療を行うことは単に「楽になる」だけではなく、「いまできないことができるようになること」を伝えることや、「いったん始めても、具合が悪ければ相談してやめてもよいこと」、死の不安を念頭に置いた精神的なサポート(否認への配慮)が必要になる。
表2 オピオイドに対する患者の認識と臨床的対応
患者の認識 臨床的対応
「麻薬中毒になる」、
「寿命を縮める」などの誤解
  • 誤解に対する患者の考えを把握する
  • 上記をもとに、オピオイドに関する説明を行う
副作用への心配
  • 鎮痛効果とバランスの取れた副作用対策を行う
  • 精神症状に配慮する
「最後の手段」など、
死を連想させること
  • 「 楽になる」だけではなく、オピオイドを使用することで「できないことができる」ようになることを伝える
  • 死の不安に対する精神的サポートを提供する
【参考文献】
1)
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Morita T, Tsunoda J, Inoue S, et al. Concerns of Japanese hospice inpatients about morphine therapy as a factor in pain management: a pilot study. J Palliat Care 2000; 16: 54-8
8)
吉田みつ子. 痛みのある癌患者の日常生活の安寧感と痛みのコントロール. 日本看護学会誌 1997; 17(4): 56-63

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